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18. 争いのその先に

 静かな夜の中、(まこと)は綾菜と共に過ごしていたが、遠くにけむりが上がっているのを見つけた。

 

「あれは……けむり……」

「誠様……?」

 

「あれは飯たきのけむり。あそこまでけむりが多いということは……奴らは夜のうちに城を出て朝方に奇襲をかけると見た。部隊を分けて、我の軍が逃げた先ではさみ撃ちにするといったところだ」

「そんな……」

 

「綾、今から移動する。夜のうちに奴が待ち伏せしているであろう、あの野原へ行く。我の予想が当たれば……部隊を分けているのであれば、そこにいる本隊の軍の数は多くはない。よって、奴を討ち取ることが可能」


「はい……!」

 やはり長年対立してきた武将同士の争いは避けられないということなのか。それでも綾菜は、誠についていくことを決めた。

 

 ――この人のためなら何だって出来る。

 本当はあそこまでの(いくさ)は怖いに決まっているが、それを上回るのが誰かを愛するといった気持ち。

 愛することは時に……その人の性質さえ変えてしまうのかもしれない。


 誠は兵士軍を連れて夜の間に相手軍の本隊が待ち伏せしているであろう、野原へゆく。相手に見つからないように物音を立てず、しかも深い霧が発生したため上手に隠れながら向かうことができた。


 翌朝、誠の予想通り相手軍の別の部隊が、一斉に驚く。誠達がいるはずの場所がもぬけのからとなっていたのだ。

「本陣が危ない! 戻れ!」

 

 そしてその本陣が控えている野原で兵士の一人がすぐに気づく。誠の軍がすぐそこまで近づいてきている。

「何だと! こちらの策を見破られていたということか……おのれ……皆の者! 兵を整え……返り討ちにするのだ!」

 おじさん武将が兵士軍を出動させる。


 しかし、数の上では誠の方が断然有利。誠の奇襲におじさんの軍は混乱し、少ない兵力での正面衝突で苦戦している。

 誠の軍から矢も大量に放たれ、次々と相手兵士を命中させていく。

 

 ――今のうちに、相手の別部隊がこちらに戻るまでに……奴を倒す。


 綾菜は物陰でじっと見守っていた。

 彼の言った通り、圧倒的にこちらが攻めている。もう少しで誠様は相手のおじさん武将を討ち取るのだろうか。その瞬間を見届けたい。

 

 でもその前におじさん武将が降参してくれて、おじさん武将とも仲良くして欲しいとも思う。

 

 ――私は一体何がしたいの……? このまま誠様の野望が……叶ってほしいのに……


 順調に誠の軍がおじさんの軍を斬り倒していったが、兵士が気づく。

「殿! 別部隊が川を回ってもうじきこちらへ来ます! このままでは危のうございます!」

「来たか……そうなればこちらがはさみ打ちになる……」

「向こうの軍の数は多いです、ここは一旦撤退を……」

 

 その声が聞こえた綾菜も思う。

 誠の命が危ない。もうこのぐらいで良いのではないだろうか。おじさん武将を許してあげて欲しい。

 

 ――そして……貴方も生きて……!


 しかし誠の目が鋭くカッと光る。

「一刻の猶予もない! 我は行く!」

「殿! まさか……」

 

 誠はおじさん武将の元へ馬に乗って一人で向かう。前もそうだった。供をつけずに一人でおじさん武将の元へ向かう誠。

 その勇気ある、いや勇気といった簡単な言葉では表せないほどの覚悟と野望、さらにその上のものを持っている彼の姿は……兵士達はもちろん、綾菜の心にも強く衝撃を与えるものであった。


「いや……誠様……!」

 綾菜が立ち上がり、馬で同じ方向へゆく。

 誠が刀を持ち、おじさん武将の元へ勢いよく飛び込む。周りの兵士をあっという間に斬り倒してからおじさん武将を睨みつける。

 

「覚悟!」

「何……?」


 

 バッキーーーーーーーン!



 誠が振り下ろした刀を、おじさん武将はいつも手にしている軍配団扇で受けた。

 

 それを見た綾菜。

 何という戦いだろう。どちらも強いのは分かっていたが、ここまで「命」をかけて相手を討ち取ろうとする誠様は――どうしても目が離せなくてどうしようもなく愛してしまう。


 ――私が憧れる、戦国武将の姿がそこにある。


「誠様……!」

 

 その時だった。

 綾菜の目の前に黒い布のようなものが覆い被さり、身体が浮く。一瞬で自分が何者かに捕らわれたことがわかった。お腹のあたりに衝撃を感じ、意識が遠のいていく。

 

「うっ……誠……様……」

 誰かの馬に乗せられた綾菜はどこかへ向かっていく。


 

「殿! お怪我はありませんか!」と誠に言う兵士。

「ついに奴を討ち取ることができなかったか……別部隊も来たな……撤退だ! お前たちは先に戻るのだ!」

 悔しい表情の誠。しかし相手の武将の悪運の強さには、かなわないとも思っている。

 

「綾……綾……!」

 誠が綾菜を探すがどこにもいない。まさか倒されたのでは……?

「綾……! いないのか? 綾……我だ!」

 

 ふと端の方に誠が綾菜に渡した弓矢が落ちているのを見つけた。綾菜の馬も近くにいる。彼女だけが……消えている……?


 誠は馬から降りて弓矢を手に取る。

「綾……まさか何者かに……? 綾……その声で我を呼んでくれぬか……綾……!」

 まだ相手の軍が近くにいる……仕方なく誠は弓矢を手に取り、馬で撤退する。

 そして何度も彼女を連れてきた自分を責めていた。涙が止まらず苦しみながら、誠は城へ戻っていく。



 ※※※



 綾菜はある城の部屋で目覚めた。忍びの格好をしていたはずだが、姫君の姿である。だがこの着物の柄は、誠の城のものではない。

 起き上がり、恐る恐る周りを見渡す。そこにいるのは一人の堂々たる武将とその家臣。

 

(かつ)、よくやった。下がれ」

 家臣は勝という者らしい。

 この者に捕らわれて綾菜はこの武将の元に来たのか。

 

 そしてその武将は、すぐに誰か分かった。

 大胆かつ革新的、恐ろしいほどの威厳のある武将。この世で知らない人はいないであろう……圧倒的存在感のある、あの武将。


 綾菜は何も言えない。

 その並々ならぬ彼のオーラに圧倒されてしまう。怖い、とにかく怖い。

 

「我の城へよう来たな……弓矢の達人だと勝から聞いておったが……まさか女子(おなご)だったとは」

「私を……どうするおつもりでしょうか?」

 

「その腕を見込んで我の元にと思っていたが……美しい……ずっと手に入れたかった……そなたのような美しき姫君を……綾」


 誠様以外の人に「綾」と呼ばれてしまうとは。いつ、どこで自分が綾だと分かったのだろうか

「勝の情報収集力を甘く見るでないぞ?」

 やはりあの勝という者にどこかで見られていたのか。


 武将が綾菜の布団のすぐ側まで近づいてくる。逃げたいのに、その鋭い目で突き刺すように見られると身体が動かない。

 

 綾菜の頬に手を添えてその武将は言う。

「我と二人きりの時は、(わたる)と呼んでくれぬか? 綾……」

 

 ――嫌だ。誠様以外の人とこんなこと、できない。

 

「我は欲しいものは全て手に入れる。天下統一に最も近い所にいるのがこの我だ‥‥そなたも我のもの……!」

「いやぁっ……!」

 

 あっという間に渉が綾菜に覆い被さり、綾菜は気を失ってしまった。


 


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