20. 息の合った二人の戦い
夢の中で戦国時代を生き、半日以上目覚めず病院に搬送された小学生四人。綾菜、誠、勝則、ミドリは無事に退院し特に問題なく学校生活を送っていた。
綾菜は夢の中で戦国時代を冒険する中で、様々な武将と出会って生きる上で大切なことを学んでいた。目覚めた時に出会った武将に関するものが枕元にあり、本当に夢なのかどうかは分からない。そして自らも姫君となり戦国武将の誠と恋に落ちた。
誠は夢の中で信仰を欠かせない、人の心を大事にする立派な武将となって生きている。その人柄で多くの臣下を率いて負けなしの戦を繰り返している。姫君となった綾菜と恋に落ち、「綾」と呼んで愛していたが、何者かに彼女をさらわれてしまった。
勝則は夢の中で最恐と呼ばれる武将の臣下、勝となっており、常に最恐武将の最精鋭として成功をおさめたと言われる者。姫君の綾菜をとらえたのも彼である。
ミドリも勝則と同様に、夢の中では最恐武将に仕える忍びの者、翠として活躍。普段は姫君の姿で最恐武将に想いを寄せる女性である。
この四人のうち、歴史好きの綾菜と誠は夢の内容をほぼ覚えているが、夢で恋に落ちた相手がお互いだとは思っていない。だが何となく気が合い、お互いを見るとホッとできる存在である。
そして誠は自分がどの武将になっているかも分かっている。その武将が身につけていたであろう漢字一文字の布切れの下半分が誠の手に、上半分は綾菜の手にある。二人はこの布切れを見ながら夢でまた逢えることをいつも願っている。
しかし、夢の中では姫君の綾菜は勝にさらわれて別の城にいる。綾菜がとらわれた城には勝が仕える最恐武将が待っていた。この武将は綾菜を一目見て気に入っており自らの正室にしようとしていた。突き刺すような鋭い目つきの最恐武将、綾菜と二人きりの時には自分を渉と呼ぶように言う。
このような状況で誠は綾菜を取り戻すことができるのだろうか。
「誠様……」
綾菜は学校生活は順調であったが、夜になると漢字一文字の書かれた布切れの上半分を見ながら泣いていた。ただの夢の話であるが、とにかく不安で不安で仕方なかった。
眠るのが怖いとも思った。あの夢の続きを見ることになるのだから。渉という最恐の武将が自分に何をするのか、考えただけで身体が震えてくる。
それでも小学生。眠くなれば眠れるものである。
「おやすみなさい……」
※※※
綾菜が目覚めたのはやはり渉の城のある部屋であった。渉に着せられた姫君の衣装……やはり違和感がある。
そこに渉はおらず、勝が戦の準備をしていた。
「目覚めたか。殿が心配しておったぞ。我はこれから戦へ向かう。殿の命令だ」
彼が言う「殿」というのは渉のことである。
「私も……連れて行ってもらえませんか?」
綾菜はいつも戦国武将が命懸けで戦うところを見てきた。なので今回も勝についていこうとしている。
「そなたはついて来るだろうと思っていたぞ、綾。ただ……殿に言われて危険な目には合わせられない。よって安全な場所に隠れておくのだ……いつもそうしておるようにな」
「ありがとうございます」
「それに着替えてくるのだ」
勝に忍びの服を渡され、綾菜はふすまを開けて奥の部屋にいく。
「勝」
そこに翠が現れた。忍びの格好である。
「何しに来た、翠」
「このようなもの……あなただけに任せられないでしょう? 私も行くわ」
「フフ……仕方ない。いつもついて来るんだな」
「あなたが無能で情けないからに決まってるでしょう? 何でも力任せにやれば良いと思っているあなたには、私のような頭脳を使う忍びが必要よ」
「分かっているさ。それでもな……この世は力が全て。そう教えてくれたのは殿だ。殿のために我……今ゆく!」
「お待たせしました」と綾菜が現れる。
「あら? あなたも行くのね」
「安全なところで見学させるだけだ。彼女に何かあったら我の首が飛ぶ」
「あなた確か綾といったわね? 見てなさい。私達の戦を」
この二人……只者ではないと綾菜は予感していた。
「戦の原因は何でしょうか」と綾菜が尋ねる。
「殿は同盟を結ぶため妹君を相手方に嫁がせた。相手方と共にこの地域を順調に支配していたが……妹君から陣中見舞いが来てな。それは、相手方が裏切りこちらに向かっていることを意味するものであった」
「そんな……」
綾菜は驚く。これまでも裏切り行為は目の当たりにしてきたが、この妹君が自分の夫と、兄である渉が対立することなど望んでいないはずだ。彼女の気持ちを考えるといたたまれない。
「それで我は相手方の臣下と戦う。まずは移動だ。場所は分かっておるな? 翠」
「ええ、ちょうど相手方とこちらの間にある、あの城」
勝と翠、綾菜や兵士軍が馬でその城へ向かった。
城に立てこもり相手方の軍を待つことになる――籠城戦というものであるが、兵士達が全員疲れ切っている。
というのは、あっという間に相手軍に城を包囲されてしまったのだ。さらに水の手も絶たれてしまった。(城攻めの際によくされる戦術であり、城の井戸を枯れさせる等、水源を断つことで相手を弱らせるものである)
「このままでは飢え死にしてしまう……勝様……」と兵士達が苦しそうに言う。
「残りの水を持ってこい」と勝。
そして兵士全員に水を一杯ずつ飲ませる。皆が生き返ったように清々しい。
戦というものは戦術も考えないといけないけれど、一番大切なのは体力なのだ。この時代だから水も食糧も貴重なもの。それを断ち切るなんて……城攻めの基本とはいえやり方が狡いのではないかと綾菜は思う。
勝が全員に向かって言う。
「さて! 水はもうなくなった。よって籠城戦はできない。これより全軍で城の外に出て相手方を撃破する! 行け!」
「無様に飢え死にするよりも討ち死にを選ぶ。それがこの世の掟よ」と翠も言う。
綾菜はまた驚く。
……生きるためにはお水がないと困るので水源を確保するのが先だと思っていた。なのに戦で自分達が討たれようが相手を討つことをまず考えている。これこそが戦が全ての世における、戦国武将なのだ。
一斉に勝の軍が城外へ出ていった。綾菜は隠れて様子を見る。
勝の軍の勢い――もう失うものは何もないといった表情。だからこそ本気で敵に立ち向かえる。勝の太刀さばきは見事なものであり兵士達が勝を守りながら一気に攻めていく。勝は翠に言わせればただの力任せだけの者。だがその力は誰よりも強く見える。殿のためなら命など惜しくないといった声さえ聞こえてくるようだ。
そして一本の矢が相手に命中。この弓矢を使いこなすのは翠である。勝の動きと相手の動きを見ながらちょうど良いタイミングで矢を放つ。そして相手が近くまで来たらすかさず刀を出して斬り倒していた。
勝と翠、この二人の息がぴったりだと綾菜は感じた。力強い勝と周りをよく見ている翠。きっと強い信頼関係があるのだろう。
そして犠牲者は相変わらず多いものの、相手軍の指導者が倒され、勝の軍が勝利した。城攻めに合うところだったのを兵士達の士気を高めてそのままの勢いで討ち取った。まさに命懸けの戦国武将らしいその姿に綾菜は感心してしまう。
「さて……戻るか。翠」
「そうね」
二人や兵士達の後を追って綾菜も戻って行った。




