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5歳の見習い魔女は旅に出る

作者: 多田 笑

この作品の中には、茨木様、桜沢 輝様からいただいたアイディアが含まれています。

お二方とも、ありがとうございます!


尚、この作品は「5歳の見習い魔女は謎の魔法を使う」の続編です。


よろしければ、そちらもお読みください。

https://ncode.syosetu.com/n6597kj/


 とある森の中の丸太小屋では、今日も見習い魔女ノアール(5歳)が忙しく働いていた。


「……よし、ジャギーさまのローブのシミ、これで取れたはず!」


ノアールは魔法薬の液に手を浸しながら、真剣な眼差しを向けた。その姿は、まるで老舗クリーニング店のプロ職人のようだった。


 だが、ふと窓の外を見たノアールの表情が曇る。


「……ジャギーさま、もう何日も帰ってきてないわ。やっぱり、探しに行かないとダメかも」


 部屋の隅には、前回の山賊事件のときに召喚(?)された『ちっちゃいオジさん』が、静かに体育座りしていた。


「オマエ、コロス……」


──それが彼の口癖、いや鳴き声なのかもしれない……。攻撃力は不明。サイズはおよそ10cm。服装はTシャツにふんどしという異常なバランスだが、ノアールはなぜかその存在に親しみを感じていた。


「……あの時の失敗魔法で、変なの出しちゃったと思ってたけど…… なんか親しみが湧くのよね。消そうとしても消えないし……」


 ちっちゃいオジさんは、コマのようにクルクルと回っていた。


「よし! ジャギーさまを探す旅に出よう!」


ノアールは決意を胸に、旅支度を始めた。


 魔法の杖、おやつのクッキー、空を飛べる箒、そして──


「一緒に来る? ちっちゃいオジさん」


「オマエ、コロス」


「うん、行こう!」


 こうして、ノアールとちっちゃいオジさんの珍道中が幕を開けた。



 森を抜け、山を越え、ノアールが最初にたどり着いたのは「ソックール村」だった。


──異様だった。


 村の入り口から入るやいなや、空気がぴたりと止まったように感じた。風が吹かない。鳥の声もしない。人の気配すら薄い。


「変な村……でも、まあ、休憩くらいならいいよね」


 ノアールは、何も知らずに村の中へ入った。途中で出会った老婆が、弱々しい声で呼び止めてきた。


「お嬢ちゃん……ここは、呪われた村なんじゃ……逃げた方が……」


「え、呪い? どんな呪い?」


「足の親指の爪が早く伸びる呪いじゃ……」


(……え、何それ?)


「だから、村人たちの靴下はすぐに穴が空いてしまう……。新品でも1日、もたんのじゃ……」


(じ、地味に怖い……)


 よく見ると、サンダルを履いた老婆の足の親指の爪は、左右どちらもおよそ5cmほどに伸びていた。


 地面を歩いていたちっちゃいオジさんが、老婆の左足の親指の爪に躓いて転んだ。


「お、オマエ…… コロス……」


「ヒ、ヒィィイ」


 老婆は、痛みのためなのか、それとも、ちっちゃいオジさんにビビったからなのか、白目を剥いて気絶した。



 ノアールは空き家のような小屋に入り、持参したクッキーを頬張っていた。


 ちっちゃいオジさんは天井に逆さまに貼りついている。コウモリか。


 そのとき、外から叫び声が上がった。


「村長が! 村長が靴下を破って倒れたぞーー!!」


「またか……今週三人目だ!!」


 ノアールはクッキーをかじりながら、ぼんやりつぶやいた。


「……足の親指の爪が伸びすぎて靴下が破ける呪いだっけ?  へんな呪い……でも、まあ、無関係よね。そういうのは、勇者に任せましょ」


「オマエ、コロス」


「うん、わたしもそう思う」


 しかし──


ドゴォォォン!!


 小屋の扉が爆音と共に吹き飛び、黒のローブをまとった男が現れた。目には隈、手には禍々しい杖、そして両足の靴下にでっかい穴。


「クックック……小娘か。我が呪いの範囲に入ってきたな」


「あ、あなた、誰!?」


「我が名はナゲーハ! 足の親指の爪を司る者!! お前の靴下も破れよォォ!」


「わー、変な人が……足の親指フェチなのかな」


「さあ我が呪いを受けよ! ネイル・チェーン!」


ナゲーハが掌から禍々しい光を放ち始めた。


「やられる前にやり返すわ! ダーク・パッション!」


パァン!!


ナゲーハの動きが止まり、禍々しい光が消えた。


「……ん?  んんッ!?  パ、パンツが……食い込んでいる!?  なぜこのタイミングで!? こ、これは戦闘どころでは……」


ナゲーハは、ローブの上からでも分かるほど、パンツが食い込んでいた。



「あれ? また、失敗しちゃった……。じゃあ、次いくわよ! ダーク・セイレーン!」


ボフン!


「クククッ…… 何も起きないではないか?  今度こそ、食らえ! にぇイりゅ・チェーン!」


……噛んだ。

……肝心なところで噛んだ。


『肝心なところで噛む』


──それが、ダーク・セイレーンの効果だった。


ナゲーハは恥ずかしいのか、頬を赤らめている……。


「あれ? また失敗…… でも、アイツの呪文を封じたみたい。ふふ、呪文を唱えられない魔術師なんて、ただの靴下芸人よ!」


「ふ、ふじゃけるなぁぁ!! このニャゲーハ様の! ち、ちきゃ、力を、い、いまこそ──!!」



「今度こそ、成功して! ダーク・ビューティ!」


シュオォォォン!


その瞬間、ナゲーハの鼻の穴から──


ボボボボボボボボ……!!


とんでもない勢いで鼻毛が噴き出した。


「……な、なんじゃこりゃぁぁぁ!? うわっ! 見るな! 見るなーーーっ!!」



 村人たちが集まってくる。


「うわ、何あれ……鼻毛……?」


「え、あの魔術師って鼻毛が(なげ)ぇんだっけ……?」


「しかもパンツ食い込んでない……?」


「う、うわあああああッ!!」


 ナゲーハは、涙目になりながら、叫び声を上げた。


 鼻毛ボーボー、パンツ食い込み、ろれつも回らない三重苦のナゲーハは、顔を真っ赤にして逃げ出した。


「み、み、みりゅにゃあああ…… ちゅ、次は……にゃいじょ!」


 凄んでも全然恐くないセリフを吐き、ナゲーハは森の奥へ消えていった。


鼻毛をたなびかせながら……。


「……勝った?  いや、なんか違う気がするけど、まあいいか」


「オマエ、コロス」


「うん、とりあえず良かったわ。靴下が無事で」



 その夜、ソックール村では祝宴が開かれ、ちっちゃいオジさんは「鼻毛マンを追い払った英雄」として、村の子どもたちからサイン攻めにあっていた。


 ノアールは焚き火を見つめながら、ふとつぶやいた。


「……戦い方、間違えてる気がする……」


 ノアールの旅は、まだまだ続く。

「ちっちゃいオジさん、『オマエ、コロス』はコンプラ的にまずいわ。わたしの魔法で違う鳴き声にしてあげる。えい!」


「オマエ……コロス……」


(あれ? 変わってない?)


「ケ……ナリ」


(うーん、『コロ○ケ』は著作権的にまずいわ……)




最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
とっても面白かったです 足の親指の爪が早く伸びる呪い 地味に厄介で好き
非常に良い食い込みです #ラドンもそうだそうだと言っています ネタ採用ありがとうです(*ノ・ω・)ノ♫
「オマエ、コロス」は、おそらく格闘家たちが使う便利な言葉「押忍!」と同じ意味なのだろう
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