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投稿 10秒、人生 10年…冗談のつもりだった

作者: 徒然生成

✦投稿10秒、人生10年

 ――冗談のつもりだった


………


 スマートフォンは、

 いつもと同じ重さだった。

 遠い国の出来事が、

 日本の通知欄に流れ込む時代になっていた。


 その国で起きたことが、

 20年後の自分の話になるとは

 思っていなかった。


………


★目次


■第一章 10秒

■第二章 アメリカの現在

■第三章 通知

■第四章 点数

■第五章 記録

■第六章 家族

■最終章 20年後の日本


………


■第一章 10秒


 画面の下に、青いボタンがある。

 「投稿する」。


 18歳の僕には、

 それが危険な行為には見えなかった。

 冗談のつもりだった。


 10秒、数を数えて、押した。

 世界は何も変わらなかった。

 少なくとも、そのときは。


 僕は注目されたかった。

 有名になりたかった。

 自分の怒りを、誰かに見てほしかった。


 この自分の思いが、

 人生スコアの最低ランクになってしまうとは、

 そのときは思っていなかった。


 「言葉は一度放たれたら、

  持ち主の手には戻らない。」


■第二章 アメリカの現在


 その夜、ニュースを見ていた。

 海外ニュースは、だいたい音を消して流している。


 画面の下に、数字が出た。

 「1週間で、未成年700人以上が逮捕」


 理由は、学校への犯行予告。

 SNSに投稿しただけだった。


 銃の写真。

 学校名。

 「明日やる」という1文。


 実行されていなくても、重罪。

 名前と顔が公表された子どももいるという。


 その1割は、12歳以下。

 小学生だった。


 保安官はインタビューで言っていた。


 「これは悪ふざけではすまされない。

  1件あたり、捜査費は21,000ドルも

  かかってるんだ。

  当たり前だが、親にも払ってもらう」


 コメント欄は荒れていた。


 「やりすぎだ」

 「当然だ」


 アメリカでは、

 SNSでの炎上を、国家が利用し始めている。


 会見動画は切り抜かれ、拡散される。

 強い言葉ほど、バズる。


 それ自体が、

 「やったらこうなる」という教材になる。


 公開羞恥(Public Shaming)。

 あえて人前にさらすことで、次を止める。


 親は、刑事責任、民事責任、捜査費用請求。

 「知らなかった」は、免罪にならない。


 僕は、スマートフォンを置いた。

 遠い国の話だと思った。

 そのときは。


 「暴力とは、人を殴ることではない。

  その人の選択肢を奪うことに他ならない。」


■第三章 通知


 翌日の午後4時12分。

 僕のスマートフォンに通知が届いた。


 ――安全確認のため、

   あなたの一部機能を制限しています。


 短くて、丁寧だった。

 だけど、感情は、全くなかった。


 20年後の日本社会でも、

 AIは逮捕を決定しない。


 でも、

 SNS送信は、捜査開始のトリガーになる。

 人間を動かす、静かなスイッチとして。


 SNS企業は、警察に逆らえない。

 ログ、IPアドレス、位置情報、

 削除前の投稿履歴。


 裁判所命令なしでの提出は、

 すでに日常になっていた。


 恐怖は、人間社会に秩序を作る…


 僕はその代償が、

 言葉から始まるとは思ってもみなかった。


■第四章 点数


 担任は、困ったように言った。

 「君の公共信頼指数が下がっている」


 2040年導入。

 満点1,000点。

 大学推薦には、750点以上。

 僕の数字は、690。

 理由は、表示されなかった。


 削除ボタンは、

 引き金より遅い。


 国民の命を守るために、

 子どもの人生をさらす社会が、

 知らない間に完成していた。


 僕はなぜあの時、

 投稿したのだろう? 

 

 いつでも消せると思った

 あの投稿が

 僕の「スコア」になった。


 言葉は矢に似ている。

 放てば、的に当たるまで止まらない。


■第五章 記録 


 奨学金の事前審査が停止された。


 投稿履歴は、削除できなかった。

 「削除は、記録保持違反になります」

 規約には、そう書いてあった。


 成人前でも、前科相当の烙印。

 1度の冗談が、

 進学と未来に直結する。


 担任は言った。


 「裁判は、まだだね。

 でも、君の記録は一生残るんだ」


 アメリカの700人が、

 頭をよぎった。


 「10秒で世界に届いた言葉は、

  10年かけて人生に返ってくる。」


■第六章 家族


 夕食の席で、67歳のじいちゃんが言った。


 「アメリカはな、

  日本より先にやっとるだけじゃ」


 「銃がある国は、冗談を許せん。

  銃がない国は、静かにその真似をする」


 SNSは、

 事後対応ではなく、事前警察装置になった。


 投稿した瞬間に、

 捜査は始まる。


 アメリカでは、

 2020年以降、

 毎年600件以上の銃乱射事件が起きている。


 見逃した結果、

 多くの子どもが死んだ。

 だから、冗談を許さない。


 それが、彼らの選んだ合理性だった。

 僕は、何も言えなかった。


■最終章 20年後の日本


 今のアメリカでは、

 民間、学校、警察、AIが、

 本人の同意なしに連結している。

 即、現実の制裁が下る。


 一方、日本では、

 人権配慮と個別指導が、

 1段階だけ遅れて作用する。

 我が国に銃はない。

 でも、言葉は危険物になった。


 「それはコンプラ違反です!」

 

 これは、厳しすぎる正義であり、

 壊れかけた社会が選んだ、最後の防波堤だ。


 僕が父親になる頃、

 子どもの投稿は10秒。

 スコアが戻るまで、10年。


 ボタンを見るとき、

 僕はきっと思い出す。

 2025年に逮捕された、

 アメリカの700人の子どもを。


■あとがき


 日本とアメリカの違いを、

 もう一度整理しておく。


 ✲「日本」✲


 バズりたい、悪ふざけ

 →企業が損害を受け、民事訴訟

 =人生が壊れるのは、時間差


 ✲「アメリカ」✲


 バズりたい、悪ふざけ

 →公共への脅威と判断

 →即逮捕、即退学、即晒し

 =人生が壊れるのは、即日


 冗談が許されない理由はたった1つ。

 銃が、現実にあるからだ。


 この物語は、未来の空想ではない。

 遠い国の現在を、

 少し遅れてなぞる話だ。


 「何も投稿しない」という

 あなたの選択が、

 いちばん高いスコアになる日が

 もうそこまで来ている…


 もし、投稿ボタンの前で、

 一瞬でもあなたが立ち止まれたなら、

 それで、この物語は役目を果たす。

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