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47. まことの地、未来へ

 次に綾菜が夢で目覚めた時には、猿時(さるとき)の城にいた。


「綾、目覚めたか」

真宗(まさむね)様……」

 あの大陸出兵から無事に帰って来たことを思い出す。


「猿時殿に呼ばれておる」

「私も参ります」

 二人は殿の部屋に向かう。


 大陸での大きな戦いも終わりを迎えた。各地の兵たちは刀を置き、少しずつ平和が戻り始める。


「真宗殿――この南の地を、そなたに任せたい」


 そう評定で告げられると、真宗は静かに頭を下げた。彼は南地方を領地とし、そこに移ることとなった。


「猿時殿、綾も連れて行ってよろしいでしょうか」

「構わない」

「感謝いたします」


 また、(かつ)は東地方を任されることになった。もちろん(みどり)と一緒である。

 

「真宗殿、世話になったな」と勝が言う。

「ああ、こちらこそ」

「勝様、翠様、ありがとうございます」と綾菜もお礼を言っている。少し涙ぐんでいるようだ。

「綾、泣いている場合じゃないわよ。真宗様と一緒にいられるんだから」と翠が励ます。


 綾菜は袖でそっと目元をぬぐい、真宗のほうを見つめた。その視線に気づいた真宗は、わずかに微笑み、綾菜の肩に手を置いた。

 綾菜にとって、勝と翠は尊敬できる兄と姉のような存在だった。これからも二人のことは忘れない、そう思う綾菜。


「綾……では参ろうか」

 真宗の手を取り、綾菜は南地方へ出発した。



 ※※※



 南地方の小さな城に到着した真宗と綾菜。

 

「これまで我は、戦って領地を増やすことばかり考えてきた。だがこの領地を治め豊かにすることが……これからの戦いかもしれない」


 そう言う真宗は、以前よりも背筋がしゃんとしていて綾菜は見惚れていた。

「そのお考え、素敵です……真宗様」


「我は……天下を手に入れることより、この地に生きる人々を守りたい」


 (いくさ)で荒れた大地に、再び人々の暮らしを取り戻したい。それが真宗の望みとなった。

 村には、まだ焼けた家々が残っていた。真宗はまず井戸を掘り、田んぼに水を引き、漁師たちには新しい船を与えた。


「田畑を増やし産業を育てて……ここを“未来”の地にしよう」

 そう言って、真宗は綾菜とともに町を歩く。少しずつ、人々の笑顔も戻ってきた。

 

 刀を置き、民とともに生きる未来を、彼は選んだのだった。

 

 天下よりも大切なもの――それは、

「誰かの笑顔を守れる日々だ」

 真宗はそう呟き、綾菜と手をつないだ。


 二人の歩む先には、まだ戦の傷跡も、解決すべき問題も残っている。だが、どんな未来であれ、手を取り合って進んでいけるなら、きっと乗り越えられる。


 空には、いつか見た夢のように白い雲が浮かんでいた。未来はまだ遠く、けれど確かに――この足元から始まっている。



 ※※※



 ベッドの上で目覚める綾菜。

 ようやく、あの時代で大切なものを手に入れたような気がしていた。

 

「真宗様……良かった」

 綾菜はベッドからおりて学校に行く準備をする。



 学校にて。

 道徳の授業中――猿川先生の声が、どこか遠くで響いている。


「“平和”って、何だと思いますか? ただ戦争がないことだけが平和でしょうか」


 綾菜は、ぼんやりと黒板を見つめていた。まだ心の奥では、あの(いくさ)の光景と、真宗の言葉が静かに残っている。


「未来をつなぐ。それは刀ではなく心で築く道なのだ」


 そう言っている真宗の姿が、ふと胸に浮かぶ。


 ――平和って、なんだろう。争わないこと? 誰かを守ること? それとも、自分にできることを、小さくてもちゃんとやること?


 綾菜は、そっとノートを開いた。そこには「今の自分にできることを書こう」と書かれている。


 クラスメイトたちは「ゴミを拾う」「お年寄りに席を譲る」「困ってる友だちを助ける」など、それぞれの言葉を書き込んでいた。


 綾菜は少し考えてから、こう書いた。


『わたしは、誰かの心に寄り添える人になりたいです。未来のことを、一緒に考えられる人になりたいです。そして自分の周りの人の笑顔を守りたいです』


 その言葉に、真宗の瞳と、(いくさ)のあとに見た笑顔が重なる。


 授業が終わる頃には、心が少しだけ軽くなっていた。

 夢か現実かはわからないけれど、確かにあの経験は綾菜の心に残っている。


 そして――これからの日々の中で、綾菜は「自分にできること」を見つけていくのだろう。

 小さなことでも、未来へつながる一歩として。



 ※※※



 その日の晩、綾菜は塾に行く。帰りに自転車置き場で(まこと)が待っていてくれた。真宗様が誠様の生まれ変わりだとわかったので、誠を見ると鼓動が速くなってしまう。


「綾菜ちゃん、実はさ……見せたいものがあるんだ」

「え、何?」

「布……なんだけど」

 それを聞いて、綾菜は部屋の引き出しに入れてある布切れや、武将たちの身につけていた紐や兜の飾りのことを思い出す。


「私も誠くんに見せたいものがあるの」

「じゃあ、土曜日に会おうか」


 

 土曜日に二人は公園に集合した。

 

「綾菜ちゃん……これって……」

 ある漢字が書かれた布の上半分を綾菜が、下半分を誠が持っていた。

 

 二人の持つ布切れを合わせるとパッと光に包まれ、一枚の布となった。

 

「この一文字、“信”――」

 綾菜はそう口にしたあと、静かに布を握りしめる。

「信じる心。信じた想い。……そして、あの人の名前」


 “信”はそう、“まこと”とも読む――

 

 さらに綾菜が今まで持っていたもの……衣装の紐、兜の飾りやツノの一部分、錆びた銀貨、髪を結う紐、薬の包み紙のようなものがボゥっと光を放つ。

 

 やがて――綾菜がこれまで夢で出会った武将達の幻影が映し出された。

 


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