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10. やっと会えた……抑えられない気持ち

「はぁー楽しかった!」

「綾菜ちゃん、声が大きい」

「あ……いけないいけない……」

 

 放課後、多目的室でこっそりお互いがタブレットで作った歴史クイズで遊んでいた綾菜と(まこと)。二人とも小学四年生だが歴史、その中でも戦国時代の武将に憧れを持っている。


 綾菜は戦国時代を冒険する夢を見たことが何度かある。目が覚めると出会った戦国武将に関する何かが枕元にあるので、本当に夢なのかはわからない。

 その中でも彼女がもう一度夢で会いたいランキング、一位を誇る武将、夢で「人の心」や「相手への思いやり」の大切さを教えてくれた、なおかつ(いくさ)上手で頼りになるあのお兄さんのことが気になって仕方ない。

 

 もちろんきちんと調べたため、あの武将だということはわかっており、今回のクイズにも沢山盛り込んだ。


 その綾菜のマニアックなクイズを全問正解した同級生の誠は将棋が強く、歴史も好きな少年だが、自身が夢で戦国武将となっていたことがある。

 その武将こそ綾菜がもう一度会いたい武将であるのだが、彼が誠であることにもちろん綾菜は気づいていない。

 

 誠も何故自分がその武将になっているのかわかっていない。夢で綾菜と会った時は「何故いるんだ」と思っていたが、その綾菜が現実ではその武将を気にしている。


 

 夢にいた綾菜は、今そこにいる綾菜なのだろうか。それとも彼女を気にしていたから夢に出て来たのだろうか。


 

 さらに誠の夢にさらに美しき姫君が現れた。

 どこか綾菜と雰囲気が似ている気がするが……。

 

 何故彼女のことばかり、考えてしまうのか。

 

「誠くんまったねー!」

「うん、またね」


 やっと自分の歴史クイズを解いてくれる人が出来て嬉しい綾菜。

 誠にはあっさり全問正解されてしまったので、もう少し考え直さなければならない。前から誠は歴史の本を読んでいたし、綾菜の憧れている武将に関しても詳しい。

 

「誠くんはすごいな……あたしもちゃんと勉強しないと」

 そして今日こそはあのお兄さんに会いたいと思う綾菜である。

「あたし、これまでいい子でいたし、今日はタブレットのクイズも誠くんが遊んでくれたし……追い風吹いてるよね? ああ、お兄さんに会いたい……!」

 

 お空に強く願って綾菜は眠りについた。



 ※※※



 綾菜が目覚めたのは、とある部屋の布団の上。

 身体が重くて少し眩暈がする。

 

 それでもすぐに気づいた。あのお兄さんの部屋だ。

 そして目の前に――彼がいる。

 

 だが不思議なことに、お兄さんと目線が同じぐらいなのだ。手足が妙に長い……髪も長くてつやつやしている。ようやく綾菜は自身が姫君の姿になっていることに気づいた。

 

 (どうなっているの? 私は……成長したということ?)


 お兄さんが心配そうにこちらを見ている。

「そなた……あの領地で倒れておったが怪我はないか」

「はい……」

「それは良かった」と、お兄さんが安堵の表情をする。

 

 ――そう、私は貴方のそのお顔を……もう一度見たかった。いつも貴方のことを考えながら生きていた。

 

「また貴方に会えたのですね……」

 

 ――どうしよう、本当にまたお会いできるなんて……夢のよう……いや、ここは夢のはずなのに……こんなに貴方に心惹かれるのはどうして……?


 すると怪しまれたのか「そなたは何者だ」と彼に言われる。

 

 ――私は一体……誰だったっけ……? ただ夢で貴方のご活躍を見ていた少女なのですが……

 

 綾菜は、本当に少女だったのかどうかも忘れかけている。

 

「私は……自分が何者なのかがわからないのです」

「そうか。では何故あの領地にいた」

 

 ――それは……貴方が(いくさ)の時に連れて行ってくれたからじゃないの……私を馬に乗せて領地に向かって疾走したはず。

 

 ――その後は命懸けで戦う貴方の姿を見て……もっと貴方を知りたいと思うようになった。貴方が平和の世を成し遂げたときに隣に一緒にいたい。このような戦国の世でも貴方となら共に生きたいと。

 

「貴方と共に生きたいと思っていたからです。ずっと……貴方をお慕いしておりました。このような世の中でも、貴方は自分のことだけでなく相手のことを考えていらっしゃる……人の心、相手を思いやる大切さを私は貴方から教わりました」


 彼は少し困っている顔をしているが綾菜を真っ直ぐに見て話す。

「すまない、そなたのことを存じ上げていないようだ。しかし……我もそなたと共に生きてゆきたいと思うのに、理由は必要であろうか」

「私は、理由など必要ございません。貴方の思うままに……」

 

 綾菜が彼に寄り添う。

 

 ――お願いします、どんな時でも私を離さないでいただけますか……?

 

「そばにいてくれるか……?」

「はい……いつまでも」



 ※※※



 一晩共に過ごした夜。

 戦国の世でも夜はこんなにも静かで、隣にいる彼の温もりが愛おしい。

 

 朝になり、綾菜は彼と庭を散歩する。

「いけないことであろうか。いつ何が起こるか分からない世の中で、そなたとこうやって過ごすことは」

 

「私は何となく……戦国の世を知っていただけです。この世の中、領地を拡大したい者が多い中で貴方は違った。まず領地を奪われた人を救ったのです。気持ちの弱っている時こそ良い機会だと考える者が多い中、貴方は決してそのようなことはしない。それが相手を思う心……私はその心に感銘を受け、貴方について行きたいと思ったのです」


「そなた……我をどこで見ていたのか?」

 

 ――どうしよう。少女の姿で何度か会っていましたなんて言えるのか、無理だろう。それでも……分かってもらいたい。

 

「貴方が庭で弓矢を放っていた時です……」

「それは……」

 弓矢を持った時に彼を見ていた女子(おなご)はいないはずである。しかし――

 

 彼がハッと気づく。一人だけ、子どもであるが少女がいた。でもまさか、そんなわけがないと考え込む。


「そうか、そなたには隠し事はできなさそうだな」

 綾菜のことが頭によぎるものの、それ以上のことは分からず、彼はこう言うしかなかった。

 

 お兄さんが優しく微笑んでいるのを見て綾菜は頬を染める。(いくさ)の勇ましい顔つきとは異なる……穏やかな表情。

 

 ――私に見せてくれる……この戦国の世なのに一時の安心を与えてくれる貴方の姿。


 ――この人のことが好き……この気持ちを抑えることなどできない。


 ――でも貴方は人々のために戦いを選ぶ武将……私と一緒にいることは叶うのでしょうか?


 

 部屋に戻って綾菜は彼に見つめられる。

 

「そなたを誰にも見せたくない。どうかしばらくここで待ってくれるか?」

「はい……」


 あの姫君は、自分が守る。

 そう決めた彼の元に、領地を奪われた者がまたやって来た。

「人々の生活を脅かす者……許せぬ」

 先に姫君の部屋に行って、事情を話す。


「私も貴方と一緒に行きます……!」と姫である綾菜が言う。

「そなたを危険な目に合わせる訳にはいかぬ」

「前は一緒に連れて行ってくださったじゃないですか……!」

 

「前は」という言葉に引っかかる彼。この姫君はやはりあの少女なのだろうか。つまり……。

 彼が姫をじっと見る。


 しかしそんなことを考える余裕などない。この間にも敵が領地を狙ってくる。

 綾菜だろうがそうでなかろうが……この姫の目には覚悟が見える。

 

「行こう、そなたと共に」

 彼女の手を取り、向かう――(いくさ)の地へ。




お読みいただきありがとうございます。次回より2章です。成長した綾菜が戦についていきます。

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