5. 戦国時代を生きる少年
「負けました、君は強いな」
将棋大会小学生の部で順調に勝ち進んでいく一人の少年、誠である。
この日は惜しくも最終の十人までは残ることが出来なかったが、毎回色々な人と勝負することで参考にしたい戦法があったり、その人の性格も何となく分かったりして面白い。毎回こんな遠くまで連れて来てくれる親に感謝である。
ちなみに誠が将棋を始めたのは親に教えてもらったわけではなく、小学校一年の時に図書室で将棋の本を見つけて勉強したのがきっかけ――というのは表向きの理由である。
本当はもともと将棋の才能があったから。それが分かったのはある夢を見るようになってからであった。
ある日の夜、眠りについたはずの誠であったが気づいた時にはお寺のような場所にいた。
優しいお坊さんが目の前にいて、自分を可愛がってくれた。
「人が弱っている時にいじめることは、卑怯なことなんだよ」
「はい、分かりました」
お坊さんからは様々なことを教えてもらったが、やはり一番心に残っているのは“人の心”に関すること。相手のことを考えて思いやりを持つことの大切さ。
だが、目が覚めれば普通の小学生。まだまだ相手を思いやる心の大切さまでは分かっていない。
別の日には、そのお寺で城攻めゲームで遊んでいる夢を見た。相手の動きを見ながら戦略を立てて自ら戦法を考えて、城を攻めていく。サイコロのようなものを使うので時に運にも左右される。
そう、この夢をよく見るようになってから将棋に興味を持つようになった。攻めと守りをうまく利用して勝利をつかみ取る。夢の中で没頭した城攻めゲームに似ている気がしたのだ。
導かれるように図書室で将棋の本を手に取り、テレビで活躍する棋士も見つつ、親に頼んで将棋をするようになったという流れである。
夜――ベッドに入る誠。
今日は将棋大会にも行って疲れたので、早く寝ることにした。
――そして誠が目覚めたのは城の中。
そうだ、城に住むようになったのだった……と何となく思い出してゆく。
彼の元に一人のおじさんがやってきた。
「あの地方は未だに領内の争いが収まりません……貴方しかおりません。どうか……」
「我に収めよと申すのだな」
戦上手と言われて間もない彼。あの頃の城攻めゲームのおかげなのか、もともと素質があったからなのか、危険が伴う中で争いを収めにいくことに迷いはない。
「行くぞ」
馬に乗って向かった先にあるのは、争いの発端となった城の近く。この城を求めて両軍が戦を繰り広げる。
――犠牲者大勢。終わらぬ争い。混乱する民たち。誰もかれも“人の心”など分かっておらぬ。今ここで、この我が……この争い、収めて見せる。
※※※
誠の率いる兵士達も日々鍛錬を積み重ねて来たため、隙がなく次々と人を倒してゆく。
――矛盾している……“人の心”がどうとか言っているものの、結局この世は戦が全て。民を助けるためにはこの争いをやめさせなければならないが、口で言って収まるわけがない。
――何故このようなことをしなければならぬのか。それは天下統一のため。自分がそれを叶えた時は皆、争いをやめるであろう。それまでの辛抱だ。そのためには“力”を持っていることを示すことが必要となる。
――すなわち優れた戦法を理解している我のような者こそ、この国を治めるのに相応しいのではなかろうか?
――いや考えている場合ではない。一刻も早く、この乱を収めなければ。正面突破が難しければ背後を取る。だが自ら前方から攻められる時は一気にゆく。これが出来るのは、敵の一瞬の隙を見破る能力に長けた者のみ。
――それが我だ。
誠の活躍のおかげもあり、領域の争いを収めることが出来た。
馬で自分の城へ戻ってゆく。その後間もなく、ある国の守護を任されることとなった誠。
「この国を任されることとなったとは……」
――ハッと目覚めた誠。
家のベッドの上にいる。
今の夢は何だろうか。自分は歴史上の人物になっていたような気がする。とにかく必死になって“今”を生きようとしていた。
夢の中で争いが収まったとしても、現実の誠はまだ興奮がおさまらない。ふと枕元を見ると一枚の布が置かれていた。布には漢字が書かれている。
「これは……?」
そして学校の図書室で無意識に手に取った歴史本に答えが載っていた。この戦国武将のものではないだろうか? そしてその戦国武将は……まさに自分が夢で見たことと同じことをしていた。というより、自分が夢でこの人になっていたということだろうか。
歴史は将棋の次に興味があったので、誠は昼休みに図書室で歴史本を見るようになった。やっぱり戦国時代、安土桃山、江戸時代が面白いと思う。
でもまず手に取ってしまうのは、自分が夢でなり切った戦国武将が書かれた巻である。
何故だろう。この人がこんなにも気になるとは……。
※※※
さらに驚くことにそれ以降、時々その戦国武将になる夢を見るようになった誠。
この夢を見た時はかなり疲れて目が覚める。まるでさっきまで戦をしていたかのよう。ますますその戦国武将が気になっていく。
一枚の布を広げて眺める。これは運命としか言いようがない。
――僕はもしかすると前世はこの武将だった?
――それならかっこいいのに……現実の僕といえばクラスで誰かが揉めていても、特に気にしないからな。大体一人で本を読んでいるのだから。
そしてさらに誠が驚愕したことといえば、同級生の綾菜である。
ある日の夢の中に、綾菜が出て来たのだ。
庭で弓矢を放って神経を研ぎ澄ましていると、綾菜がそれを見ていた。
――え、綾菜ちゃんが何故いるんだ? ここは戦国時代なのだが。
放っておくことも出来ずに部屋に連れて行き、いつも通り領地を奪われて困っている大名たちを手助けする。
「お兄さんは優しいね。みんなに慕われているね」と言う綾菜ちゃん。どうやら僕だと思っていないらしい。
「気持ちの弱った時に攻め入るような卑怯者は許しがたい、そう考えるだけだ」
これは前にお坊さんに教えてもらったことだが、綾菜に分かるのだろうか。
いよいよ自分の城の近くまで敵が攻め入ったことが分かると、戦に向かうが、
「あたしも……行きたいです!」と言われる。
駄目だと言っても普通について来そうな気がして、誠は「良かろう」と言ってしまった。
――大丈夫だ……何も問題ない。我がついているのだから。
戦のあと、気づけば誠は綾菜にこう言っていた。
「お主、忘れるでない。人の心……相手を思う気持ち」
「待ってお兄さん! あたし、もっとお兄さんと一緒にいたいよ……」
彼女が歴史好きだということは知っていたが夢に出てくるとは思わなかった。目覚めた誠はいつも通り引き出しに入れた布を眺める。
「あれ?」
布の右上部分がちぎられたようになくなっている。
どういうことなのだろう。引き出しに防虫剤を入れていなかったからなのか。
気にはなったものの、彼は支度をして学校に行く。
昼休みの図書室。誠がいつもの席であの戦国武将が出てくる本を読んでいると、綾菜が来た。だが今日は邪魔しないでほしい、夢に彼女が出て来たから集中できない。
それでも綾菜がこちらにやって来て、武士の土下座スタイルをしようとするものだから、仕方なく本を貸した。
そして見てしまった。彼女があの戦国武将のページを真剣に見つめているところを。
やはり綾菜とは考えることが似ているのか……?
誠はそう思いながら、代わりに渡された歴史本を流し読みしていたが、彼女は先ほどからそのページばかり見ている。
もしかして夢に出て来た綾菜は――今、隣にいる綾菜なのだろうか。
(いやそんなわけ……ないか)




