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30. 今よりも良い世の中を待つ

 運動会が無事に終わった。綾菜は綺麗に舞を踊り、リレーでは自身は遅かったものの、チームで力を合わせて取り組むことができた。大体運動会が終わるとクラスに一体感が生まれる。その後の遠足も楽しんで充実した二学期を過ごしていた。

 

 (わたる)とも歴史の話で盛り上がり、タブレットで歴史クイズを作って遊んでいた。

「綾ちゃん、このクイズ面白いね。さすがだよ」

「渉くんのクイズ難しいなぁ」

 

 ふと(まこと)と放課後に多目的室でこっそりタブレットで遊んだことを思い出した。だが多目的室での思い出は自分と誠だけの思い出にしたかったので、綾菜は渉にはそのことを話さず、決まった時間だけ遊ぶようにしていた。

 

「すごい……鉄砲の使い方でたくさんの相手軍を倒したんだね」

 綾菜は渉の説明を聞いていた。渉のお気に入りの武将は戦略を立てるのも上手いし、何よりも上にゆきたいという野望に溢れている。その武将こそが夢の中の「渉様」である。

 

 今夜もまた(いくさ)が始まるのだろうか。



 ※※※



 綾菜が目覚めると周囲が慌ただしい。

「あの城も攻め落とした……いよいよ奴との(いくさ)だ」と渉が呟く。

 渉は自分に反発してくる者の拠点となる城や町を、ことごとく火の海にしていく。いつまで燃やし続けるのだろうか。


「渉様……(いくさ)に向かうのですか」

「ああそうだ……来るか、綾」

 

 綾菜もいつも通り準備して一緒に向かう。今度の相手はかつて対立していた(まさ)の援軍のうち、最も強い勢力をもつ武将である。政の敵討ち、そして天下統一のために渉と戦うようになった。

 

「最後には奴と戦うことになると思っておった……奴の大量の騎馬隊に対抗できるのは、新型の鉄砲のみだ」

「鉄砲……?」


 到着後まずは兵士達みんなで柵を作った。工作の好きな綾菜は夢中で木を結びつけて柵を作っていた。

 

「綾は器用だな。もう良い、兵士達に任せてこちらへ」

 渉に呼ばれて仕方なく向かう。

「おそらく奴を倒せばもう我に敵う者はおらぬ。そうなれば綾……そなたと我は共に生きるのだ」

「渉様……」

 

 その目に見られると身体が動かなくなる。抵抗してしまえばこの世で生きることなどできない。今一番力のある者はきっと渉なのだから。


 柵が出来上がると鉄砲を構えて兵士達が待つ。やがて相手軍の騎馬隊が一気にやって来た。数が多すぎる。しかも馬も相当鍛えられているように見える。あんなにたくさんの軍が押し寄せてきたら終わりではないだろうか。

 

 相手軍の武将が言う。

「ようやくこの時が来た……お前は政殿を利用するだけ利用して、自らの野望のために粉々に打ち砕いた。妹君の気持ちさえ考えない……人の感情のない者よ……政殿の(かたき)! 今ここで討つ!」


 一斉に騎馬隊が向かってくる。が、渉の軍は動かない。綾菜が不思議に思っていると近距離に来た時に一気に鉄砲を撃った。

 

「なぁに……馬の動きを止めればよいことだ。一軍が砲弾を入れる間に二軍が撃つ! 十分に相手を引き寄せてから撃て!」

 

 ドパパパパパッ……と砲弾が鳴り響き、騎馬隊がどんどん倒されてゆく。馬に乗っていた相手軍も撃ち抜いてゆき、あっという間に撤退して行った。その後、相手軍の武将は自害したため、渉はますます力を見せつけることになる。


 ただし、これまでの犠牲者の数はどのぐらいになっただろうか。綾菜が思ったとおり最強にして最恐の武将の渉。歯向かう者は斬られてしまい、さらに新型の鉄砲など圧倒的な武力を持つため戦国の世では最も強いだろう。

 

 だが“人の心”を大切に考えていた誠とは全く違う。綾菜はどうしても誠と渉を比べてしまうのだ。戦国時代で生き残るためには“人の心”など考えずに、自分がやられる前に相手を倒すしかないということなのだろうか。だとしたら、何て悲しい時代だろう。人の命はそんなに軽いものではないのに。


 城にいる綾菜に渉が近づく。

「もうすぐだ。そなたと我の時代が来る……!」

「渉様……私はこれまで犠牲になった人達のことを思うと……」

 

「天下統一のためには仕方のないことなのだ。これからはきっと……今よりも良い世の中が待っておる」

 

 そういえば誠も同じようなことを言っていた。平和のための天下統一だと。武将になればこの考え方は揺るぎないものになるようだ。それでも誠が生きていれば、もっと温かな世の中になっていたように考えてしまう綾菜であった。


「さて、明日より残りの地方を攻め落とすとしよう。少し長旅になるが、綾は我と共に来るか?」

「はい、お願いします」

 本当はもう(いくさ)なんか見ていられない。しかし一人で城にいても、誠のことやこれまでの(いくさ)の事ばかり考えて余計に苦しくなるだけである。


 (かつ)(みどり)も部屋に来た。

「殿、今後の戦略を決めたく存じます」

「先に綾と過ごしてからだ」

「殿! どうして綾のことばかり! 私だって……」

「翠、落ち着け。それでは殿。後ほど」

 翠と共に勝が部屋を出て行った。


 綾菜が言う。

「私はある人のことが忘れられません。しかし翠様は違う。渉様のために(いくさ)で活躍されております。私よりも翠様の方が貴方のことを愛していらっしゃいます。どうして私にこだわるのですか」

 

「……よく分からぬ。そなたを初めて見た時から心惹かれたのだ。けがれなき心、純粋な気持ち……この戦国の世で今を生きる我にとってかけがえのない存在……それが綾、そなたなのだ」


 そう言われて渉に抱き寄せられる綾菜。渉の腕の中にいても考えるのは誠のことである。

「安心せよ、そなたと我の間には何も起こっておらぬ。まだそなたの目にはあの者が映っておるからな。いずれ忘れるであろう。我が天下を取ったその時に……そなたと結ばれるのだ」

 

 渉に口付けをされて綾菜はまた涙を流す。

 

 ――忘れるものですか……誠様は私の心の中で永遠に生きているの。



 ※※※



「ハァ……ハァ……」

 綾菜は涙を流しながら起き上がった。

 渉が天下を取れば……自分は……。

 小学生なりに「結ばれる」の意味は何となくわかっているが……。

 

「うーん……考えるのも面倒だなぁ。学校行こっと」


 学校で休み時間に渉と話す綾菜。

「もうすぐ天下統一だね、綾ちゃん」

「え……?」

「二人で一緒に見ようね」

「うん……」

「ふふ……楽しみだな」


 いよいよ渉によって天下が統一されるのだろうか。綾菜も気になっていた。

 

 次、夢を見るのはいつになるのだろうか。

 



 

お読みいただきありがとうございます。次回より4章です。

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