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9. クイズゲーム……本当の宝探し?

 今時の小学生は一人一台タブレットが支給され、授業で利用する。四年生にもなれば習った単元でクイズを作ってクラスでオンラインプレイを行うこともある。

 

「よーし宝石が貯まって来たからこの帽子をゲットだ」

 そう言いながらクイズの賞金である宝石で、アバターの帽子をもらう綾菜。


 自由に作って良いクイズもあるが、先生に決められた時間で遊ぶよう言われている。歴史好きで戦国武将に憧れる綾菜は戦国時代のクイズを作ったが、なかなかみんな遊んでくれない。四年生で歴史に詳しい人はまだまだ少ないのである。

 

(まこと)くんだったら遊んでくれたかも……」

 ふと同級生の誠を思い浮かべる。将棋の本と歴史の本ばかり読んでいる誠。結局四年生でも同じクラスにはなれなかった。


「きっとみんな宝石集めたいだろうから……もっと簡単なクイズを作ろうかな」

 家に帰ってタブレットでクイズを作ろうとする綾菜。

 だめだ……戦国時代のことしか考えられない。その中でもあのお兄さん……今どうしているんだろう。

 

 綾菜は戦国時代を冒険する夢を見たことが何度かある。目が覚めると出会った戦国武将に関する何かが枕元にあるので、本当に夢なのかはわからない。その中でも彼女が「お兄さん」と呼ぶ1人の武将。

 人間としても尊敬できるそのお兄さんへの想いは、募るばかりである。そして気づけばそのお兄さん武将に関するクイズばかり。

 

「疲れた……寝よう……」

 いつも通り綾菜はお空にお祈りしてから眠りにつく。


 

 そして、綾菜が目覚めた場所は戦国時代ではあるが、人で賑わっている町中であった。

「じ……時代劇みたい……」綾菜は周りを見渡す。

 

「あのお方が組合をなくしてくださったから、新しい業者も販売できるようになったな」と町人たち。

 これまでは組合に入っている人達だけが独占して商売をしていたようだ。


「へえ……誰だろうあのお方って」

 そう呟いていると後ろから、

「おや、可愛い姫君、また会ったな」と声がした。

「おじさん……!」

 

 前回も会った、人との絆の大切さを教えてくれた立派なおじさん武将が変装して町中に来ていた。

「『あのお方』はこのわしじゃ」

「えっそうなの? やっぱりおじさんはすごいや」

「町も賑わってはいるものの……気になることもあってな」



 ※※※



 綾菜はおじさんの城に連れて行ってもらった。

「お前さんは宝の山を知っているかい?」

 唐突に宝の山とおじさんに言われ、どこのゲームの話だ? と思った綾菜。

 この時代に宝の山って……ファンタジーみたい。

 

「これを見ると良い」

 おじさんは綾菜に銀貨を見せた。

「うわぁ……綺麗。小判みたい」

「この銀貨を作るための銀は、山で採れるんだよ」

「えっ……それって本当に宝の山だ」

 

「そう、その山を手に入れて我が領地をさらに広げれば、城も建てられるであろう。そして我々の家でこの地域全体を支配し、民が平和に暮らせるように商売も盛んにしたいものだ。最近までわしの仲間が管理していたのだが、(いくさ)に敗れてな。別の者が支配するようになってしまったのだ」

 

「おじさんはその銀の山を手に入れたいの?」

「ああ、奴は銀の山を占領してしまい私利私欲を満たしておる。それは許せぬことだ……」

「おじさん! あたしクイズの宝石集めるやつは得意だから、力になれるよ!」

 

 戦国時代をクイズゲームだと思うなんて甘すぎるにも程があるが、おじさんは穏やかに笑ってくれた。

「お前さんがおると本当に出来る気がするな。共に行こう」


 おじさんと兵士達が準備をして、仲間の兵士も集めて(いくさ)に向かう。相手の領地に入ったが兵士軍が多く苦戦している。

 

 綾菜は物陰から様子を眺めていた。おじさんたちの軍も強いけど、相手の軍も相当強い。何と言っても「宝の山」がかかっている。それがあれば戦国の世の中、失うものが多くても富を手に入れることができるし、領地を支配することも容易い。

 

 そう思っているであろう相手の軍が必死に対抗してきたため、「宝の山」をかけた争いは一時中断。おじさん達は撤退した。


「おじさん、宝って簡単に手に入らないんだね。おじさんみたいに強くて頼りになる人ならあっさりもらえるものだと思ってた」

「ほほう。宝というのはな、決して簡単には手に入れられないからこそ、価値のあるものなのだ。すぐ手に入るのであれば誰もそれを追い求めないであろう。どんな困難があっても苦労しながらそれを手にした時……その宝の価値以上に我が心、舞い上がるように喜ばしいものなのだ」

 

 苦労しながら手に入れた方が、確かに達成感があるのかもしれないと綾菜は思った。それが宝の山――皆が手に入れられないほど憧れは強くなるもの。

「おじさん……頑張って手に入れてほしいな」

「わしは諦めないぞ……ハハ」



 そして翌日、兵士の一人がおじさんのところにやって来た。

「あの者が……なくなったそうです」

 銀の山を占領していた張本人がなくなったとの知らせであった。おじさんの目の色が変わった。

 

「今こそ……攻め入るのだ!」


 おじさんの兵士軍と仲間の兵士軍が前と同じ場所までやって来た。首謀者がいないせいか、相手の兵士軍の勢いが弱まっている。勢いに乗っておじさん達は戦う。刀や槍を持ち一気に襲いかかる。

「宝の山」を手に入れたい……そしてこの(いくさ)を終わらせて領地を広げて平和な世の中にしたい……そのために“今”を生きなければならないという強い思いを感じる。

 

 ようやく相手軍が降参し、おじさんは「宝の山」と呼ばれる銀の山を手に入れることができた。


「これでようやくこの地域を我が支配下におさめることができそうだ……」

「おじさん……すごい……」

 

「ここまで来るのは大変だったが……人との絆を深め団結し最後まで諦めないことで、大きな成果を得られるのだ。お前さんも、わしの近くについていてくれた。感謝する」

「ううん……あたしは見てただけだよ。これからあたしもちょっとずつ頑張る」

 

 おじさんは笑顔になった。その笑顔が徐々に遠くなってゆく。



 ※※※



 ふわっと目覚めた綾菜。

 今回もあのおじさん……すごい人なんだな。あんな大物が自分の夢に出て来てくれるとは。

 枕元にあるのは銀貨だろうか、随分錆びている。綾菜は銀貨を引き出しにしまって学校へ行く支度をする。


 今日も皆がタブレットのアプリでクイズを作っている。綾菜が作ったクイズはみんなが解けない歴史もの。難しくて宝石が手に入らないと言われていたが、あのおじさんに「宝は決して簡単には手に入れられないからこそ、価値のあるもの」と教えてもらった。

 

 今のあたしが作ったクイズのままでも……いいよね?


 昼休みに図書室に行くと、誠がいた。綾菜が話しかける。

「久しぶり」

「おう」

「タブレットのクイズ作った?」

「うん」

 

 綾菜は誠に自分のクイズを解いてもらいたいと思った。

 みんなは難しいって言うけど、誠くんなら……やってくれるかな?

 

「あたしの作ったクイズ……やってみない?」

「うーん……先生に時間決められてるよね。けど……僕にいい考えがある」

 

 そして放課後、こっそり多目的室に忍び込む誠と綾菜。

「え……誠くん、勝手に入っていいの?」

「四時半までなら誰も来ない。ネットワークも繋がるからここで課題をやったこともある。隣、図書室だから」

「そうなんだ……」

 

「綾菜ちゃん、ログイン」

 そう言われてクイズアプリにログインしてオンラインにし、綾菜のクイズを誠がやってくれることになった。


 ほとんど戦国武将の問題でほぼあのお兄さん武将の問題であったが、誠はあっという間に全問正解した。

 

「すごい……誠くん、さすがだね」

「たまたまこの武将が出てきたから……綾菜ちゃんの問題、この武将ばかりだね」

「うん、人の心とか相手を思いやる大切さを教えてくれた、あたしが一番慕っているお兄さんなの」

「え……?」


 誠は一瞬、自分が夢で見た姫君を思い出した。

『ずっと……貴方をお慕いしておりました。このような世の中でも、貴方は自分のことだけでなく相手のことを考えていらっしゃる……人の心、相手を思いやる大切さを私は貴方から教わりました』

 

 そう言っていた姫君と綾菜の姿が重なる……。

 いや、綾菜ちゃん子どもだし。でも……雰囲気が似ているような……。


「ねぇ、誠くんのクイズもやってみたい」

「あ、いいよ」

 誠のクイズも歴史や戦国武将ばかりで、綾菜と同様、あのお兄さん武将が多かった。何故なら、誠が夢でその武将になっていたのだから。

 

「誠くんもこの武将が好きなの? 一緒だね! ああ……でもちょっとわかんなかった。誠くん、詳しいね」

「そうかな……」

 

 誠も同様に皆が自分のクイズを解いてくれず退屈していたが、綾菜が楽しそうに遊んでくれたのを見て、嬉しく思った。 





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― 新着の感想 ―
嬉しさのあまりこちらでも(笑 わーい! わーい! 紅夜チャンプルさん、やったー! 一次通過おめでとうございます~! うひょー! さすが紅夜チャンプルさんです! 本当に本当におめでとうございますー…
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