48. 夢の向こうで聞いた声――武将たちの言葉
二人の目の前には、綾菜がこれまで夢で出会った武将達の幻影が映し出された。
「えっ……おじさん達……?」
「この者たちは……まさか僕の夢の中の時代にいた人……?」
綾菜と誠が驚いていると、その中の一人のおじさんが話し出した。
『全く……手こずらせおって。ようやくそなた達は気づいたか』
立派な兜に甲冑を着た武将のおじさんが言う。誠のライバルだった者だ。
『もう元服だろう? 間に合ってよかったな』
『いや、この時代は元服なんてなさそうだぞ?』
今度は強面のおじさんや銀の山を手に入れたおじさんが喋っている。
「あの……おじさん……どういうことなの?」と綾菜が尋ねる。
『そなた達は前世……戦国の世で悲しい別れを経験した。未練のある悔しい思いをした者は……前世の記憶が残りやすいものだ。生まれ変わりたいと強く願うことでそなた達は今、この世を生きることとなった』
綾菜が最初に出会ったおじさんが言った。
『ただ前世の記憶の有無や、夢を見るかどうかは人それぞれでな。渉殿は我らの助けがなくともしっかりと夢を見ておった。綾は以前から我らのことを考えていたのだろう、子どもの姿で我々の前に現れたおったな』
こう言うのは町民に薬を無料で配っていたおじさんだ。
『勝も以前から気になっている者がおったのだろうな。この世でもうじき翠と結ばれるだろう』
兜のおじさんがニンマリと笑いながら言った。
「え? 勝様と翠様って……」と綾菜が気づく。
『同じ名を持つ者がおるだろう』
「勝則くんとミドリちゃん……」
あの二人も半日以上目覚めなかったことがあり、自分達同様に病院に運ばれていた。よく考えれば名前が同じなので分かるはずだが、綾菜にはそこまでの心の余裕がなかった。
そして兜のおじさんが誠をじっと睨む。
『問題はお主だ、誠殿。あの頃も信仰ばかりで集中すると周りが見えなかったからな。綾を愛していたのにも関わらず、不治の病で綾と最後まで共に生きることが叶わなかった……我らは来世ではそなた達が共に生きることを望んだが……誠殿、お主は何かに没頭して周りが見えなくだろうと考えた』
確かに二人とも小さい時から一人でマイペースに遊ぶのが好きだった。そのままだと二人は結ばれないと武将達は考えたのだろう。
『よって我らが綾とともに夢にいざなったのだ。お主達が今度こそ結ばれるようにと。だが――まさか誠殿が真宗殿に転生するとは思わなかった。我らはあくまで誠殿と綾を今世で生かしたかったのだが……夢の中でそなたはよほど綾に会いたかったのだな?』
誠と綾菜は武将のおじさん達に導かれるように戦国時代の夢を見るようになった。ただし誠が真宗に転生することは予想外だったようだ。
「僕は多分――あの時代でも綾と幸せに暮らしたかった。息絶える前に一番に綾のことを考えていたから……真宗となったのかな」
「誠くん……」
彼のその気持ちが嬉しく感じる。綾菜も夢で誠のことをずっと想っていたので、真宗と会えて幸せだったことを思い出していた。
『どの時代にも人を愛する気持ちがある。共に戦った誠殿を尊敬するからこそ来世では愛する人と幸せになってほしかった。そのためにできることといえばその布や紐などを託すことだったのだ』
強面のおじさんが言い、他の武将のおじさん達も頷く。
『あの時代は悲しいことも多かったが、ああするしかなかった。そのような時代でも我ら志は皆同じ、人との繋がりを大切にし協力して支え合うことはいつの時代も変わらぬ。もちろん上に行きたい者はどの時代でもおる。だが一致団結、相手への思いやりを持つその心は……忘れないで生きてゆきたいものだ』
銀の山を手に入れたおじさんがそう言う。このおじさんは戦も強く、人間的にも尊敬できる武将であった。
『誠殿、今度は悔いのないように愛せ。そしてお主たちが次の歴史を作るのだ』
兜のおじさんに言われ、他の武将も微笑みながら風と共に姿を消した。
空にはまるで刀を置いた武将たちの魂が、静かに見守るように雲の形をなしていた。
柔らかな風が吹き抜け、どこかで鈴のような音が鳴る。武将たちの魂がまるで祝福するように、空へと還っていくようだった。
彼らは皆、前世の夢を見て今世を生きている。自分たちが歴史を繋いでいく……そういう存在なのかもしれない。さらにもしかすると彼ら以外にも……歴史上の人物が生まれ変わって今世を生きていることもあるかもしれない。
「ねぇ、綾菜ちゃん。いつか……二人で素敵な未来を作れたらいいね」
「うん……その時は一緒に歩いていこうね。誠くん」
歴史の大きな流れの中で、彼らは小さな存在かもしれない。でも、その小さな愛や人への思いやりの物語が、確かに今を輝かせ、未来へと繋がっていく。
布の文字は、静かに風に揺れている。綾菜はそっと布を胸に抱いた。
「この“信”があると、これからも頑張れる気がするんだ」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
――「信」
それは“まこと”と読む。
心を重ね、明日につなげる、たったひとつの文字。
見上げた空は、かつての戦の記憶を包み込みながら、今日の空へと続いている。
綾菜と誠はそっと手をつないで並んで歩き出した。未来はまだ遠くても、同じ歩幅で、一歩ずつ。
※※※
数日後。二人は市民センターで将棋を指していた。
綾菜はじっと盤を見つめて、指しかけた手を止める。
「……これ、ほんとに勝てる手かな?」
そう呟いた綾菜に、誠はにやりと笑った。
「さあ? でも、やってみなきゃわかんないでしょ」
綾菜も笑って、迷っていた駒を思いきって進めた。
小さな“一手”の積み重ねが、これからを作っていく。
夢の中で出会った武将たちも、きっとそんな風に一手一手に願いや決意をこめて戦っていたのだろう。
窓の外には、秋の風が静かに吹いている。
信じていれば、きっと自分たちにも笑顔になれる未来がやってくる――そんな気がした。
終わり
ここまでお読みいただきありがとうございました。
こちらは私が初めて書いたファンタジーで、思い入れがあります。
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