5歳の見習い魔女は旅に出る
この作品の中には、茨木様、桜沢 輝様からいただいたアイディアが含まれています。
お二方とも、ありがとうございます!
尚、この作品は「5歳の見習い魔女は謎の魔法を使う」の続編です。
よろしければ、そちらもお読みください。
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とある森の中の丸太小屋では、今日も見習い魔女ノアール(5歳)が忙しく働いていた。
「……よし、ジャギーさまのローブのシミ、これで取れたはず!」
ノアールは魔法薬の液に手を浸しながら、真剣な眼差しを向けた。その姿は、まるで老舗クリーニング店のプロ職人のようだった。
だが、ふと窓の外を見たノアールの表情が曇る。
「……ジャギーさま、もう何日も帰ってきてないわ。やっぱり、探しに行かないとダメかも」
部屋の隅には、前回の山賊事件のときに召喚(?)された『ちっちゃいオジさん』が、静かに体育座りしていた。
「オマエ、コロス……」
──それが彼の口癖、いや鳴き声なのかもしれない……。攻撃力は不明。サイズはおよそ10cm。服装はTシャツにふんどしという異常なバランスだが、ノアールはなぜかその存在に親しみを感じていた。
「……あの時の失敗魔法で、変なの出しちゃったと思ってたけど…… なんか親しみが湧くのよね。消そうとしても消えないし……」
ちっちゃいオジさんは、コマのようにクルクルと回っていた。
「よし! ジャギーさまを探す旅に出よう!」
ノアールは決意を胸に、旅支度を始めた。
魔法の杖、おやつのクッキー、空を飛べる箒、そして──
「一緒に来る? ちっちゃいオジさん」
「オマエ、コロス」
「うん、行こう!」
こうして、ノアールとちっちゃいオジさんの珍道中が幕を開けた。
◇
森を抜け、山を越え、ノアールが最初にたどり着いたのは「ソックール村」だった。
──異様だった。
村の入り口から入るやいなや、空気がぴたりと止まったように感じた。風が吹かない。鳥の声もしない。人の気配すら薄い。
「変な村……でも、まあ、休憩くらいならいいよね」
ノアールは、何も知らずに村の中へ入った。途中で出会った老婆が、弱々しい声で呼び止めてきた。
「お嬢ちゃん……ここは、呪われた村なんじゃ……逃げた方が……」
「え、呪い? どんな呪い?」
「足の親指の爪が早く伸びる呪いじゃ……」
(……え、何それ?)
「だから、村人たちの靴下はすぐに穴が空いてしまう……。新品でも1日、もたんのじゃ……」
(じ、地味に怖い……)
よく見ると、サンダルを履いた老婆の足の親指の爪は、左右どちらもおよそ5cmほどに伸びていた。
地面を歩いていたちっちゃいオジさんが、老婆の左足の親指の爪に躓いて転んだ。
「お、オマエ…… コロス……」
「ヒ、ヒィィイ」
老婆は、痛みのためなのか、それとも、ちっちゃいオジさんにビビったからなのか、白目を剥いて気絶した。
◇
ノアールは空き家のような小屋に入り、持参したクッキーを頬張っていた。
ちっちゃいオジさんは天井に逆さまに貼りついている。コウモリか。
そのとき、外から叫び声が上がった。
「村長が! 村長が靴下を破って倒れたぞーー!!」
「またか……今週三人目だ!!」
ノアールはクッキーをかじりながら、ぼんやりつぶやいた。
「……足の親指の爪が伸びすぎて靴下が破ける呪いだっけ? へんな呪い……でも、まあ、無関係よね。そういうのは、勇者に任せましょ」
「オマエ、コロス」
「うん、わたしもそう思う」
しかし──
ドゴォォォン!!
小屋の扉が爆音と共に吹き飛び、黒のローブをまとった男が現れた。目には隈、手には禍々しい杖、そして両足の靴下にでっかい穴。
「クックック……小娘か。我が呪いの範囲に入ってきたな」
「あ、あなた、誰!?」
「我が名はナゲーハ! 足の親指の爪を司る者!! お前の靴下も破れよォォ!」
「わー、変な人が……足の親指フェチなのかな」
「さあ我が呪いを受けよ! ネイル・チェーン!」
ナゲーハが掌から禍々しい光を放ち始めた。
「やられる前にやり返すわ! ダーク・パッション!」
パァン!!
ナゲーハの動きが止まり、禍々しい光が消えた。
「……ん? んんッ!? パ、パンツが……食い込んでいる!? なぜこのタイミングで!? こ、これは戦闘どころでは……」
ナゲーハは、ローブの上からでも分かるほど、パンツが食い込んでいた。
「あれ? また、失敗しちゃった……。じゃあ、次いくわよ! ダーク・セイレーン!」
ボフン!
「クククッ…… 何も起きないではないか? 今度こそ、食らえ! にぇイりゅ・チェーン!」
……噛んだ。
……肝心なところで噛んだ。
『肝心なところで噛む』
──それが、ダーク・セイレーンの効果だった。
ナゲーハは恥ずかしいのか、頬を赤らめている……。
「あれ? また失敗…… でも、アイツの呪文を封じたみたい。ふふ、呪文を唱えられない魔術師なんて、ただの靴下芸人よ!」
「ふ、ふじゃけるなぁぁ!! このニャゲーハ様の! ち、ちきゃ、力を、い、いまこそ──!!」
「今度こそ、成功して! ダーク・ビューティ!」
シュオォォォン!
その瞬間、ナゲーハの鼻の穴から──
ボボボボボボボボ……!!
とんでもない勢いで鼻毛が噴き出した。
「……な、なんじゃこりゃぁぁぁ!? うわっ! 見るな! 見るなーーーっ!!」
村人たちが集まってくる。
「うわ、何あれ……鼻毛……?」
「え、あの魔術師って鼻毛が長ぇんだっけ……?」
「しかもパンツ食い込んでない……?」
「う、うわあああああッ!!」
ナゲーハは、涙目になりながら、叫び声を上げた。
鼻毛ボーボー、パンツ食い込み、ろれつも回らない三重苦のナゲーハは、顔を真っ赤にして逃げ出した。
「み、み、みりゅにゃあああ…… ちゅ、次は……にゃいじょ!」
凄んでも全然恐くないセリフを吐き、ナゲーハは森の奥へ消えていった。
鼻毛をたなびかせながら……。
「……勝った? いや、なんか違う気がするけど、まあいいか」
「オマエ、コロス」
「うん、とりあえず良かったわ。靴下が無事で」
◇
その夜、ソックール村では祝宴が開かれ、ちっちゃいオジさんは「鼻毛マンを追い払った英雄」として、村の子どもたちからサイン攻めにあっていた。
ノアールは焚き火を見つめながら、ふとつぶやいた。
「……戦い方、間違えてる気がする……」
ノアールの旅は、まだまだ続く。
「ちっちゃいオジさん、『オマエ、コロス』はコンプラ的にまずいわ。わたしの魔法で違う鳴き声にしてあげる。えい!」
「オマエ……コロス……」
(あれ? 変わってない?)
「ケ……ナリ」
(うーん、『コロ○ケ』は著作権的にまずいわ……)
最後までお読みいただきありがとうございます。
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