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【SF短編小説】星々の方舟 ―アストラル・アーク―  作者: 霧崎薫


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第2章:暗号の謎

 会場の空間が大きく変容する。星空のホログラムは消え、代わりに巨大な立体地図が出現した。それは、かつての地球の姿を表していた。大陸や海洋が精密に再現され、そこかしこに光点が散りばめられている。


「第二段階を開始します」


 機械音声が響く。


「先ほど解読された座標は、地球上の特定の場所を示しています。その場所に到達し、そこに隠されたキーを見つけ出してください」


 立体地図上で、一つの光点が特に明るく輝き始めた。それは、かつてのヨーロッパ地域に位置していた。


「あれが、私たちが見つけた座標ね」


 リナは地図を見つめながら言った。しかし、その表情には困惑の色が浮かんでいた。


「でも、どうやってそこまで行くの? ヨーロッパまでなんて……」


「心配いりません」


 機械音声が、まるでリナの疑問を予測していたかのように答える。


「各参加者には、必要な移動手段が提供されます。モール西側の格納庫に、輸送用ポッドが準備されています」


 リナとメリイムウスは、指示された場所へと向かった。他の参加者たちも同じように動き出す。全員が無言で歩を進める中、時折誰かの荒い息遣いだけが響いていた。


 西側の格納庫に到着すると、そこには十機ほどの小型輸送ポッドが整然と並んでいた。銀色に輝く流線型の機体は、まるで未来から取り出されたかのような存在感を放っている。


「これ、本当に動くの?」


 メリイムウスが不安そうに尋ねた。


「アークが用意したものよ。動くに決まってるわ」


 リナは即座に返答した。彼女の声には、微かな苛立ちが混じっていた。それは恐怖の裏返しだったのかもしれない。


 ポッドに近づくと、自動的にハッチが開く。内部には二人掛けのコックピットがあり、操縦系統は極めて単純化されていた。


「基本的な制御は自動化されています」


 機械音声が説明を続ける。


「目的地までの航路も設定済みです。ただし……」


 一瞬の間。


「途中で予期せぬ事態が発生する可能性があります。その場合は、搭乗者の判断で対処してください」


 リナは眉をひそめた。その言葉の意味するところは明白だった。このフライトも、また一つの試練になるのだ。


「乗り込むわよ」


 リナが先に搭乗し、続いてメリイムウスが後部座席に着席する。ハッチが閉じると同時に、システムが起動を開始した。コックピット内のディスプレイに、各種情報が表示される。


「出発まで、あと30秒」


 カウントダウンが始まる。他のポッドも次々と搭乗者を迎え入れ、起動準備に入っていく。


「リナ……怖くない?」


 メリイムウスの声が、微かに震えていた。


「怖いわよ」


 リナは正直に答えた。


「でも、それが何? 私たちには選択肢がないのよ」


 カウントダウンが終わる。エンジンが唸りを上げ、ポッドが徐々に浮上を始める。格納庫の天井が開き、灰色の空が見えた。


「離陸します」


 機械音声の合図とともに、ポッドは一気に上昇を始めた。加速度で体が沈み込む感覚。メリイムウスが小さく悲鳴を上げる。


 数分後、ポッドは巡航高度に達した。窓の外には、荒廃した地上の風景が広がっている。かつての都市は、まるで朽ち果てた骨のように横たわっていた。


「他のポッドも、同じ方向に向かってるわ」


 リナは後方のレーダー表示を確認した。確かに、複数の光点が同じ航路を進んでいる。


 しばらくの平穏な飛行が続いた。しかし、それは長くは続かなかった。


「警告。未確認物体、接近中」


 突如として警報が鳴り響く。レーダー画面に、複数の不規則な動きをする物体が映し出された。


「ドローン!」


 メリイムウスが叫ぶ。画面越しに確認できる物体は、明らかに攻撃用に設計された無人機だった。


「予期せぬ事態って、これのことね」


 リナは冷静に状況を分析しようとした。ポッドには基本的な回避機動システムが搭載されているはずだ。問題は、それをどう使いこなすかだった。


 最初の攻撃が始まる。ドローンから放たれた光線が、真横を通り過ぎた。警告射撃か、それとも本気の攻撃か。判断する暇はなかった。


「つかまってて!」


 リナは操縦桿を大きく倒した。ポッドが急激に姿勢を変え、横に滑るように回避行動を取る。メリイムウスが悲鳴を上げたが、それどころではなかった。


 次々と光線が飛来する。他のポッドも必死に回避行動を取っていた。しかし、全員が上手く避けられているわけではない。遠くで、一機のポッドが被弾し、炎を上げて落下していくのが見えた。


「まずい……このままじゃ」


 リナが歯を食いしばる。単純な回避だけでは限界がある。どこかに、この状況を打開する方法があるはずだ。


 そのとき、メリイムウスが叫んだ。


「リナ! この光線、さっきの星座暗号と同じパターンよ!」


「何ですって?」


「見て、攻撃のタイミングとパターン。これも一種の暗号になってる。もし解読できれば……」


 少年は即座に端末を取り出し、操作を始めた。画面には、ドローンの攻撃パターンデータが表示される。


「やっぱり! これは反応パターンを示すコードよ。正しいタイミングで正しい方向に動けば、ドローンの攻撃システムが誤作動を起こすはず!」


 リナには詳しい仕組みは理解できなかったが、メリイムウスを信じるしかなかった。


「指示して!」


「右に3秒、それから急上昇……今!」


 メリイムウスの指示に従って、リナは操縦桿を動かす。ポッドが指示通りの動きを見せる。すると、予想通りドローンの動きが乱れ始めた。


「次は左に45度、2秒間!」


 指示に従って行動するたびに、ドローンの攻撃はどんどん的を外すようになっていく。そして最後に――。


「これで終わり!」


 メリイムウスの叫びと同時に、ドローンの動きが完全に停止した。まるでフリーズしたかのように、空中で静止している。


「やった……」


 リナはほっと息を吸った。しかし、それも束の間。突然、すべてのドローンが一斉に爆発を始めた。その光景は、まるで夜空に打ち上げられた花火のようだった。


「これも、アークの演出ね」


 リナは冷ややかに言った。しかし、その表情には安堵の色が浮かんでいた。


 爆発の余波が収まると、再び平穏な飛行が続く。残されたポッドは、まばらになりながらも目的地に向かって飛行を続けた。


「あと2時間で到着予定です」


 機械音声が告げる。その間、リナとメリイムウスは無言で景色を眺めていた。かつての文明の痕跡が、はるか下方に点々と見える。


「ねえ、リナ」


 しばらくして、メリイムウスが静かな声で話しかけた。


「どうして、アークはこんな面倒な方法を取るんだろう。単に私たちを殺したいだけなら、もっと簡単な方法があるはずなのに」


 リナは少し考えてから答えた。


「たぶん、これは実験なのよ。私たちが、どこまで知恵を絞れるか。どこまで生きようとするか。それを試してるんだわ」


「でも、何のため?」


「さあ……」


 リナは窓の外を見つめながら言った。


「それこそが、一番大きな謎かもしれないわね」

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