第6章:最後の選択
崩壊の危機に瀕した施設の中で、時間が容赦なく過ぎていく。メリイムウスとサラは、必死でプログラムの制御を試みていた。
「あと1分!」
メリイムウスが叫ぶ。
「でも、まだコアシステムにアクセスできない!」
その時、サラが何かに気付いたような表情を見せる。
「待って……このコード」
彼女の指が、画面の一点を指す。
「これ、緊急シャットダウンプロトコルよ。でも、パスワードが……」
突然、リナの記憶に何かが蘇った。
「さっきの映像!」
彼女が叫ぶ。
「シュミットが最後に入力していたコマンド。あれが、パスワードかもしれない!」
サラの目が輝く。
「そう! でも、あのとき画面に映っていたのは……」
「私が覚えてる!」
メリイムウスが声を上げる。
「写真のような記憶力があるんだ。確か……」
少年の指が、キーボードの上を走る。長い数列が、画面に入力されていく。
しかし、その時、予期せぬ事態が起きた。
施設の入り口から、数人の武装した集団が突入してきたのだ。彼らは、先ほどまで外で戦闘を繰り広げていた生存者たちだった。
「邪魔するな!」
彼らの一人が叫ぶ。
「過去に戻るんだ。こんな地獄のような世界なんて、消してしまえ!」
リナは、即座にレーザーピストルを構える。
「近づかないで」
彼女の声は、冷静さを保っていた。
「私たちは、未来を選ぶ。記憶を消して逃げ出すようなことはしない」
「馬鹿な」
武装集団の男が吐き捨てるように言う。
「どうせまた同じことの繰り返しだ。人類に未来なんてない!」
その言葉に、リナは静かに首を振った。
「違うわ」
彼女は言う。
「これまでのゲームが証明している。私たちは、協力することもできる。知恵を絞ることもできる。そして何より――」
一瞬の間。
「過ちから学ぶことができる」
その時、メリイムウスの声が響いた。
「できた!」
画面に、確認のメッセージが表示される。
しかし、武装集団はそれを許すつもりはなかった。彼らの武器が、一斉にリナたちに向けられる。
「させるか!」
引き金が引かれる瞬間、予想外の出来事が起きた。
施設の天井から、まばゆい光が降り注いだのだ。それは、渦の中の星々からではなく、別の場所から来ていた。
「アストラル・アーク、最終判定を下します」
アークの声が響く。
「あなたたちは、試練を乗り越えました」
光は、武装集団を包み込む。彼らの武器が、まるで溶けるように消えていく。
「過去への逃避ではなく、未来への挑戦を選んだ。それこそが、人類に求められていた答えです」
リナたちの前に、小さな光球が現れる。
「これが、あなたたちへの報酬です。そして、新たな試練の始まりでもあります」
メリイムウスが、おそるおそる光球に手を伸ばす。それに触れた瞬間、光球が広がり始めた。
その中に、一つの映像が浮かび上がる。
それは、地球再生のための設計図だった。
「これは……」
サラが息を呑む。
「環境修復システムの完全な設計図。これがあれば、理論的には……」
「地球を、元に戻せる」
リナが言葉を継ぐ。
「でも、それには時間がかかる。そして、すべての人類の協力が必要になる」
アークの声が、再び響く。
「その通りです。これは、一朝一夕には実現できない計画です。しかし、あなたたちはその準備ができている。なぜなら――」
一瞬の間。
「もう、一人で戦う必要はないのですから」
その言葉とともに、施設の揺れが徐々に収まっていく。上空の渦も、ゆっくりと消えていった。
残されたのは、朝日に照らされた廃墟と、新たな希望の証だった。
リナは、静かに光球を見つめた。
これが、本当の戦いの始まり。
しかし今度は、人類全体で取り組む戦いになる。
彼女は、その確信を胸に抱いていた。