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22. 血で染まる戦い

 夏休みには親戚に会い、家族旅行も楽しんだ綾菜。しばらく戦国時代の夢も見ない。平和なこのままで良いと思うこともあるが、夢で会う「(まこと)様」のことが気がかりで、あの夢の続きを見たいとも思ってしまう。


「必ず助けにいくから」


 そう言って引っ越した誠のことも忘れられない。

「誠くん……」

 

 誠と「誠様」の両方を思い出して、時々部屋で泣いている綾菜。自分でもこの感情をどこに持って行けば良いのかわからなかった。

 今夜は特に泣き疲れてしまい、ベッドに入ってすぐに眠る綾菜であった。



 ※※※



 目覚めたのは(わたる)の城である。前回、(かつ)(みどり)(いくさ)にゆき、無事に帰ってきたところであった。

 

「目覚めたか、綾」

「渉様……!」

「そうだ、その目だ……美しい。我が憎いか? だろうな。だが今はそれどころではないのだ」

「何かあったのですか?」


「我が妹を嫁がせた奴……(まさ)に裏切られたことは知っておるな?」

「はい、勝様からお聞きしました」

 

 渉は自分の妹を政という名の武将の妻とすることで、婚姻同盟を結んでいた。しかし、政は裏切って渉を討とうとしている。何故か。

 

「渉様が着々と力をつけて、幕府の将軍様にも命令したこと、渉様が自ら将軍であるかのような振る舞いをしたことで、幕府がお怒りになり政様に渉様の討伐を命じたのですね? 貴方は幕府からも敵とみなされてしまった」

 

「さすが綾だ。美しさと聡明さを持つ我の女……」

 渉が綾に近づき、彼女の頬に手を添える。

「いやっ……」

 綾菜は驚いて渉を突き放す。

 

 (誠様以外の人となんて……)


「我、幕府の使い走りにはならぬ。天下は己の手で取りにゆく」

 そう、この時代はあらゆる場所で戦国大名が力をつけて天下統一を目指していた。その中でも、幕府を敵に回してでも自らの野望を叶えようとする最恐の武将――それが渉である。

 その姿からは誰も近寄らせないオーラを放ち、その力こそが、誰もが憧れる戦国武将の力。


「行くぞ」

 綾菜は忍びの服に着替えて渉と共にゆく。しかし幕府の後ろ盾のある政の軍が南から、もう一つの軍が北から攻め入ったことが分かった。幕府は政だけではなく他の武将にも渉の討伐を命じていたのだ。

 

 馬で(いくさ)の地にやってきた渉の軍。兵士が叫ぶ。

「殿! これでははさみ撃ちになります!」

「まずい……撤退だ!」

「殿はお戻りください! 我らでここはおさえて見せます! 少しでも相手の軍を減らせれば……」


 結局、渉はいったん城に戻り体勢を整えることとした。

 それを見ていた綾菜は思う。天下統一に近づこうとすればするほど敵は増える。ましてや幕府まで敵となってしまうなんて……それでも自らの手で天下を取りに行こうとするお姿……やはり渉様はお強いお方だと。

 

「何だ、我に見惚れておったか」

「な……そんなこと……」

「再び政と戦うことになるであろう……そなたはどうする」

「もちろんついて行きます」

「人生を共にする者としても……ついて来てもらいたいものだ。愛する綾よ」


「え……それは……」

 渉に詰め寄られ、動けない綾菜。駄目だ、その目を見ると身体が動かない。

 

 ふわっと渉に抱き寄せられた感触に、誠とは異なる色気を感じてしまう。力強くてきっと頼りになるだろう。しかし……誠のことが忘れられない綾菜は涙を流していた。

 

「涙さえ美しいものよ……綾」

 それだけ言って渉は立ち上がり、(いくさ)の準備に取り掛かる。


 

 翌日、渉と勝、翠、綾菜は政の討伐のため馬に乗って川へ行く。

「今度こそ目にものを見せてやろうぞ!」

 渉が叫び、兵士達が向かう。

「まずは政の城下を全て焼き払え! 家も畑も全てだ!」

 そう言った渉を見て綾菜は驚く。

 

 家も畑も全てだなんて、そこまでする必要があるのだろうか。関係ない人たちまで巻き込むなんて。でも相手には幕府がついており、援軍もいる。ここまでやらないと勝利できないということか。

 

 やはり渉は最恐の武将、逆らえば命はないようだ。


 そして川を挟んで両者が睨み合い、戦いの火蓋が切って落とされた。渉の軍にも仲間の軍が加わる。

「この川が血で染まるまで斬るのだ!」

 渉の命令に従い、勝が真正面から相手軍を斬りにゆく。翠は得意の弓矢で勝を援護する。


 お互い一歩も譲らぬ斬り合い。これまで様々な戦術を見てきた綾菜だが、今回はただ目の前にいる者を斬って斬って斬りまくっている。それができるのは強さの証。天下を統一したいといったその思いだけでここまでの(いくさ)ができるとは。

 

 綾菜は川の近くで血しぶきと倒れゆく兵士たちを見ながら、もうやめて欲しいと思ってしまう。どうして城下町を燃やして尊い命を奪わないと天下統一ができないのだろう。この時代では仕方ないことだと思っていても、簡単には納得できない。

 

 こんな時、誠ならどうするだろうか。きっと関係ない人を巻き込むようなことをせずに……それでも人は斬っていくのだろう。どんな戦国武将でもこの世に生まれた限り、(いくさ)が全てなのだ。


「政が逃げたぞ!」

 どうやら政が馬で撤退したらしい。

「いったんは我が軍の勝利だ。次こそは決着をつけてやる……政よ」

 渉はそう言って自分の城に戻ってゆく。


 城に戻った渉の元に臣下がやって来た。

「殿! 便りが届きました」

「これは……?」


 

『綾を連れてこの地に来い。さもなくば討つ』



 そのように書かれた便りの文章。

「奴か……気付きおったな」

「どうかされたのですか」と綾菜が尋ねる。

「そなたを愛する者からの便りだ……綾を渡せと。奴め。前から厄介だと思っておった。ただ我は政との次の(いくさ)の準備がある。勝に行かせるとするか」


 彼が助けに来る。

 そう思うと胸が熱くなる綾菜である。

「奴のことなど……我が忘れさせて見せよう、愛する綾よ」

「いやっ……やめてください……渉様っ」

 怖い……力強くて……反抗できない。

 

 渉に押し倒され、唇を塞がれる綾菜。先ほどの(いくさ)で流した汗と血の匂い……それが余計に渉の男らしさを引き立てており、綾菜の鼓動は早くなってしまう。身体のあちこちがおかしくなりそうだ。


「殿! 何をされているのですか。臣下より便りのことを聞きました。我が向かいましょう」

 勝が現れた。

 

「勝……お前はいつも我の邪魔ばかりしおって」と渉が不機嫌そうだ。

「殿、まずは戦略を練らないと」

「そうだな。綾……待っておるぞ。そなたは我から逃れられぬ運命だ」

 

 渉の鋭い目つきが突き刺さる。

 (早く……誠様のもとへ行きたい。だけど……)

 そう思いながら綾菜は疲れて眠ってしまった。



 ※※※



 自宅で目覚めた綾菜。身体が熱い……。

 あの(いくさ)も恐ろしいものだった。そして渉に詰め寄られて……。

 

「やだ……やだぁぁ」

 だが、誠様がきっと助けに来てくれる。そう信じて綾菜はベッドからおりる。そして引き出しから上半分の布切れを取り出し、誠のことを思い浮かべるのであった。

 

 



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