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状況の整理と4つの疑問

どうやらタデウスのお小言は無事終わったようだ。一緒にいるレインフォードが少しげっそりとしているのは気のせいだろうか。


タデウスはカヴィンと一緒にスカーレットが現れたのが意外だったのか一瞬目を見開き、声をかけた。


「おや、ここでスカーと会うなんて驚きました。よかった。ちょうどスカーを探していたんですよ」

「ボクをですか? 何かご用でしたか?」

「ええ、殿下への説教は終わりましたから、次はあなたに説教をしようと思いましてね」

「ええっ!?」


確かにレインフォードがお忍びで街に出ることを止めるべきだったかもしれない。

連帯責任を取れと言われれば仕方ないだろう。


(うぅ……ここはお小言を甘んじて受けましょう……)


そう腹を決めたスカーレットに対し、タデウスは小さく笑った。


「というのは冗談です。次の会議まで少し時間ができたので、犯人の取り調べ結果を聞きに寄っただけで

す。スカーも何か用事ですか? こちらにいるなんて珍しいですね」

「実はリオンについて調べていて、3年前に起こった火災について調査報告書を確認したくて来たんです」

「3年前の火事?」


怪訝な表情を浮かべるタデウスに、スカーレットは詳細を説明することにした。ちょうどこれまで分かったことの整理にもなる。


少し込み入った話になるということで、腰を落ち着けて話すこととなった。


応接用のソファーに座り、目の前に置かれた紅茶を一口飲んでから、スカーレットは話を切り出した。


「まず、目的を明確にしますが、ボクはレインフォード様の暗殺を画策している犯人を捕らえたいと思っています。そして、犯人の可能性として高いのは第一王子派か、あるいは隣国カゼンが有力かと思っています」


スカーレットに同調したタデウスが、頷きながら言葉を続けた。


「私もそう考えていますね。殿下を亡き者にすればサジニア様が王太子になりますし、カゼンは、自国の血が入ったサジニア様が王太子の方が色々と都合がいいでしょうからね」


「カヴィン様の報告では、街でレインフォード様を襲って来た男はディグスという凶悪犯でした。ただ、ディグス自身は金によって雇われただけで、第一王子派ともカゼンとも直接的な関係はないようでした」


「単に金を積まれて暗殺依頼を受けただけということですね」


「はい。ただ、気になるのは前金がかなり高額だったことです。平民が1年間遊んで暮らせるほどの金額。それを前金として提供できるということは、暗殺を指示したのは有力貴族である可能性が高いというのが、私とカヴィン様の意見です」


スカーレットの言葉に、カヴィンもまた頷いた。

二人の反応を見たタデウスは、眉間に皺を寄せ、硬い声でスカーレットに問いかけた。


「まさか、第一王子派筆頭のジルベスター侯爵ですか?」

「そこまではまだ言い切れません。ですが、犯人を知る鍵を握っているのがリオンだと私は考えています」

「リオンが?」


意外な人物の名前が挙がったことに、タデウスが思わずといった様子で聞き返した。困惑の表情を浮かべるタデウスに先ほどカヴィンが報告してくれた内容を説明した。


「ディグスは案内人の少年に連れて行かれて、殿下を殺すように指示されたようです。その案内人がリオンだと思います。旅の時にも暗殺者を手引きしていましたし、本人もそれを認めています。ですからリオンに関わりのある人間が、暗殺を指示している人間になるはずです」


「あまり考えたくはないけど、暗殺はリオンの単独犯ということはないのかい?」


カヴィンの疑問はもっともだ。

今までレインフォードの襲撃の場にはリオンがいた。リオンが首謀者という可能性が浮かぶのは当然だろう。


だが、スカーレットは、カヴィンの疑問に対し、首を振って答えた。


「それはありません。ドルンストでリオンがボクを殺そうとした時、レインフォード様の暗殺を手引きしたのは『それが僕に与えられた命令だから』と言っていました。つまり黒幕は別にいるということです。ではリオンに暗殺を指示したのは誰か?リオンの生家であるドリオール家が第一王子派で、親の命令によって暗殺に加担したのではないかとも考えました。ですが、先ほどカヴィン様が『リオンはファルドル侯爵の遠縁だ』と仰っていたので、その可能性は否定されました。


ファルドル侯爵はレインフォード様を支持している。もしドリオール家がファルドル侯爵家の遠縁にあたるのであれば、第一王子派である可能性は低い。それに、リオンを従者に推薦したのはファルドル侯爵ですよね。リオンが第一王子派の人間なら、侯爵が王太子の従者に推薦するわけはないと思います」


「そうだな。ファルドル侯爵の遠縁の子供で、身元は確かだと言われたし、あの侯爵が訳も分からない人間の後ろ盾になるとは思えない」


レインフォードの言葉にタデウスとカヴィンも同意を示した。

スカーレットもまた同じ意見だ。だが、一つだけ見落としがある。


「では、レインフォード様はドリオール家をご存じですか?」


「いや、実はドリオール家という家名は聞いたことがない。ただ、ファルドル侯爵家の遠縁と言っても貴族とは限らないし、縁故のある商家なのかもしれないと思ったんだが……」


突然の話題に困惑した表情をしてレインフォードは答え、それに続くようにタデウスも神妙な顔をして言った。


「私もドリオールという名を聞いたことがありませんでした。少し気になってはいたのですが、ファルドル侯爵の後ろ盾があることから、侯爵の言い分を全面的に信頼して調査はしていなかったんです」


言い訳にはなるものの、二人が取った行動は妥当なものだ。


レインフォード派筆頭で、この国の中枢を担っているファルドル侯爵が後ろ盾をしている人間の言葉を疑うことはしないだろう。


「ボクは今回の事を受けて、ドリオール家を探してみました。ですが、貴族名鑑にはドリオール家という家は存在しませんでした」


「存在しない? やはり商家の人間か?」

「いえ、そうではありません」

「どういうことだ?」


「リオンは貴族でした。ですがドリオールという家ではありません。本名はリオン・クライレン。クライレン子爵の子供でした」


スカーレットの言葉を聞いたタデウスが、逡巡した後、ハッと何かに気づいたようだ。

記憶を辿るように言葉を発した。


「クライレン子爵……? もしかして、3年前に爵位停止になったクライレン子爵家のことですか?」

「はい。ご存知でしたか?」


「爵位停止となるのは珍しい出来事でしたし、家族全員が死亡したという痛ましい事故でしたから記憶に残っています」


「タデウス様はリオンがクライレン子爵の子供だと知らなかったということは、もしかしてリオンが従者になったのは火事のあとですか?」


「ええ。リオンが従者になったのは2年前ですから、時系列的には火災事故の翌年になります。私も殿下もリオンがクライレン子爵家の子供だとは知らなかったですし、リオンの口からも火災事故の話は聞いたことはありませんね」


そこまで聞いたスカーレットは、もう一度頭の中を整理し、一旦間をおいてから口を開いた。


「ここでリオンに対して4つの疑問があります」

そう言ってスカーレットは4つの疑問を挙げた。


一つ、何故、リオンは自分がクライレン子爵の息子であると名乗らなかったのか?


二つ、何故、リオン・ドリオールという偽名を使っていたのか?


三つ、何故、侯爵はリオンを従者として推薦したのか?


四つ、ファルドル侯爵は、リオンについてどこまで知っているのか?


「一つ目の疑問。火災事故の調査報告書にはリオンは遺体不明で、かつ死亡したものと書かれていました。もし現場でリオンが発見されていれば報告書の記載に誤りがあることになります。


逆に現場では発見されなかった場合、リオンは何故自分が火災事故の生き残りで、子爵の息子だと申し出なかったのでしょうか? 申し出をすればクライレン子爵家の爵位停止はすぐに解除されるはずです」


スカーレットの意見に、レインフォードも頷いて同意を示した。


「確かにリオンが身分を偽っていたのは不自然だな」

「そして、第二の疑問であるように、何故偽名を使って従者になったのかも分かりません」


考え込んでいたカヴィンが、何かに気づいたように考えを提示した。


「子爵家の人間であることを隠したかったんじゃないかな? 例えば、子爵が第一王子派で暗殺のために殿下に近づこうと画策した……とか。それならば、偽名を使ったのも理由がつくんじゃないかい?」


カヴィンの言葉をタデウスが否定した。


「それはないと思いますよ。そもそもクライレン子爵家は中立の立場を取っていましたから。それに先ほども話に出ましたが、ファルドル侯爵が第一王子派の人間を殿下の従者にはしませんよ」


そこまで言ったタデウスは、何かに気づいたようにハッとしてスカーレットを見たので、スカーレットは大きく頷いた。


「はい、それが三つ目の疑問です」

「どういうことかい?」


理解が追い付かないといった様子のカヴィンに尋ねられ、スカーレットはゆっくりと説明し始めた。


「リオンはクライレン子爵家の人間であるにも関わらずそれをレインフォード様達には伝えず、偽名を使って従者になっていましたが、そもそもファルドル侯爵は何故偽名を使うようなリオンを王太子の従者として推薦したのでしょうか? その真意が分かりません」


「確かに、侯爵の推薦がなければリオンは従者にはなれなかっただろうしね。何か意図があって従者に推薦したんだろうけど、それが分からないってことだね」


「はい」


カヴィンが納得の表情を浮かべた。その一方でレインフォードが腕を組み、難しい顔をして呟いた。


「それで四つ目の疑問に繋がるんだな。なるほど、ファルドル侯爵には事情を聴く必要があるな。タデウス、頼めるか?」


「承知いたしました。至急、侯爵と会う時間を調整します」

「頼む」


リオンにまつわる疑問の根底には全てファルドル侯爵の存在がちらつく。


四つの疑問の答えをファルドル侯爵が持っている。


そして、侯爵からの情報を得ることができれば、リオンが何故レインフォード暗殺に加担するのかが明らかになる。


スカーレットはそう確信した。


ラブコメモードから一気に話が展開していきます。

引き続き読んでいただけると嬉しいです

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