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21. また会える気がする

 朝日が差し込む自宅の部屋で目を覚ました綾菜。今回は(かつ)(みどり)が活躍する夢を見た。

 

「必死に生きる戦国武将がかっこいいとは思っていたけれど、水がないとか必死すぎて今の時代では考えられないや」

 綾菜はそう言ってベッドから降りて学校の支度をする。もうすぐ四年生の一学期が終了する。

 

「今日プールだ! 楽しみー♪」

 運動全般が苦手な綾菜だが水泳だけは得意なので張り切っている。


 そして学校に着いた綾菜に驚くべき情報が入ってくる。一学期が終わった後に(まこと)とミドリが引っ越すという。プールで楽しむどころではなくなった。

「うそ……」

 

 同じクラスのミドリは辛そうにしていたが、親の仕事の都合らしい。髪が長くお洒落なミドリが引っ越すと聞いて女子達が寂しそうにしている。だが、小学生で引っ越す子はまぁまぁいるのでいちいち悲しんでいる余裕はない。残りの時間を楽しもうとお別れ会を企画することになった。


 そして勝則(かつのり)はいつもの元気がなくその日は一日中大人しかった。綾菜もミドリが引っ越すことになるのは寂しかったがそれよりも……。

「誠くんが……引っ越すなんて……」

 

 幼稚園の頃から気が合って仲良くしていた誠。二年生以降クラスは別々であったが、将棋と歴史の本をこよなく愛する誠はいつも図書室にいて、よく綾菜とも話していた。       

 だけど、それだけではなくて何か大事なことを忘れているような気がした。誠ともう学校で会えないことがこんなにも悲しいなんて何故だろうか。


 その日の昼休みに綾菜は図書室へ行く。誠がいつもの席で将棋の本を読んでいた。

 

「誠くん……」

「綾菜ちゃん……」

「引っ越すって本当?」

「……うん」

「そっか……」

 

 それ以上綾菜は何も言えずに図書室を出た。誠も綾菜と離れるのが辛かった。気の合う幼馴染だからだろうか。だが、綾菜同様に何か大事なことを忘れているような気がしていた。


 自宅に帰った綾菜は部屋に閉じこもって一人で泣いていた。様子がおかしいと思った母親が部屋に来てくれる。

 

「ママ……誠くんが……誠くんが……うわぁぁぁん!!」

「もう分かったのね、綾菜……寂しいわね。誠くんのお母さんとは幼稚園の時から一緒だったから、メールが来たのよ。夏休み中に引っ越すって。日にちも聞いたわ。だから、一緒に見送りに行く?」

「うん……」



 ※※※



 一学期の終わりにミドリのお別れ会が開催され、みんなで書いた色紙をもらったミドリも泣きそうになっていた。

 

「ありがとう。みんな……」

「ミドリちゃん」と勝則が言う。

「俺、またミドリちゃんに会える気がするんだ。だから……寂しくない。何かあったら俺の家に来てくれていいし」

「勝則くん……ありがとう」

 周りからヒューヒューという声が聞こえていた。


 

 そして夏休みに入り、誠が引っ越す日が近づいて来た。綾菜は相変わらず泣いていることが多かったが、四年生の夏休みの宿題がそこそこ多かったため、泣いている場合でもなかった。

 

「あたしと歴史の話ができる唯一の人だったのに……」

「綾菜は歴史が好きだものね。だけど、また気の合う子は現れるわ。六年生で歴史を習う頃にはみんなと話せるんじゃない?」と母親に励まされた。


 誠の引っ越しは週末であったが、その前に時間を取ってもらって市民センターの談話スペースで会う約束をした。ソファで母親同士の話が盛り上がっている中、綾菜と誠はお互い何を話していいのかわからなかった。

 

 寂しい……離れたくない……だけどそんなことを言ったら誠にどう思われるか、と気にする綾菜。そんな綾菜に誠が言う。

 

「あのさ……僕はまた綾菜ちゃんに会える気がする」

 勝則がミドリに言ったことと同じようなことを言う誠。

「本当……? また会える……? あたし誠くんがいないと歴史の話もできないし……戦国武将の話だってできないし……それと……」

 それと……の続きが出てこない。とにかく誠のそばにいたい。どうしてだろうか。


「僕も本当は綾菜ちゃんと離れたくないよ」

 誠はそう言って綾菜のまんまるボブカットの頭を撫でた。その瞬間、綾菜には夢の中の「誠様」の姿が見えたような気がした。あの時、彼もこうやって頭を撫でてくれた――そう思うと綾菜の目からは大粒の涙が勝手に出てくる。

 

 ――会いたい……誠様に……会いたい。今は夢の中ではないのだけど。

 

「ううぅ……誠くん……あたしも離れたくないよ……」


 誠も同様に綾菜の頭に触れた途端に、姫君の「綾」の姿が映し出された気がした。あの時、彼女はずっと自分のそばにいてくれたのに、誰かに捕らわれたのだろうか。そう思うと悔しさでいっぱいになる。

 

 ――抱き締めたい、綾をこの手で。今は夢の中ではないのだけど。


 綾菜が泣き止むまでそばにいてくれた誠。気づいたらもう帰る時間である。母親達が待っていた。


 

 そして引っ越し当日、両親に連れられ誠の家まで見送りに行く綾菜。

「ありがとうございました。お世話になりました」

 両親たちが挨拶している隣で誠が言う。

「綾菜ちゃん……元気でね」

「誠くんも……」

 綾菜の目元が潤んでいるのを見た誠が、咄嗟に綾菜の手を握って耳元で囁くように言った。


 

「必ず助けにいくから」



 綾菜が頬を染める。

 まさか誠は……「誠様」なのか。

 

 そうだ、最初に彼に「自分のことは誠と呼んでくれないか」と言われた時に気づくべきだった。

 綾菜は思わず誠に抱きつく。そして同じように耳元で囁いた。



「信じて待ってるから」



 誠も頬を赤くして頷く。

「あら、仲良くしてくれてありがとう。またきっといつか会えるわ」と誠の母親が言う。


 車に乗った誠を見送る綾菜。

「また、会おうねー!」

 大きく手を振っていたが綾菜は目元に涙を浮かべている。

 

 大丈夫だ。

 誠にも夢の誠様にも……絶対にまた会える。

 そう思いながら綾菜はずっと手を振っていた。


 


 

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