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4. 戦国時代を冒険する少女の小学校生活、図書室にて

 あの人を

 寝ても覚めても

 想う我


「綾菜ちゃん、季語がないですよ」

 俳句に季語が必要だという当たり前のことをすっかり忘れていた綾菜。

 そのぐらい綾菜の頭の中は「あの人」でいっぱいである。まるで綾菜が戦国武将に憧れているのを分かっているかのような表情だった。

 

「お主、忘れるでない。人の心……相手を思う気持ち」

「待ってお兄さん! あたし、もっとお兄さんと一緒にいたいよ……」


 親以外であんなに一緒にいたいと思った人は、生まれて初めてだった。そしてその人のおかげで綾菜は少し「まるくなった」と言われるようになった。まんまるのボブカットがさらに丸く見えたと言う人もいる。

 

 これまでは周囲にあるべき論を言ってしまう(良く言えば正義感が強い)彼女であったが、自分にも同様に厳しかったので無理をすることが多かった。

 しかし、今はマイペースさは変わらないまま、少しずつであるが周りにも自分にも寛容になることができている、らしい。


 

 あのお兄さんに「相手を思う気持ち」を忘れるなと言われてそうなったのか。

 それとも、今はただあのお兄さんのことだけを考えているだけなのか。


 

 いずれにしろ、あのお兄さんがキーマンであることは変わりない。

「多分だけど、あのお兄さんはあの武将なんだよね……」

 

 昼休みに図書室へ行く綾菜。教室にも本はあるが歴史ものが全巻揃っているのは図書室だけ。ただ、大概人気のあるものは貸出中となっているが。


「あ、またいるわ……」

 綾菜は一番端の席に座っている同級生の(まこと)を見つけた。黒髪の短髪で黒目も大きく、何をやっても真剣そうに見える。そして今は本に釘付け状態。

 

 誠とは幼稚園から一緒であり、先生たちからは似た物同士だと言われ続けていた。

 自由遊びの時間に外で走り回る男の子たち、お人形で遊ぶ女の子たちが多かったが、綾菜は一人でブロック遊びに集中しており、誠はひたすら本を読んでいる。

 たまに二人でオセロで遊んでおり、会話は少ないもののなぜか意思疎通ができている。二人とも一人でいる時間が好きである。

 

 そして幼稚園時代のノリで小学校一年の時に二人でこっそりふざけていたところを先生に注意され、以降同じクラスになっていない。

 ただ、昼休みに図書室に行くと大体彼がいる。隣に座って各自集中することもあれば、別の席で読むこともある。たまに雑談もするが図書室なのであまり話さない。


 綾菜が気づく。あのお兄さんのことを調べようと思ったのに、その巻は誠が読んでいる。

 誠も綾菜の視線に気づいたが、目を大きく見開いてじっと見られた。

 

 ああ……「邪魔するな」ってことか。

 大体誠の考えることは分かる綾菜である。それでもあえてちょっかいをかけに行って先生に注意されたことを思い出す。仕方ないので別の本を見ることとした。



 ※※※



 昼休みの図書室でいつもの席に座って歴史の本を読んでいる誠も、綾菜が来たことに気づいていた。

 

 読者好きの彼。幼稚園時代から本ばかり読んでいたが、中でも一番のお気に入りは歴史ものである。特に戦国時代、安土桃山、江戸時代あたりを読むのが大好き。一つのことに集中すると周りが見えなくなるため、男の子たちに遊びに誘われてもたまにしか行かない。


 それよりもマイペースに自分の好きなことに集中する方がいいに決まっている。孤立って何ですか? これが僕の普通ですが、と思う誠である。

 

 そんな中でも幼稚園時代に唯一気の合う子がいた。綾菜である。彼女は決して自分の邪魔をしない。そしてどこか自分と似ており、オセロや将棋で遊んでも最後まで付き合ってくれる。


 彼女とならふざけ合っても楽しかった。ただ、小学校一年で何回もちょっかいをかけられ、反射的に自分も手を出してしまい彼女に軽い怪我をさせてしまった。先生にも注意され、以降クラスは別々。

 

 クラスに友達がゼロというわけではないが、あんなに気の合う友達はなかなかいない。

 けれど、今日は特に気になる歴史本を読んでいるから邪魔しないほしいものだ。

 そう思って綾菜に目でオーバーに合図した。今読んでいるこの本は特に好きなのだ。彼の尊敬する武将がたくさん出てくる。


 

 それだけじゃない……無意識でこの本ばかりを取ってしまうのだ。

 

 武将がたくさん登場して面白いからなのか。

 それとも本が「読んでくれ」と僕にテレパシーを送ってくるからなのか。


 

 あるいは……綾菜と話すきっかけが欲しいからなのか。

 

 (いや、今日は邪魔されるのは御免だ)

 

 彼女の方を見ると別の席で本を読んでいる。

 

 (ああ、あの時代の歴史本か)


 人の読んでいる本が気になるお年頃なのか、それも読みたくなるが……今日はこっちの本だと思いながら読み進めていく。



 ※※※



 綾菜はため息をつく。別の時代の本を読んでいても、思い浮かぶのはあのお兄さん。今どうしているんだろうとさえ思う。もう一回でいいからあの夢の続きを見たい。

 

 そのためには今、誠が読んでいる本でイメージトレーニングをしておきたい。「邪魔するな」の合図をされたが土下座でもして、頼んでみることにした。


 彼女は誠の席に行く。

「何?」と言う誠。

「どうか……その本をお見せいただけますか?」

 

 武士スタイルで土下座しようとする綾菜だったが、

「え、そんなに読みたいの?」と言われる。

 おふざけなしで真面目に綾菜が言うので驚いたようだ。

 

「いいよ。いつも読んでるし」

 やった、誠に本を貸してもらうことに成功した……!

 綾菜に思い切りガッツポーズをされると若干イラっとする誠であったが、代わりに別の時代の本を渡された。


 そのまま隣で真剣な表情で本を読む綾菜。

 お兄さんはこの人だ、と確信した。

 人気のある武将だとは聞いたことがあるが、綾菜の好きな武将ベストスリーに入っていないため(そして勝手にランク外にしていたため)、ここまで集中して読むのは初めてである。

 

 (ああ……そうそう、こういう感じ。ええ、こんなに人間的に良い人だったんだ……よし、今夜会う! 絶対会う!)


 いつも以上に気合いを入れて歴史本を読んでいる綾菜が気になる誠。誰を見ているんだ? とチラッと斜め後ろからのぞく。


 

 まさか、自分が一番気になっていた武将だとは。


 

 無意識でこの本を手に取り、無意識で自分はその武将のページを見ていた。親以外にその武将が気になるなんて言ったことはない。

 

 やはり綾菜とは考えることが似ているのだろうか。

 そう思いながら、誠は綾菜から渡された代わりの歴史本を流し読みしていた。

 


 

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