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37. 自分の考え

「……あとは頼んだぞ」

 

 城に戻った(わたる)が言い、(かつ)(みどり)は「ハッ」と言って準備に入ろうとする。

 燃えない船をどう創り出すのか皆で考えると思っていた綾菜は唖然としていた。やはり渉は殿だから何もしない。


「綾、こちらへ」

「待ってください渉様! 私もみなさんと一緒に考えたいのです」

「心配するでない。綾は我が守る」


 違う――

 この時に綾菜はそう強く思った。

 これまでも(まこと)様にたくさん助けられて、だけど最後に彼はあの世に飛び立ってしまった。

 もっと自分に力があれば未来は変えられたかもしれない……とさえ思う。


 そんなもの、この時代の女性が持つわけないのに。それでも何かできたのではないか。であるならば、今からでも私は「生きる」ため、渉様たちを守るために。


 そしてこの姿をどこかで誠様は見てくれているはず。


「私はもう守られるだけの存在ではない……」

「綾……?」

「渉様はおっしゃっていたじゃないですか、『存在しなければ、作り出せば良い』と。私だって……自分で作り出したい。自分の力で生きたい……生きているって思いたい……そして貴方のお力になりたいのです」


 ――綾が我に向かって「貴方のお力になりたい」と言っている。そなたのその目に嘘偽りはない……澄んだ瞳の奥、何かを予感させる光。綾を信じてみるか――いや、それまでだってもっと信じるべきだったのか。


 自分から離れていくのではないかと恐れていた。

 渡した手を、綾が強く握り返してくれる――そんな未来を、どこかで信じたかったのかもしれない。

 

 ――綾の気持ちはまだ誠という者に向いているのかもしれないが……今だけは、この瞬間だけはきっと我だけを見つめている。

 

 その思いを今の自分は受け入れることができるか。

 いや、ここまで負け(いくさ)が続いているのなら受け入れられなければ……ならぬのか。


「わかった。勝と翠の元へゆけ」

「ありがとうございます!」

 こうして綾菜は勝と翠が待つ部屋に向かって行った。


「お邪魔します」

 綾菜が入るとそこには肩を寄せ合う勝と翠が。

 

「いつまで泣いてるのよ」

「……これでも水軍との(いくさ)で命張ってたのだぞ」

「ふふ、知ってる。だから泣かないの」


「翠っ……良かった……生きていて」

「もう……殿に言われているのだから船を」

「そうなのだが……あの水軍は手強い。次生きて戻れるかがわからない」

「だから?」


「我は……そなたのことを……!」

「あら、綾が来たわよ」

「え?」

 明らかに来る時間を間違えてしまったといった顔をする綾菜。


「ほ……本当にお邪魔してしまい……失礼しました」

 綾菜が下を向いて恥ずかしそうにしているが、翠は「待ってたわ」と歓迎する。


 三人が部屋で燃えない船について話し合う。

「燃えない素材といえば鉄しかない、だが鉄は沈む」と言うのは勝である。

「防火素材となる薬草の灰があるわ。船の外装に使えないかしら」

 翠はここに来るまでの間に情報を収集し、偶然にもその薬草を見つけていた。


「薬草か。それを使えば鉄の量が少なくてもどうにかならないだろうか」

「勝様、あの水軍の攻撃を完全に防ぐのが難しいなら、水を吸わせた布を船内に張って……少しでも火が移るのを防ぐというのはいかがでしょう」

 単純なやり方かもしれないと思いながら、綾菜も考えを述べた。


「そうか、水……湿った縄で船を繋ぐのもあり得るか」

 勝にそう言われて綾菜はほっとする。少しでも自分の意見を聞いてもらえることがここまで嬉しいこととは。真っ向から否定されたらどうしよう、と思っていたのだ。


「刀鍛冶に相談しよう。一緒に来てくれないか」

 勝に言われて翠と綾菜は彼についてゆく。



 ※※※



「……ん? 船……」

 そう言いながら綾菜はベッドで目覚めた。

 

 結局燃えない船を作ることができたのか、まではわからないままだったが、それよりも綾菜にとっては自分の考えを言えたことが嬉しかった。


「これまで私が作戦を立てたことなんてなかった。不安だけど……ああいうの、いいかも」

「綾菜ー! 起きてる?」

 

 母親の声がする。今日は土曜日だけど週末で自学の宿題を終わらせないといけない。


 朝食を取ってから図書館に行く綾菜。

 

「私は湿った布を貼っていたら大丈夫って思ったけど……実際にはどうしていたんだろう」

 歴史本を読んでいるとそこには「船に薄く延ばした鉄を貼り付けた」「鉄甲船」と書かれている。


「そうか、薄く延ばして貼り付けたんだ」

 綾菜はタブレットのアプリを起動してスライドを作る。戦国時代の水上戦について……世に名高い水軍は火矢や手りゅう弾を使っていたこと、対して自軍は鉄甲船を造ったこと。


 そこに自分の考えも含めた。

「湿った布を貼ってもいいと思う。あとは燃えない薬草だっけ……これは翠様が言ってたけど」



 ※※※



 週明けの学校にて。

「自学をみんな提出してくれましたが、どれも面白いものばかりでした。共有しているので他の人のものも見てください。あと感想も送信できるから、いいところを見つけて伝えてみましょう」


 担任の猿川先生がこう言うので綾菜は早速共有フォルダを開いてみた。

 他に歴史を調べた人がいるなら見てみたい、そう思っていたら渉のものが目に入った。内容は――「寺での異変」で史実上は最恐武将が炎に巻かれて倒されたとあるが、実は違うのではないかということ。


 夢ではその武将こそが渉。そして夢では翠が機転を効かせて自分と渉を逃してくれた。

 合っている。渉の考えは合っているのに歴史に興味のない子の方が多いのか、誰も感想を送ろうとしない。


 ――私はわかる。一緒に逃げたんだもの。

 そう思いながら綾菜は渉へ感想を送る。

 

『私もあの武将は、寺を燃やされた時に逃げたと思う』

 

 すると綾菜にもメッセージが送られて来た。


『燃えない船、考えてくれてありがとう』


 それは渉からのメッセージだったが、まるで夢の中の“渉様”に直接言われたような気がして綾菜はドキっとする。ふと渉の席のほうを見ると彼は穏やかに笑っていた。


 自学って最初は何だろうって思っていたけれど、自分なりに考えたことを発表できる機会になる。そしてこういうのは多分正解も不正解もなく、相手の考えを受け入れることも大切になってくるのだ。

 

 綾菜は夢でも現実でもそれがわかって、少し大人に近づいた気分だった。

 



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