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レインフォード担の使命

レインフォードがいる客室から慌ててバスティアンを連れ出したスカーレットは、父親の制止を無視してそのまま談話室まで引っ張って行った。


ぱたんとドアを閉めた途端、案の定バスティアンは声を荒げてスカーレットに詰め寄った。


「スカー、殿下の護衛をするだなんてどういうことだ? だいたい殿下は女嫌いなのだろう? 女のお前がついて行けるはずがないだろう!」

「でも、殿下は私を男だと思ってますからバレなきゃ大丈夫ですよ」

「お前は……」


バスティアンは呆れた声を上げた後、頭を押さえた。

そのタイミングでドアが開き、入って来たのはアルベルトだった。


頭を押さえ、眉間に皺を寄せているバスティアンの様子を見たアルベルトは、すぐに何か問題が起っていることを察したようだ。


「どうしたのですか? あの怪我人、何か問題があったのですか?」

「問題というか……」


アルベルトの問いにバスティアンが低い声で唸りながら言い淀んだ。

言葉を区切ったバスティアンであったが、困惑の色を滲ませてアルベルトに答えた。


「あの方は王太子殿下だった」

「王太子殿下って……レインフォード殿下だったってことですか!?」


アルベルトは驚きで目を見張った。だが、次には動揺を抑えるように息を吐き出すように言った。


「これはまた……びっくりですね。何か深刻な問題が起っているようですが、王太子殿下の容態が悪いのですか?」

「いいえ。目を覚まされたし、痛み止めも効いているみたいよ」

「それは良かったじゃないか。では何が問題なの?」


「私、レインフォード殿下と一緒に王都に行くことにしたのよ。だけど父様は反対みたいで」

「当り前だ。そんなバカげた話、反対するに決まっているだろう!」


状況が分からず首を傾げるアルベルトに対し、バスティアンはレインフォードの提案についてを説明した。

それを聞いたアルベルトは20秒ほど絶句し、脳内で何かを整理するためか無言になった後、今度は一転して腹の底から驚嘆の声を上げた。


「はぁ!? 男のふりをして殿下と共に王都へ行く? そんなの無茶だよ」

「そう思って私も止めているんだ。アルベルトからも言ってやってくれ」

「敬愛している殿下を守りたいっていうスカーレットの気持ちは分からなくはないけどさ……男装してついて行くなんてあまりにも突飛すぎるよ!」


だがここで折れるスカーレットではない。

なんせ推しの頼みであり、このまま送り出して推しに何かあれば絶対に後悔する。

推しを守る。

それ即ちレインフォード担の使命である。


「どうしても私は殿下をお守りしたいんです。私なら大抵の相手には戦えます! ね、お願いします!」


スカーレットの言葉にバスティアンは渋い顔で無言のままだ。

アルベルトも眉をひそめ、厳しい表情を浮かべていて、重苦しい空気が立ち込めた。

何か2人を説得する材料がないかスカーレットは考えを巡らせた。


「そうだわ! ほら、殿下が護衛の報酬をくださるって仰ってたじゃないですか。王太子殿下からの報酬なんてきっとすごい金額ですよ。もしそれがあれば今研究している小麦の品種改良ができるかもしれないですよ!」


現在、領地は長い間不作に苦しんでおり、バスティアンは気温変化や乾燥に強い小麦の品種改良に取り組んでいる。

しかし、ここでも財政難の問題があり、研究費は潤沢ではない。

その結果、研究成果も芳しくないのが現状だ。スカーレットはそこを突いたのだ。

そして、スカーレットは更に話を畳みかけた。


「領民を助けるためにもなるんですよ!」

「うーん……それは……」

「殿下が王都に着くまでの間だけですから!」


スカーレットが二人に切々と訴えると、とうとうバスティアンは長い息を吐いた。


「スカーレット、絶対に女だと隠し通せる自信はあるか?」

「はい。私はバルサー家の人間です。任務は必ず遂行します。騎士の魂に誓って、女であることは絶対に隠し通します」


バスティアンの瞳がスカーレットをじっと見つめた。それを真っ向に受け止め、スカーレットもまた父親を見つめ返した。


「……仕方ない。よかろう。ただし、絶対に女であることを隠し通せ! 絶対だぞ!」


そのバスティアンの言葉にアルベルトが慌てた声を上げた。


「父上、何を仰るんですか!?」

「スカーにはこれまで婚約の事で散々我慢をさせたんだ。それにこれまで我儘らしい我儘も言わなかった。一つくらいは叶えてやろうと思う」


「確かにスカーのお陰で僕は学園を卒業できて、官職を得ることもできましたが……」


一旦言葉を切ったアルベルトは、少しだけ思案した後に諦めを含んだ声で言った。


「ならば僕も行きますよ。そうすればもしバレそうになったら僕がフォローできるでしょうしね」


予想外のアルベルトの申し出にスカーレットは目を丸くした。


「アル、いいの?」

「うん、どうせ明日には王都に戻る予定だったしね」

「でも危険よ。殿下を狙った賊と戦ったけど、かなりの手練れだったわ」


「それを言ったら義姉さんも危険じゃないか。それに僕の腕はスカーには劣るかもしれないけど、その辺の騎士よりも強いんだから心配いらないよ。義姉さんだけを危険に晒すわけにはいかない」


アルベルトもバルサー家の人間であり、幼い頃からスカーレットと共に剣の鍛錬を積んでいる。


『赤の騎士将軍』の異名を持つバスティアンも認める腕前のスカーレットには及ばないが、本人がが言う通りアルベルトが並みの騎士よりも強いのは事実だ。


バスティアンはアルベルトの提案を受けて、顎に手をかけて神妙な顔で頷いた。


「そうだな。アルベルトがいるのなら、スカーの無茶な行動も止められるだろうし、何かあったらフォローできるだろう」

「ありがとうございます、父様、アルベルト!」

「ただし、王都に着くまでの約束だぞ」

「はい!」


そして、バスティアンからレインフォードの護衛の許可を得た二日後。

予定通り男性物の服に身を包んだスカーレットはレインフォードの護衛として、アルベルトと共に領地を出発することになった。


「スカー、アルベルト。殿下を必ずお守りするのだぞ」

「はい、もちろんです!」

「騎士の誇りに賭けて任務を全うせよ。だが、命を粗末にするな。必ず帰ってこい」


出立するスカーレットとアルベルトを前にして、バスティアンは真剣な顔でそう言った。

その表情は『赤の騎士将軍』の異名に相応しく厳しいもので、スカーレットは身が引き締まる思いがした。

スカーレットは誓いを込めてゆっくりと頷いた。


「では、行って参ります!」


スカーレットは真紅のマントを翻して愛馬に跨ると、力強くその一歩を踏み出した。


ようやく旅立ちです!


ブクマありがとうございます。励みになっております。

良ければ☆評価もいただけると更に嬉しいので、どうぞよろしくお願いいたします!

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