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17. この世の定め

 (まこと)が長年対立してきた相手との決闘。その相手は、綾菜が以前に夢で会ったことのある立派な(かぶと)甲冑(かっちゅう)を身につけた偉大なる武将。

 

 綾菜はこの二人が戦うことなど望んでいない。

 何故なら二人とも民の平和を願っていた、困った人々に手を差し伸べていた。それなら、こんなに素晴らしき武将二人が手を取り合ってこの領域をまとめ上げれば済むことではないのか?

 

 どうして争うのだろうか――


 誠が叫ぶ。

「我が領地の城を返してもらう! 覚悟!」

 おじさんも叫ぶ。

「今度こそ決着をつける! 迎え討つのだ!」

 

 両軍の兵士達が一斉に馬で走り出し、激闘が始まる。つばぜり合いのキーンという音が響き、ドサッと人々が落とされる音。

 

 燃え盛る炎のように熱い命をかけ、天下統一を目指し、その目はこれまでの戦国の世を思い出すかのように、必死に相手に喰らいつく。

 

 ――欲しいものは貴様の命。

 ――欲しいものはこの世の全て。


 綾菜が今まで見た(いくさ)の中で最も恐ろしい、そして切迫した状況。

 

 命が……かかっている。

「いやぁぁ!!」

 

 綾菜も叫ぶが、両軍の死闘の中、その声はあっという間に掻き消される。


 ――今、私に出来ることは。


 その時、誠が自ら相手方のおじさんのところに馬で向かった。おじさんも誠の方に向かう。

「覚悟せよ!」

「お前!」


 ヒュッ


 二人の間を一本の矢がまっすぐに横切った。綾菜が矢を放ったのだ。

 

「やめて……もう……やめて……!」

 相手方のおじさん武将が気づく。

「何だ……今のは……? そこに誰かいるのか? 貴様……」

 

 おじさん武将がそう言っている間に、兵士軍の数が徐々に減っていき体勢的に不利になってきた。おじさんは仕方なく引き返す。

「またもや勝負がつかなかったか……あの矢は何だ? 我の軍でも奴の軍でもない匂いがする……」

 そうおじさんは言って去っていく。


「ハァ……ハァ……」

 綾菜は胸が苦しくなってきた。

 

 ――私がこんなこと……(いくさ)の邪魔になるようなことをしてしまった。でも……これ以上争わないでほしかったの。あのおじさんと誠様は……二人とも立派な武将なんだもの。私がずっと憧れていた戦国武将なの……!

 

 誠は驚いた。

 あの一本の矢がちょうど自分達の目の前を横切った。前は見事に相手の腕に命中させた綾である。彼女であれば的を外しはしないはずだ。一体何のために、あのようなことをしたのだろうか。

 

 誠の軍もいったん引き返し、近くの川の側で兵士達と休息を取る。すっかり日も落ちようとしていた。兵士達に声をかけながら、彼は綾菜の方へやって来た。


「綾、こちらへ」

 兵士達に見つからない場所へ移動し、誠が問いかける。

「何故あのようなことを? もう少しで奴を討ち取るところまで来たのだ」

 

「私は……もうこれ以上……見ていられなくて……」

「何を言っておる。奴を倒さねばこちらが倒されるのだ」

 

「申し訳ございません。私は……少女の頃にあの武将と会ったことがあるのです。その時にあの方はおっしゃっていました。民のため、平和のために出来ることをしたいと……」

「平和にためにできること、それが天下統一だ。綾」


 そうだ。その通りなのだが。

「貴方もあの相手方も願うことは同じ。そうであれば……どうしてこの争いを続ける意味があるのでしょうか?」

「争うことでしか叶わぬことだってあるのだ……この世では(いくさ)をする以外の方法などない。命懸けで取りに行く、それしかやり方はないのだ」

 

「本当にそうでしょうか……」

「強き者が生き残る時代――それが戦国の世。この世に生まれたからには、天下統一をなし得ない限り(いくさ)が繰り返されることは、運命で定まっておるのだ」


「そんな……」

 戦国の世のことは分かっていた。

 それでも戦国武将のおじさん達と関わっていく中で、皆がそれぞれ民を思い平和を願っていること、一致団結して困った人達を助けること、そして人の心の大切さが分かった。そんな武将達が共存することなど……叶わないのだろうか。

 

「綾……こんな世の中だからこそ……大切なものが分かるのだ。(いくさ)の苦しみの中でも思い浮かぶ、そなたの姿……そなたを我が一生かけて守りたいと強く思うのだ」


「うぅっ……」

 綾菜が誠の腕の中で涙を流す。

 

「あのように矢を放ってしまい、申し訳ありませんでした。怖かったのです。私は……貴方達の争う姿を見たくなかったのです……皆が同じように平和な世の中を願っているのに叶わないのかと……」

「そうか」

 

「でも私も一番大切に思うのは……貴方のことです。怖くても……辛くても……貴方のことばかり想うのです……」

「綾……愛おしい綾よ……今はそなたと我の二人きりだ、我のことを呼んでくれぬか……そなたの声で呼んでくれぬか?」

 

「ま……誠様……」

「もう一度」

「誠様……」

「綾……」


 周りはすっかり静かになった。その中で誠と綾菜は離れずに小声で名前を呼び合いながら、二人だけの落ち着いたひとときを過ごすのであった。




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