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レインフォードルートに入ったようです

一つ前の話のタイトルをつけ忘れておりました…

申し訳ありません!修正しました。

廃屋で捕縛されたリオンは、現在城の地下牢に収監されている。


先ほどまでタデウスによる取り調べが行われ、リオンはシエイラ誘拐の罪とレインフォード暗殺の関与を認めたという。


それと同時に、一連の事件はジルベスター侯爵の指示によるものだったと証言した。

タデウスの報告をスカーレットもレインフォードも神妙な顔で無言のまま聞いた。


(やっぱりジルベスター侯爵の指示だったのね)


証言はある意味予想通りだったが、スカーレットには一つ疑問があった。


「あの、一つ聞いてもいいでしょうか? なぜ無関係なシエイラ様を狙ったのでしょうか?」


サジニアを王位につけたいジルベスター侯爵が、王太子であるレインフォード暗殺しようと計画したのは理解できる。


だが、そのこととシエイラ誘拐の間の関連性が見えない。

疑問を口にしたスカーレットに、タデウスが説明を始めた。


「スカーは、以前殿下と噂になった女性がいたことを覚えていますか? 殿下が女性を横抱きにして城に連れて帰った、と言う話です」

「噂……」


スカーレットの問いに対する答えとは、全く無関係な話題に、スカーレットは首を傾げつつ、記憶を辿った。


(……ってあの噂!?)


それはシエイラにドレスを着せられたスカーレットがレインフォードに横抱きにされて、彼の自室に連行された時に流れた噂だ。


幸いにして、あの時の女性がスカーレットだとは周囲にはバレなかったが、色々と神経をすり減らした出来事だった。


「も、もしかしてレインフォード様の部屋に籠ったという噂でしょうか?」


「ええ。ジルベスター侯爵もあの噂を耳にして、その女性がシエイラ様だと思ったようです。もしシエイラ様と殿下が婚約されたら、ファルドル侯爵の力が強くなってしまいますからね。少なくともシエイラ様がいなくなれば、ファルドル侯爵の力を削ぐことができると考えたのでしょう」


まぁ、確かにあの噂の相手がスカーレットだとは皆思いもよらないだろう。

だから、噂の女性の正体が婚約者候補筆頭のシエイラだと勘違いするのも当然かもしれない。


(あの件がこんなことになるなんて、全く思いもよらなかったわ……)


スカーレットが脳内でそのように考えていると、タデウスが大きなため息をしたあと、こめかみを押さえながら言った。


「それにしても、ファルドル侯爵を失ったのはかなりの痛手ですね」


これまでリオンがレインフォードを裏切ったことについては伏せられていたが、今回シエイラを捜索するにあたり、騎士団を動かしたため、さすがに誘拐事件を隠匿することは難しかった。


したがって、犯人がリオンであることも明らかになり、その結果、リオンの後ろ盾となっていたファルドル侯爵は責任をとって謹慎処分となった。


そのため、レインフォードは支持派の筆頭を失う形となり、一方でサジニア派の動きが活発になってしまった。


「リオンの証言があります。それがあればジルベスター侯爵の罪を追及できないのでしょうか?」


「いや、無理だな。リオンの証言だけでは証拠にはならない。従者の一人の戯言だと切り捨てられてしまうだろうさ」


確かに、その程度で潰れるような人物なら、サジニア派の筆頭貴族にはならないだろう。

それに彼にとってリオンなど使い捨ての駒に過ぎない。


レインフォードの言う通り、いくらリオンが証言したとしても、物的証拠がない以上追及は難しいのは確かだ。


その時、神妙な表情をして何やら考え込んでいたタデウスが、不意に口を開いた。


「ならばジルベスター侯爵をこちらに引き込みましょう」

「どうやってだ?」

「ジルベスター侯爵の目的は、この国の政権を掌握することです。ですから、ジルベスター侯爵の娘を王太子妃にしないかと打診するというのはどうでしょうか?」


それは、突拍子もない提案だった。

だが、それに対して意見を言うよりも、スカーレットが衝撃を受けたのは、ジルベスター侯爵の娘の名が挙がったことだ。


それはスカーレットのよく知る人物だった。


「娘というのは、ミラ・ジルベスターのことでしょうか?」

「ええ、そうです」


ミラ・ジルベスター


彼女は乙女ゲーム「マジプリ」のヒロインだ。

そしてスカーレットが婚約者のデニス・ラウダーデンから婚約破棄される要因となった女性だ。


「マジプリ」において、スカーレットは悪役令嬢なのだから、婚約破棄も否めないのは理解している。


それでも、王太子妃候補としてミラの名前が挙がったことに、スカーレットの胸中は複雑な思いだった。

それに、ミラは現在デニスの婚約者なはずである。タデウスの案が通るとは思えない。


「ですが、彼女にはデニスが……婚約者がいるはずです」


「なるほど、婚約者ですか。確かにジルベスター侯爵が王太子妃を受けるかどうか、懸念材料の一つにはなりますが、野心が強い侯爵のことです。こちらが王太子妃をちらつかせれば、婚約破棄をしてこの提案に乗ってくる可能性は高いでしょう」


タデウスの言うことは一理ある。


荒唐無稽とも思える案ではあるが、ジルベスター侯爵を手中に収め、レインフォードの配下に置いた方が、政敵でいられるよりずっとマシである。


(レインフォード様が、ミラと?)


その未来を考えた時、スカーレットの胸が軋むような痛みを覚えた。


思わずレインフォードの顔を見ると、彼はじっと何かを考え込む様子で、床を見つめたまま黙っていた。

レインフォードがどう答えるのか。


スカーレットが漠然とした不安と静かな息苦しさを覚えていると、やがてゆっくりとレインフォードが口を開いた。


「少し、考えたい」

「分かりました。ミラ嬢のことを含め、もう少し情報を集めておきます。では失礼します」


タデウスの言葉を受け、スカーレットも一緒に執務室を出た。


扉を閉める瞬間、レインフォードをちらりと見たが、彼は窓を向いてこちらに背を向けてしまい、その表情を見ることはできなかった。


レインフォードがこの提案に対する明確な答えを言わなかったことに、何故かスカーレットの胸はざわつき、冷たく冷えていくのだった。



窓の外に目を向ければ、全ての音を飲み込むような夜空が広がっているのに対し、室内に目を向ければ、煌々とした光が溢れていた。


シャンデリアの光はまるで輝く星のように煌めき、音楽の調べは踊るように会場に響いていた。


そんな華やかな夜会会場で、騎士服を身に纏ったスカーレットは、壁際に立ちながらその様子をぼんやりと眺めていた。


「義姉さん」


不意に掛けられた声に反射的に顔を向けると、ルビーのような赤い瞳の目を細めたアルベルトが、笑いながらこちらに向かって歩いて来ていた。


身に纏った燕尾服の黒が、彼のホワイトブロンドの髪を際立たせ、思わず目を惹くような姿であった。


(さすが「マジプリ」の攻略対象だわ。我が義弟ながらイケメンすぎる)


「アルベルト。今日はお父様の名代で参加だったわね」

「うん」


今回の夜会はレインフォードの誕生日を祝う夜会だ。

それゆえ、伯爵位を拝し、『赤の騎士将軍』として長年仕えてきた父バスティアンも当然この夜会に呼ばれていた。


だが、あの僻地に近い領地から王都まで来るのは面d……もとい、次期伯爵であるアルベルトが参加した方が良いだろうという判断で、今日はアルベルトがバルサー伯爵名代ということで参加することになったのだ。


「はぁ、義姉さんと踊りたかったな。久しぶりにドレス姿も見たかったし……」


アルベルトはスカーレットの隣に立つと、そう言って、酷く残念そうにため息をついた。

この格好から分かるように、今日の夜会には、スカーレットは近衛騎士として参加している。


城では近衛騎士スカーなのだから、当然と言えば当然だし、近衛騎士である以上、レインフォードの身辺を護衛するのが仕事なのだ。


「ふふふ、これも仕事だもの。仕方ないわ」


不満気なアルベルトの言葉に、スカーレットは苦笑した。


やがて音楽が人々の歓談を彩るものから、ゆったりとしたものに変わった。

そろそろダンスが始まる時間なのだろう。


その時、会場にどよめきが起こった。


「美しいご令嬢、是非、私と踊ってはくれませんか?」


人々の視線が集中した先にあったのは、レインフォードがミラに手を差し伸べている姿だった。


ミラは白に近い、淡い水色のシフォンが幾重にも重ねられ、可憐な印象を受けるドレスを纏っていた。

繊細な水色の、絹糸のような髪をアップにまとめ、耳元にブバリアを模した花飾りをつけている。


ミラの青い瞳の色に合わせたサファイアのイヤリングが揺れる様は、絵本から出てきた妖精のようにも見えた。


そんなミラは、レインフォードを見ると、頬を染め、はにかんだ表情を浮かべてその手を取った。

レインフォードは恭しくミラの手を取り、ダンスフロアの中央に進むと、二人で踊り始めた。


女嫌いと言われていたあの王太子が、美しき侯爵令嬢と踊る姿に一同は驚いたものの、その優美に踊る姿に魅せられるように、二人を見つめていた。


「な……! あれって……ミラ・ジルベスター? あの女、デニスと婚約してるんじゃなかったのか? なんでレインフォード様と踊っているんだよ!?」


レインフォードとミラを食い入るように見つめながら、アルベルトは声を荒げた。


そして、ハッとして何かに気づいたように、スカーレットに気づかわし気な視線を向けた。


それはそうだろう。

アルベルトからすれば、ミラは義姉と婚約していた男を略奪した女性だ。


スカーレットと婚約破棄したデニスと婚約したはずなのに、何故王太子の手を取って踊っているのか理解できないだろう。


しかも、レイフォードは筋金入りの女嫌いだということは、一緒に旅をしてきたアルベルトも良く知っている。

その彼が令嬢と微笑み合って踊っている様子に困惑するのは当然の反応だ。


「ちょっと、事情があるのよ」


何かを訴えるようなアルベルトの視線に、スカーレットは曖昧に微笑んだ。


本来ならば全然問題ないと笑いながらアルベルトに告げればいいのだが、今のスカーレットは笑顔を張り付けるだけで精いっぱいだった。


胸の辺りが冷たくなり、心臓が鷲掴みにされたような痛みを覚え、それを堪えるのに必死だったからだ。

だが、衝撃はこれだけではなかった。


一曲が終わり、そして二曲目が始まったが、二人の手は離れることはなく、そのまま体を触れ合わせて揺れている。

しかも、レインフォードの表情は女嫌いであることを払拭するような、蕩ける笑みを浮かべていた。


それは、数か月共に過ごしてきたスカーレットさえ見たことのない、ミラに焦がれて仕方がないというような恋慕の情に満ちた微笑みだった。


「っ!」


それ以上は見ていられなかった。


背後でアルベルトが呼び止める声が聞こえた気がしたが、今のスカーレットは足を止めることができなかった。

スカーレットは気づけば逃げるように会場を出ていた。




スカーレットが自分の状況を認識したのは、冷たい夜風が頬を撫で、自分を照らし出す光が月明かりだけであることに気づいた時だった。


(……なんてこと。私は近衛騎士なのに、持ち場を離れるなんて)


スカーレットは無意識とはいえ、職務を放り出したという自分の行動に動揺した。

戻らなくてはならない。

そう思っているのだが、スカーレットは足を動かすことができなかった。


目を閉じるとレインフォードとミラが、恋人のように寄り添い、微笑み合って踊る様子が浮かぶ。


この夜会でレインフォードが二度踊ったということは、彼にとってミラが特別な女性であることを示したことになる。

そして、周囲も二人が親密な関係であると、誰もが思うはずだ。


先日タデウスが、ミラを王太子妃にすると提案した時、レインフォードは無言で、是とも否とも言わなかった。

だが、今日の様子を察するに、レインフォードの中でその提案を受け入れると決断したのだろう。


それでもあの表情からは、嫌々婚約を受け入れることを決めたようには見えなかったことから、ミラのことを憎からず思っているのは伝わってきた。


(まるで……本当に好きな女性に向けるような表情だった)


これは最良の結末のはずだ。


レインフォードの命を狙っていたジルベスター侯爵はミラが王太子妃になることで、こちら側につくことになる。

政敵が減り、レインフォードが命を狙われることは無くなるはずだ。


それに「マジプリ」の中では、レインフォードルートであれば彼の死亡イベントは発生しない。

デニスルートに進んだかと思ったが、どうやらレインフォードルートになったのだろう。


(そうよ! 推しが死なないのだもの。もっと喜ばなくちゃ!)


そう思っているはずなのに、……どうしてこんなに胸が痛いのだろうか?


「義姉さん!」

「!」


突然の声に、スカーレットは体を震わせて振り返ると、心配そうな表情をしたアルベルトが駆け寄って来る姿があった。


「突然会場を飛び出して、大丈夫?」

「えっ……、あぁ、少し人に当てられたみたい。ほら、夜会なんて久しぶりだし」


自分でもなぜ会場を飛び出してしまったのか、説明がつかないまま、スカーレットは誤魔化してそう答えた。


だが、アルベルトは神妙な顔つきでスカーレットを見つめると、少しだけ躊躇った後、窺うように尋ねた。


「義姉さん……義姉さんは殿下のこと……好きなの?」


アルベルトの言っている質問の意味が分からず、即答できなかった。

スカーレットは自分の中でレインフォードの存在を思い出していた。


レインフォードは推しだ。

そう言う意味では好きだ。


(でも、それだけ?)


一瞬そんな疑問が、スカーレットの頭に浮かんだ。

だが、レインフォードに対する感情をこれ以上考えてはいけない。

そう本能が告げていた。


そんな感情を誤魔化すように、スカーレットは気づけば早口で答えていた。


「い、いいえ。好きって言うか……推しよ!」

「おし?」

「ええと尊敬する主君よ!」


その言葉にアルベルトは何か言いたげに少し口を開けたが、その言葉を飲み込んだように間を置いた。


「……そう。それより、このまま屋敷に戻らない?」

「ううん。私は仕事があるし、会場に戻るわ」

「でも、義姉さんの他にも騎士はいるでしょ? 僕が上手く言っておくよ?」

「心配しないで、大丈夫よ!」


(そう、大丈夫。レインフォード様は推しで、私は近衛騎士。ちゃんとレインフォード様を護らなくちゃ)


スカーレットは自分に言い聞かせるようにそう思うと、心を落ち着けるために目を瞑る。

そして、大きく息を吐いたあと、アルベルトに微笑んだ。


これ以上義弟に心配をかけるわけにはいかない。


「よし、戻りましょう! アルはお父様の名代なんだから、ちゃんと社交しなくちゃ!」

「ちょ、ちょっと義姉さん! 押さないでよ」


スカーレットはそう言いながらアルベルトの背中を押し、夜会会場に向かって歩き出した。

今度はちゃんと笑えていることに、安堵しながら――。


ご覧いただきありがとうございます!

ブクマや☆評価、励みになりますのでよろしくお願いいたします。

物語も終盤ですが、引き続き読んでいただけると嬉しいです!

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