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レインフォード視点:スカーの気持ち

今から二か月前、レインフォードは半ばだまし討ちのようにしてスカーを手元に置くことに成功した。

優秀な才能を持つということが表向きの理由だ。

だが、心の中ではもう一つの想いもあった。


人のために一生懸命になる姿や、気配りが出来る性格。

愛らしい見た目なのに、いざ剣を取って戦う時には凛とした表情で敵を鮮やかに倒してしまう。

舞うように華麗な剣捌きに何度となく見惚れた。


そして見つめる柔らかな笑顔。

いつしか傍にいてほしいと思い、レインフォード自身もその感情の正体をはっきり認識していた。


だからこそ、強引ながら近衛騎士兼政務補佐官として自分の見えるところに置いているわけだが……


ここ二ヶ月で分かったことがある。

スカーを好意的に思うのは自分だけではないことだ。


元々明るく話しやすい人柄ではあるが、加えて打てば響くような会話や気遣いの出来る性格を好ましく思うのはレインフォードだけではなく、他の部署の政務官たちにも大人気だ。


物腰が柔らかいが本心を気取らせないタデウスも、スカーを相手にすると彼女を見る目はとても優しく、好意が覗いている。


カヴィンも剣術の鍛錬に誘いに来たり、何かにつけて菓子の差し入れを持って来たりするあたり、やはりスカーを気に入っているのだろう。


(もしスカーが女性だと分かったら、釣書が山ほど送られてくるのだろうな)


その状況を考えると、面白くない。

だが、一番のライバルとなるのはたぶんアルベルトだろう。

彼はスカーの義弟ではあるが、その言動から察するに、絶対にスカーに対して義姉以上の気持ちを抱いている。


他人よりよっぽど親密な態度で話す二人を見ると、アルベルトに対して嫉妬心が芽生えてしまう。


その日も二人は廊下で顔を寄せ合いつつ、何やら話し込んでいた。

それが気に食わないレインフォードはあえて2人の会話に無理に話に入ると、半ば奪うようにスカーレットを連行することにした。


「ところでスカーに用事があるんだ。連れて行ってもいいだろうか?」

「はい、もう話は終わりましたので」

「じゃあ、スカー、一緒に来てくれ」


スカーを引き寄せて腰に手を回して歩き出す。すると、その様子を見たアルベルトがぎょっとした表情を浮かべ、微妙な表情を見せた。


『何故王太子であるレインフォードが女性に対するような行動をスカーにするのか?』

『レインフォードがスカーに対し、アルベルトを牽制するような行動をするのか?』


そういった疑問が、アルベルトの表情から見て取れた。

同時に、自分の義姉に触れるレインフォードに対して不愉快に思っているのが分かった。


(悪いがアルベルトにスカーを渡すつもりはない)


今のところ、スカーはアルベルトを義弟以上には見ていない。

だからスカーには早くレインフォードを好きになってもらう必要がある。


しかし、レインフォードもまたスカーには男性として意識してもらっている様子はない。

話の流れから、一応スカーがレインフォードをどう思っているのかを探る目的で婚約者の話を振ってみることにした。


「スカーは俺に婚約者を決めて欲しいのか?」

「それはそうですよ。王太子殿下としての立場上、婚約者は早々に決めた方がいいかと思います」


間髪入れずに平然と返されて、思わず眉間に皺が寄ってしまう。


「……スカーは何とも思わないのか?」

「え? ボクですか? 何ともというか……できたらレインフォード様が好きな方と結婚して幸せになって欲しいとは思いますけど」


またもや平然として答えられてしまった。

しかも、「好きな方と結婚して幸せになって欲しい」と、他の女性を勧められている。

スカーがレインフォードに好意が無いのは火を見るよりも明らかだった。


(少しは戸惑いとか、寂しさとか、悲しいとか、そういう表情を見せてもいいんじゃないか?)


思わず渋面になってしまう。


今までもレインフォードは何かにつけてスカーレットとの時間を過ごし、彼女が喜びそうなことをして、レインフォードを男として意識してもらうように物理的にも距離を縮めて接してきた。


だが、それが全く響いていないことが少々ショックでもあった。

思わず深いため息をついてしまう。


「まぁいいさ。今日はお前の気持ちがよく分かったから」


そう言って、レインフォードは微笑みを浮かべると同時に、脳内で再び策を巡らせた。



最近になってレインフォードは国王である父エルロックやタデウスを始めとし、周囲から婚約者を決めるように小言を言われるようになった。

そして二言目にはシエイラ・ファルドルと婚約してはどうかと提案される。


いや、提案とは表向きで、婚約しろと無言の圧力がかかる。もちろんレインフォードはその程度の圧力など気にする人間ではない。

適当に聞き流していた。


シエイラは確かに家柄としても年齢としてもつり合いが取れるため、彼女に白羽の矢が立っているのも理解できるし、政治面ではそれがベストなのかもしれない。

だが、レインフォードとしては過去のトラウマもあり、絶対にシエイラだけは嫌だった。


それに、今は好きな女性がいるのだ。スカー以外の女性を考えられない。

とはいうものの、自分に好きな女性(スカー)がいることを言うのはまだ時期ではない。変な探りを入れられて、スカーが女性であることがバレる可能性もあるからだ。


そうなれば、スカーは執務補佐官として城に居ることができなくなる。

それに、スカーレットには旅の途中でも再三城で働いてくれと頼んだのに、頑として聞かなかったことを鑑みると、レインフォードの元を去っていくことも容易に想像がつく。


まぁ、そういうことで、現在レインフォードはこういった無駄な時間を取られるせいで、執務の時間が少なくなり、仕事が山積みとなっていた。


特にその日はシエイラが城に押し掛けて来て、執務に充てられる貴重な時間を無駄にされた上に、精神的にも疲れていた。そんな中で、スカーが書類の確認のために執務室に入ってきた。


サインをして書類を返すと、心配そうな表情のスカーがじっと見つめて来る。


「レインフォード様は休憩をお取りになってますか?」

「ん? ああ、一応はな」

「本当ですか? お昼も食べましたか?」

「一応は食べたぞ」

「一応……ですか……」


スカーがレインフォードの体調を案じていることがすぐに分かった。

彼女の性格なのだろうが、心配性である。

だが、同時にレインフォードを気遣ってくれる気持ちが嬉しくもあった。


「では少し休憩してお茶でも飲みませんか?」


紅茶を用意してくれたスカーを、レインフォードは自分の隣に座るように招いた。

戸惑いながらもおずおずと座るスカーに、レインフォードはもたれかかった。


ふわりとスカーの甘い香りがレインフォードの鼻腔をくすぐった。

触れ合った場所から熱が伝わり、それが心地よい。


疲れた時にスカーがそばにいて、たわいない話をするだけで疲れが癒されていくようだった。

触れることでスカーに男として意識して欲しいという気持ちもあるのだが、最近はスカーに触れたいという思いが強くなる。


(自分ばかりが好きになってるな)


思わず心の中で苦笑してしまう。


「なぁ、スカーの好みのタイプってどんなのか教えてくれ」

「は、はぁ!?」


レインフォードがそう尋ねると、スカーは体を跳ね上がらせ、驚いた声をあげた。


「なんですか、突然」

「皆、早く婚約者を決めろとせっついてくる。参考までにどういうタイプが好みなのかが知りたい」

「ええと……そうですね……真面目で努力家な方が好きですね。どんな人の意見にも耳を傾けて、柔軟に対応する姿も好ましいです」


”好ましい”という最後の言葉が気になった。

具体的に表現されている人物像は、その対象が現実にいるかのようだった。


(まさか、好きな男がいるのか?)


不安に駆られて思わず尋ねていた。


「好ましい? 誰かいるのか?」

「えっ!? あ、あぁ、好ましいなぁと。レインフォード様は……いらっしゃらないですか? 女嫌いなのは存じてますが、一応理想みたいなのは?」


今度は逆に質問し返される。

この機会にそれとなくスカーに好意を持っていることを伝えてもいいかもしれない。


そう考えたレインフォードは、具体的に、かつ明らかにスカーを意識して答えた。


「理想……か。お人好しで過保護な面もあるが優しい女性がいいな。でも自分の意見を持っていて、実現するために努力する。あと、剣が強いのがいい」


どういう反応をするのか。レインフォードは柄にもなく、緊張してスカーの反応を待った。

だが、本人はいまいちピンと来ていないようだ。


(これでも伝わらないか……)


だからダメ押しでもう一言言葉を添えた。


「もし、スカーが女だったら、婚約者にするのにな」

「はははレインフォード様、そんなことを言うと男好きなんていう変な噂を立てられちゃうんですよ! まったく、冗談でもそんなことを言っちゃダメですよ!」

「……そうだな」


冗談で片づけられてしまった。


(まぁ、確かにスカーは俺が正体を知っているとは思っていないだろうからな。「男同士である」という前提ではこういう反応になってしまうか)


少々残念ではある。

しかし、レインフォードがスカーの正体を知っていると伝えるか、もしくは彼女から自分の正体を告白してくれるかしか、この主従関係が恋愛に発展することはないことは分かった。


どうやったらスカーに本当の事を打ち明けてもらえるのか。


その答えは見つからないが、今は二人の時間を楽しむことにして、レインフォードはスカーの「タスク管理」のノウハウに耳を傾けた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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