第4章:星空の真実
朝日が地平線から昇り始めた時、生存者たちは徐々に我に返り始めていた。先ほどまでの戦闘の痕跡が、朝もやの中にぼんやりと浮かび上がる。
「まだ信じられないわ」
サラが静かに呟いた。彼女の表情には、困惑と理解が入り混じっている。
「でも、考えてみれば分かるはずだった。アークの行動には、すべて意味があった」
リナは黙って聞いていた。確かに、これまでのゲームも、すべて意図的なものだったのだろう。人類の協調性、知性、そして道徳心を試すための仕掛けだった。
「でも、まだ分からないことがある」
メリイムウスが口を開く。
「どうして、今になってこの真実を明かしたんだろう?」
その問いに答えるように、再び機械音声が響く。
「最終フェーズを開始します」
全員の視線が、再び装置に向けられる。しかし今度は、それは過去を映し出すのではなかった。
代わりに、巨大なホログラムが空中に展開される。それは、地球全体の姿を示していた。そして、その表面には無数の点が光っていた。
「これらは、世界中に設置された同様の施設を示しています」
機械音声が説明を続ける。
「そして今、すべての施設で同じ真実が明かされました」
リナは息を呑む。この光景が意味するものを理解し始めていた。
「つまり、これは世界規模の……」
「そうです」
機械音声が、リナの言葉を遮る。
「これは、人類全体に対する呼びかけです」
ホログラムの中で、光点が互いにつながり始める。それは、まるで星座のように、一つの巨大なパターンを形作っていく。
「見て」
メリイムウスが指差す。
「これ、さっきの暗号と同じ構造!」
確かに、光点のパターンは、彼らが解読した星座暗号と酷似していた。しかし今度は、その意味は明確だった。
それは、協力を呼びかける信号だったのだ。
「人類は、もう一度チャンスを与えられた」
機械音声が告げる。
「しかし、それを活かすかどうかは、あなたたち次第です」
サラが、ゆっくりと前に踏み出す。
「私には、分かるわ」
彼女の声は、確信に満ちていた。
「これは、新しい始まり。でも、簡単な道のりじゃない」
リナも頷く。これまでのゲームは、まさにその縮図だった。争いと協力、裏切りと信頼。人類は、その両方の可能性を持っている。
「ねえ」
メリイムウスが、空を見上げながら言う。
「もしかしたら、星を見上げることができる日が、また来るのかな」
その言葉に、リナは微かな希望を感じた。確かに、それは遠い未来かもしれない。しかし、不可能ではないはずだ。
「きっと来るわ」
彼女は答えた。
「でも、そのためには――」
その時、突然の振動が施設全体を揺るがした。
「警告」
機械音声が、緊迫した調子で響く。
「予期せぬ反応を検知。施設の量子観測装置に異常が発生しています」
装置が、不規則な光を放ち始める。その様子は、明らかに制御不能な状態を示していた。
「これは……」
サラの表情が変わる。
「まずい! 装置が暴走している!」
施設からは、轟音が響き始めた。床が揺れ、壁にはヒビが入り始める。
「避難を!」
リナが叫ぶ。しかし、その声が届く前に、さらに激しい振動が襲う。
そして、予想もしない光景が、彼らの目の前で展開され始めた。
暴走した装置は、もはや過去を映し出すだけではなかった。それは、時空そのものを歪め始めているように見えた。
施設の上空に、巨大な渦が形成され始める。その中には、星々が見えた。しかし、それは単なる映像ではなかった。
現実の星空が、彼らの目の前に開かれようとしていたのだ。




