19. 目覚めた時に
「殿!」
渉の部屋に勝が現れる。
「何をしておられるのですか。次の地域を攻略しなければならないという時に」
「勝か……まぁそう堅いこと言うでない。人生は楽しむことが全てだ。そして次の地域のことは既に考えておる」
「その綾という者に利用価値はあるのですか」
「気を失っているだけだ。もう少しで我のものとなるはずだったのだが」
「殿……彼女は弓矢の名人として我らの軍に加えるはずだったのでは」
「それよりも、この綾という名の姫君を我だけのものにしたい」
「今は大事な時期なのです、どうか殿……次の作戦を……」
勝が必死で渉を説得していると、そこに妖艶な姫君が現れた。
「殿……! 私という者を差し置いてそのような女子を部屋に入れるとは……」
「翠か。そなた、それが殿に対する態度か」と勝が言っている。
この翠という姫君は、器量が良いだけではなく弓矢などの武器も使いこなすという、渉の配下にいる者である。
最恐とも呼ばれる武将の渉に憧れており、勝と共に部隊の先頭に立つこともあるが、普段は美しい姫君の姿をしており、こうして毎日渉の元にやって来る。
「翠、お前は勝と共にこの領地を広げることのみ考えるのだ」
「殿! その暁には……私を貴方の最も近い所に……」
「否。我は決めた。綾を我の正室に」
「うぅっ……殿……私がこれまで……どれほど貴方を想い戦に向かっていたのか……!」
「翠、殿はああなったら手をつけられぬ。こちらへ」と勝が言い、翠を連れて部屋を出た。
※※※
「綾菜っ……! 綾菜っ……!」
誰かの呼ぶ声が聞こえる。綾菜はゆっくり目を開いた。白い天井に白いベッド。母親が綾菜の顔を覗き込んで泣きそうになっている。ここは病室のようだ。
「マ……ママ……?」
「良かった……良かったわ! 綾菜……! ずっと眠っていたからもう……うぅっ……」
窓の外は夕日が見える。綾菜は眠ったまま半日以上目覚めず、病院に運ばれたのであった。
「看護師さんを呼ぶわね」と母親が言ってナースコールを押す。
「ママ……ママぁぁぁ!!」
泣き叫ぶ綾菜を母親が優しく抱き締める。
「怖かった……怖かったよぉぉぉぉ!! いやぁぁぁ!!」
「大丈夫よ……大丈夫だからね……」
間もなくして看護師と主治医が来て血圧などを測定される。その間も綾菜は母親から離れられず涙を流して混乱していた。
「半日以上目覚めないといった症状の子どもが、これで五人。そのうち起きたら異常なほど泣き出す症状を見せたのは、綾菜ちゃんで二人目。脳に異常は見られないので明日には退院できると思いますが、様子を見てあげてください。また同様の症状が現れたらすぐに連絡をください」
主治医がそう言って去って行った。
「綾菜ちゃん、どうして泣いているの?」と看護師が尋ねる。
「うぅ……怖い夢を見たの……」
「うんうん、怖かったんだね。もう大丈夫だからね。何かあったらこのボタンを押してくれたらいいからね」
看護師もそう言って部屋を出ていく。
すると、勢いよくベッドを仕切るカーテンを開ける音がした。
「綾菜ちゃん!」
「うぅ……え……? ミドリちゃん?」
同じクラスのミドリが隣のベッドにいた。ミドリは長い髪が綺麗で流行りに敏感な今時の女の子。何となく扱いやすいという理由で小学生らしいボブカットにしている綾菜とは、別の世界にいるような子である。
「ミドリちゃんも目が覚めなくてここに来たのよ」と母親が言う。
「うん! 何か最近変な夢を見るのよね。覚えていないけど。かっこいいお殿様が出てきたことぐらいしか覚えてないし」
(お殿様……?)
綾菜はミドリも自分と同じような戦国時代の夢を見ているのではないかと思った。
「ミドリちゃん、その夢を見た後って何か紐とか銀貨とか……そういうの落ちていたりしない?」
「え? そんなのないよ。ぐっすり寝たーって感じ」
「綾菜、何かあったの?」と母親に聞かれるが、
「ううん……何でもない……」と綾菜は言う。
「そうだ! 勝則くんと、誠くんも男子部屋にいるんだよ!」
「え……?」
勝則も綾菜と同じクラスで、「ウェーイ!」と言いながら走り回るような賑やかな男子である。眉毛が濃くて顔芸が面白いと言われている。
「二人は……もう起きてるの?」
「うん! さっき勝則くんとデイルームで喋った。誠くんは綾菜ちゃん並みに泣いてたから、喋っていないんだけど」
誠も泣いていたとは。どうしてだろうか。
綾菜は夢であのお兄さんと共にお城で過ごした。一緒に戦に出たももの、そ何故かお兄さんと離れ離れにされてしまった。
「うぅっ……嫌だぁぁぁぁ」
「綾菜……」
母親に抱かれながら綾菜は夢の中の「誠様」と離れてしまったことを思い出しまた泣いてしまった。
その頃、別室で誠も母親に抱きついて泣いていた。
彼は、夢の中で綾という姫君と共に一夜を過ごした。彼女を城に置いていきたかったが、一緒に戦へ向かったのだ。しかし彼女はいなくなってしまい――
「僕のせいだ……うわぁぁぁぁ」
「誠、落ち着いて……」と母親に言われる。
「よぉ、誠♪ 何で泣いてんの?」
誠のベッドの隣にいた勝則が来てくれた。
「だって……だって……」誠はうまく話せない。
「俺さぁ、かっこいいお殿様が出てくる夢を見てさ、さっきミドリちゃんと喋ってたら、何と! 一緒の夢を見てたみたい! はっきり覚えてないけどな。今日は学校も行かずに済んだしラッキー!」
「え……ミドリちゃん?」
「そうそう、あと綾菜ちゃんもいるって。泣いてたみたいだけど」
綾菜も泣いてたとは。どうしてだろうか、会いたくなってくる。
少し落ち着いた頃に勝則が誠を連れて、ミドリが綾菜を連れてデイルームに四人が集まった。
「誠くん……」
「綾菜ちゃん……」
「うぅっ……誠くん……誠くん……!」
「綾菜ちゃん……うぅ……」
また二人が泣き出した。勝則とミドリはよくわからなさそうである。
「あのさ……誠くんの顔見たら……あたし……うわぁぁん!」
――夢で見た「誠様」なのかわからないけれど、まるで誠くんが貴方のように見えた。もう会えないと思っていたから……嬉しくて……会えて嬉しいの……!
「綾菜ちゃん……綾菜ちゃん……!」
――夢で見た「綾」なのかわからないけれど、綾菜ちゃんを見るとホッとした。生きていたんだって思った……まぁ綾菜ちゃんは普通にいるんだけど、どうしてだろう。こんなに綾菜ちゃんに会いたかったなんて……!
二人が肩を寄せ合って泣いている。
「ねぇ、あの二人も同じ夢を見たとか?」とミドリ。
「分かった! 怪獣に追いかけられたんだ」と勝則。
「うわぁ、それは泣くね」
「すごくリアルな怪獣なんだろうな」
デイルームにいる四人の小学生達。彼らを眺めるもう一人の小学生男子がいた。
「あの子が綾か……」
「渉! 何しているの? 帰るわよ」
「ああ、今行くよ。母さん」
お読みいただきありがとうございます。
次回より3章です。新たな展開へ……
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