IWGPフランス大会
フランスには、ロラン・バルトがいる。勿論プロレスラーではない。哲学者である。その「神話作用」は、多くのプロレスファンに期待を込めて、誤読されている。
プロレスの試合というものは、第一試合では大技などは控えて地味ながらも情熱を見せ、それ以降、徐々に技を派手にしつつ、反則や笑いや流血の下種野郎も見せて盛り上げ、やがて、メインイベンターという神々が降臨して観客を熱狂の物語に巻き込んでいく作用であると。
これは明らかな誤読であるが、ロラン・バルトの考える「情熱の正体よりも、情熱を読解させること」に基づけば、この誤読もまた紛れもない読解なのである。
バルトが言おうとしているのは、人は物事の本質を読み取っているのでなく、本質と思わせようとする人間の作用の結果を読み取っているに過ぎないぐらいのはずだ。その作用とは、人の身振りであり、プロレスに例えるならば、技なのである。
また、「身振り」というそのキーワードは、プロレスラーには、実感として分かることだろう。
フランス大会のメインは、猪木 対 モンスター・エッフェルタワー。
エッフェルタワー!未だ見ぬ強豪のご当地レスラーか?
いや、実はフランス人であるアンドレ・ザ・ジャイアントだ。アンドレは、やっぱり、こういった悪ふざけが好きだ。
いざ、試合が始まろうという時。
「俺たちが、世界最強だ。この試合に勝った方が、アメリカのNWAのチャンピオンに、挑戦しよう」アンドレが言い出した。
「よし。よし」
と、猪木。
「待て」
そこに、ローラン・ボックが登場した。
「俺も、いるぞ」
そもそもボックは、このフランス大会に招かれてはいない。ところが、猪木とのプロレスの快感に目覚めてしまっていたボックは、勝手に、ついて来てしまっていたのだ。
さらにリングインもして、猪木との闘いを始めてしまった。アンドレはコーナーにもたれ掛かって、しばらくは余裕の表情、この両者の対決を眺めていた。
が、やがては抑えられず、突進を開始した。取り敢えずボックへと狙いを定めたようだ。
背後から体当たり。ボックは弾け飛ぶ。ついでに猪木まで、弾き飛ばした。
一対二の様相になった。ハンディキャップ・マッチは大巨人アンドレの得意とするところだ。
それぞれを片手で掴まえて、二人を鉢合わせさせる試合だ。しかし猪木とボックだ、そんな相手ではなかった。
しかも、ボックには猪木に対する信頼が芽生えている。
五分になろうとする頃、お決まりの鉢合わせを、よせば良かったのにアンドレが狙ってしまった。
しめたとばかりに、猪木が背負い投げ、ボックがサイド・スープレックスの合わせ技で完璧に投げ切ってしまった。
これにはアンドレが、驚くとともに、この連携に激怒した。怒ったアンドレは力任せにリングのコーナーとロープを破壊。まるで縄を扱うかの様にして、ボックの首を絞めてしまった。
この人間離れの攻撃には、さすがにボックもギブアップ!
アンドレは、さらに猪木の首もロープで絞め始めた。
と、素早く、レフェリーのミスター高橋が、アンドレの反則を宣言した。
フランス大会も、猪木の勝利で幕を閉じたのであった。
この試合は、日本でも、東スポが一面に取り上げたのだった。
「猪木、NWAのチャンピオンに挑戦か‼️」
その記事を読んだジャイアント馬場は、顔をしかめるとともに、胸騒ぎを覚えていた。




