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お代は体で返します


翌日、目が覚めた時にはもう昼に近かった。

慌てて起きると、すでにリオンの姿は部屋になかった。


(やばい! 寝過ごしたわ)


スカーレットは慌ててレインフォードたちの部屋へと向かった。

ノックをして扉を開けたのはアルベルトだった。


「あぁ義姉さん、おはよう」

「おはよう。アルベルトは一人?」


ちらりと中を覗くと、スカーレットたちの部屋同様、上等なカーテンとふかふかの絨毯が見えた。

ただ広さはスカーレットの部屋よりずっと広く、3倍はあるだろう。

奥に2つのドアがあるのを見ると、片方が寝室、もう片方はバスルームなのだろう。


だが、その部屋に人の姿はなかった。


「うん。みんなは朝食を食べた後、そのまま町を見て回るって出て行っちゃったよ。昨夜のこともあって義姉さんが疲れているだろうから、この町でもう一泊することになったんだ」

「そうなのね」


レインフォードは早く王都に行きたいだろうに、自分せいで出発を遅らせたことに申し訳なく思う一方で、その気遣いに感謝で胸がいっぱいになる。


「でも起こしてくれても良かったのに」

「レインフォード様がゆっくり寝せておけって言うからさ」


スカーレットは非常に疲労していたので、寝せてもらえるのはありがたかった。


「もう体は平気なの?」

「うん、平気。ありがとうね」

「無理しないで」


前世では午前3時過ぎに仕事が終わって、家に帰って、また朝9時に出社(ということは6時起きなのだが)の生活だったので、昼過ぎまでゆっくり寝させてもらえてすっかり回復できた。


むしろ、体が軽くなり、今ならあの刺客が2人来ても倒せそうだ。


「今日はゆっくり過ごそうよ。この町は小さいけど、お店は充実しているし、今回足止めされた行商人たちが露店を出しているみたいだよ。見に行ってみない?」

「うん! 行ってみたいわ」

「じゃあ、お昼食べながら覗いてみようよ」


こうしてスカーレットたちは昼食を食べに海賊亭へ向かった。


昨日、要件定義書作成に協力したことで、ザイザルがスカーレットたちの昼食をご馳走してくれ、お腹が満たされた後に予定通り街へと繰り出した。


大通りは、昨夜レインフォードと歩いた時には静まり返っていたが、今は一転して活気に満ちて、人の往来も激しかった。


日用品、衣料品、雑貨、青果店や肉屋……およそ生活に必要な店が一通り軒を連ねており、ショーウィンドウ越しに眺めるだけでも楽しい。


町の中心には広場があり、櫓のような木組みの時計塔が町のシンボルのように聳え立っている。

その周りに行商人たちが露店を構えていた。

足止めを食らったからには少しでも稼ごうという商人たちの商魂を見た気がした。


「すごいわ。いろんな地域のものがあるのね」

「それに王都へ運ぶ商品もあるから、質もいいね」


露店と言ってもそれなりの品質のものが所狭しと並んでいる。


「義姉さん、これなんか似合いそうだね」

「え?」


アクセサリーの露店で足を止めたアルベルトがそう言って指さしたのはルビーのイヤリングだった。

複雑なカットが施されているのか、陽の光を反射してキラキラと輝いている。

店構えは簡素なテントだが、並んでいるものは一級品であった。


「確かに綺麗だわ」

「プレゼントしようか?」

「えっ? いいわよ。つける機会もないし」


スカーレットはもう社交界に関わるつもりもないし夜会に出る気もない。

ゆえに、このようなアクセサリーを身につける機会はないのだ。

貰っても宝の持ち腐れだ。


「それに、うちは貧乏なんだし……そんな余裕はないでしょ」

「僕だって小遣い程度は持っているんだよ」

「そういうのはちゃんと取っておきなさい。これからもっと入用になるんだし」

「はぁ……分かったよ」


海の底よりも深いため息と共にそう言ったアルベルトははっとして足を止めた。


「どうしたの?」

「財布、海賊亭に忘れてきちゃったかも」

「えええ!? 大変じゃない! すぐに戻らないと!」

「ちょっと行ってくる。義姉さんはこの辺で待ってて」

「うん、分かったわ」


バタバタと走っていくアルベルトの後姿を見送ったスカーレットは、一人になってぼうっと昨夜のことを思い出していた。


昨日の刺客はスカーレットにとって予想外の事だった。

本来ならば次の街で襲われるはずなのに、なぜここでイベントが発生したのか。


(もしかして、思っている場所とイベント発生場所が違う?)


そうなると、どこで何が起こるのか予測できない。

今回宿に刺客が来るイベントが起こったことを考えると、次の毒を盛られるイベントがいつ起こるのか分からなくなる。


(毒に対しての対処を考えないといけないわね)


ゲームでは王都の一つ前の街であるドルンストで昼食を取った時に毒を盛られるのだ。

犯人はレストランのボーイで、レインフォードが王太子であることに不満を持つ貴族から依頼されて毒を盛ったことが判明する。


しかし、本来のイベントと発生場所が異なるのであれば、常に警戒が必要だ。


(毒の対処……となると、私は一つしか方法が分からないのよね)


毒といえば銀が反応するという知識しかない。


前世でも貴族は銀食器を使って食事に毒が含まれていないかを確認したという話くらいしか知らないのだ。

全部の毒に反応するわけではないが、それでも銀食器を使って毒の有無を確認するのは一つの手段だと思う。


(銀食器……この町で手に入るかしら)


スカーレットはそう思って周囲を見回してみた。

するとちょうど向かい側に食器類を扱う店を見つけることができた。


スカーレットはすぐさま駆け寄って店頭に並ぶ商品を確認した。だが、陶器や木製の食器類が並んでいるだけで、銀食器は見当たらない。


「すみません、銀食器は扱ってないですか?」

「え? ああ、あるよ。この辺じゃ売れないと思って出してないだけさ。欲しいのかい?」

「はい」


スカーレットがそう答えると、目の細い店主がそう言って重い腰を上げ、奥に積まれた箱の中から銀食器を取り出した。

皿にカトラリー、カップと一通りの銀食器が揃っている。


貴族用に売るためか、ブドウとツタの装飾が施されていて一見するだけで値が張ることが想像つく。

とてもスカーレットの手持ちでは買えないだろう。


「えっと、もっとお安いので、小さいものでいいんです。銀でできたものであればいいので」

「うーん、そうだねぇ」


眉間に皴を寄せて何やら思案していた店主の男性は、悩んだ末になにやら思い立ったようだ。

今度は足元に置かれていた荷物から一つのカップを出した。


「これならどうかい?」


それはマグカップだった。

一般的なマグカップよりも一回り程小さく、装飾も何もついていない至ってシンプルなものだ。


「これは傷がついちゃってね。王都では売れないんだよ」


使用目的は食事に毒が入っていないか確認するだけなので、傷がついていようが装飾がなかろうが問題ない。

あとはお値段だけが問題だ。


「あの……おいくらですか?」

「12000ペーニだね」

「もう一声」

「ええええ、お客さん値切るのかい? これでもだいぶ安いんだよ」


信じられないものを見るかのように細い目の上にある、細い眉の片方を上げて店主が答える。

「じゃあ11000ペーニ」

「もう一声」

「いや、これ以上は無理だよ」

「手持ちが8000ペーニなの。何とかならない?」

「はぁ? そんなの無理無理。冗談言わないでくれよ」

「お願いします!」


スカーレットは思い切り頭を下げたが、店主は無言であった。

不信感と呆れが含んだ視線が突き刺さる。


「もう帰っておくれ。今日は膝の調子が悪いから店じまいするつもりだったんだ」

「膝が痛むんですか?」

「あぁ、天気が悪いと痛むんだよ」


確かに先ほどから食器を出す度に膝を庇っていたし、動きも緩慢だった。


「それは辛いですね……あ! そうだ、お店のお手伝いをさせてください! その分、お値段引いてくれませんか?」

「はぁ~!?」

「お金はないので、働いて返すのでどうでしょうか? 何でもやります!」

「何でも……ねぇ」


「はい! 体力に自信があるので店じまいも手伝いますし。あとそうですね……商品の磨く作業とか、在庫の棚卸とか。計算も得意なので利益率出したり、集計したり!」


スカーレットは一気に捲し立てた。

こういうアピールはどんどんしたもん勝ちである。


「絶対に損はさせません! 今日一日雇ってください!」


「無理だ」「お願いします」というやり取りを10回ほど繰り返した結果、スカーレットの熱意に負けた店主は、心の底からのため息をついて言った。


「はぁ……分かったよ。今日一日何でも仕事してくれるってことで値引きを考えるよ。日暮れまであと3時間ある。時給1000ペーニってことで雇うよ。ただし、半端な仕事をしたら、時給下げるからいいね」


「はい!」


こうしてスカーレットは急遽アルバイトをすることになった。



やっぱりレインフォード視点はラストにまとめてします。とりあえずこの辺のレインフォードは

(なんでスカーにはこう…触れたいとか変な気持ちになってしまうんだ!?俺は実は男が好きなのか?いやいやいやそんなはずはない!)

となっている感じです。


いつも読んでいただきありがとうございます!

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