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襲撃①

ガチャリとドアを開けると、中はランプの明かりが灯っていて、ベッドに座っていたアルベルトが読んでいた本から顔を上げた。

同時にタオルの上で寝ていたライザックがむくりと顔を上げて「ピー」と鳴いて出迎えた。

ライザックの怪我はもう殆ど完治しており、今は自由に飛ぶことができるまでに回復しているが、何故かスカーレットについてきている。


「スカー、遅かったね」

「ただいま。まだ起きてたのね」

「心配だったし。もう少し遅くなったら迎えに行こうかと思っていたんだ」

「そうだったんだ。心配かけてごめんね」


スカーレットが答えると、アルベルトは本をパタンと閉じながら少し困ったような笑顔を向けた。


「スカーは集中するとそれしか見えなくなるからね」


さすが血が繋がっていなくても弟である。

スカーレットの性格をよく理解している。


「あの金髪の店員さんから聞いたんだけど、橋について町の人たちの話し合いに参加したんだって? また面倒事に首を突っ込んだの?」

「まぁ、見て見ぬふりはできなかったし」

「レインフォード様の件といいこいつの件といい、スカーは本当にお人好しだよね」


呆れたように言いながらアルベルトはスカーレットの肩に止まったライザックに視線をやった。

そんなアルベルトの視線を感じて、スカーレットは恐縮してしまう。

スカーレットが人助けをすることで、結果アルベルトを巻き込むことになっているのは申し訳ない。


「ご、ごめん。アルには迷惑かけちゃってるわよね」

「いいんだ。スカーの力になれるのなら気にしないよ」

「ありがとう」


感謝の言葉を口にすると、アルベルトは優しく微笑んだ。


(本当に良くできた義弟だわ)


そう思ってアルベルトを見ると、彼のホワイトブロンドの髪が少し濡れていることに気づいた。


「あら、アルベルトはシャワーを浴びたのね」

「うん。部屋にシャワールームが付いていたから」

「じゃあ、私も浴びようかしら」


本当はこのままベッドにダイブしたいほど疲れているのだが、これから資料をまとめる必要がある。

眠気を取る意味でもシャワーを浴びてすっきりしてから資料をまとめた方が効率的だろう。

そう思って言うと、アルベルトは声を裏返して変な場所から声を上げた。


「っえ!?」

「どうしたの?」

「シャワー……浴びる……んだね」

「そうだけど?」

「ということはここで着替えるってことだよね……シャワーの音なんて聞いてたら平静でいられるわけないよな。しかも湯上りとかって……というか、薄着で寝るわけだよね。~~!! やっぱり無理だ」


アルベルトは何やらぶつぶつと言っているがよく聞こえない。

そんなアルベルトは最初は赤くなったと思ったら急に青くなって、更にはぶんぶんと頭を振った。かと思うと、次の瞬間にはその頭を抱えた。

余りにも挙動不審な様子にスカーレットは心配になり、アルベルトの顔を覗き込んだ。


「ど、どうしたの? 大丈夫? 具合悪い?」

「い、いや! なんでもない! 僕、やっぱりランたちのところで寝るよ」


スカーレットを押しやって距離を取ったアルベルトの行動に、驚くとともに少し不自然さを感じたスカーレットは疑問を口にした。


「なんで? ランのところにはベッドがないでしょ?」

「いいんだ! 床でもどこでも寝るから! じゃあ、そういうことで! あ、ちゃんと鍵をかけて寝てね! おやすみ!」

「えっ!? アルベルト!?」


アルベルトは一気に捲し立てると勢いよくドアを開けて、慌てた様子で出て行ってしまった。


嵐が去ったように途端に室内が静かになる。

一人残されたスカーレットは唖然としながら閉じられたドアを見つめながら考えた。

何か酷く動揺しているようにも見えたが、スカーレットはその理由が分からず首を捻った。


(様子が変だったけどなんでかしら? それに顔が赤かったけど、実は熱でもあった、とか? だから私にうつしたくなくて同室を嫌がったのかも……)


そう思えば辻褄が合う。

この旅の途中で風邪でも引いてしまったのかもしれない。

ならば薬を用意してあげるべきだろう。


(そうだわ、リオンなら風邪薬も持っているかもしれないわね。まだ起きてるかしら?)


スカーレットは窓を開けると身を乗り出して隣の窓を見た。

窓からは明かりが洩れているので、まだ起きているようだ。

夜中に押しかけるのは申し訳ない気もするが、アルベルトの熱を下げる方が重要だ。


(きっと具合が悪いのを隠していたんだわ。早く良くなって欲しいし……)


アルベルトは自分の事よりスカーレットを優先するきらいがある。

だからきっと心配をかけまいと無理していたのだろう。

そう考えたスカーレットはリオンを訪ねるために隣の部屋へと向かうことにした。



「夜分すみません。まだ起きてらっしゃいますか?」


スカーレットは隣室のドアを軽くノックし、声を掛けた。

すると中からレインフォードのくぐもった声が返ってきて、目の前のドアがかちゃりと音を立てて開いた。

スカーレットを出迎えたのはレインフォードだった。


髪は少し湿っており、シャツは軽く羽織っただけで胸ボタンは真ん中から下しか閉められていない。

そのため引き締まった胸板が覗いていて、何とも言えない色気が出ていた。

予想外の姿に、スカーレットは思わず硬直してしまった。

瞬間的に自分の顔が赤くなるのが分かる。


「えっ……あ……」

「何かあったのか?」


動揺して言葉が続けれないスカーレットには気づかないようで、レインフォードが尋ねた。

その声でスカーレットはハッと我に返り、ここに来た目的を告げた。


(動揺してる場合じゃないわ)


「リオンに風邪薬を貰いたくて」

「大丈夫か? 熱があるのか?」


レインフォードは眉根を寄せて心配そうに言うとスカーレットの額に手をやった。

どうやらスカーレットが風邪を引いたと勘違いしたようだ。


風呂上りのせいかレインフォードの少し高い体温がじんわりとスカーレットに伝わってくる。その手の感触と熱を意識した途端、心臓が激しく動き体が熱を帯びていくのを感じた。


スカーレットは慌ててレインフォードの手をやんわりと退けた。


「あ、いいえ! ボクじゃなくて、アルベルトが風邪をひいたみたいなんです」

「そうなのか? お前の顔も赤い気がするが……」

「気のせいです!」


「ならいいんだ。残念ながら、リオンは今部屋にいないんだ」

「そうなんですか……」


「俺が帰ったときにはすでにいなかったが、この時間だしもうすぐ帰って来るかもしれない。入って待つか?」

「じゃあ、ちょっとだけ待たせてもらいますね」


レインフォードの招きに応じてスカーレットは部屋に入った。

入口近くのベッドの上に置かれたバッグがリオンのものだろう。

とはいっても、勝手に漁るわけにはいかず、今はリオンの帰りを待つしかないだろう。


そう思ってスカーレットが荷物から視線を戻すと、目の前でレインフォードが突然脱ぎ始めていた。

先程まではチラリとしか見えてなかった引き締まった上半身が露わになる。

思わず小さく叫んでしまう。


「きゃっ!」


慌てて視線を逸らすが、羞恥で再び顔が赤くなっているのが分かる。

ドッドッドッと心臓が激しく音を立てている。


「どうした? 女みたいな声を出してどうしたんだ?」

「えっ……と、そうでしたか? ボクは何も言ってませんし」

「確かに聞こえた気がしたんだが」


うーんと納得いかなそうな表情を浮かべたレインフォードは、今度は怪訝そうにスカーレットを見つめた。


「どうしてこっちを見ないんだ?」

「いや……」


(だってそっちを見たらまともにレインフォード様の裸を見ちゃうじゃない)


普通の男性ならばこんなに恥ずかしくないかもしれない。

だが、風呂上りで少し火照った体のレインフォードからは、壮絶な色気が出ており、直視したら死んでしまいそうだ。



(動揺しすぎ!)


スカーレットだとて前世では20代半ばまで生きてきたのだ。

男性の半裸だって当然見たことはあるし、むしろ理系だったので周囲は男ばかりだ。だから男の半裸を見ても特に何も思わない……はずなのだが。

レインフォードだと思うと動揺してしまう。


きっと推しだからだというのもあるし、恐ろしく整った顔とギリシア彫刻よろしくあまりにも均整がとれて美しい体つきのせいだろう。

見ているだけで「こんなちんけな汚らわしい俗人が見てしまってすみません」とひれ伏したくなる。


シャルロクで刺客に襲われて負傷した時にもレインフォードの半裸は見ているが、あれは緊急の状況下で見たので意識もしてなかった。

手当に必死だったからだ。


だが、こうやって改めて目の前にすると……やはり目のやり場に困る。


(そうは言ってもレインフォード様の視線が痛いのよね。)


これ以上不審な行動を取るわけにはいかない。

スカーレットは心を決めてレインフォードの方を見たのだが、目に入ったのはレインフォードの肩の傷だった。


レインフォードの傷は赤く痛々しいものであるが、それでも薄く新しい皮ができて、順調に回復しているようだった。


「傷の具合は良くなっているみたいですね。痛みはどうですか?」

「もう殆どない。だから大丈夫だって言っただろ? ほら、ライザック・ド・リストレアンだってもう飛べるようになってるんだ」


そう言ってレインフォードはスカーレットの肩に止まっていたライザックを見ると、そのまま柔らかい羽毛を撫でた。

ライザックはレインフォードに撫でられて気持ちよさそうに目を細める。


「バルサー家の秘薬は良く効くな。城でもこれを使いたいが、製法を教えてもらえないか?」

「秘薬ですからね……たとえレインフォード様でもちょっと教えられません。というか、材料が特殊なので多くは作れないんです」

「そうか、残念だな」


レインフォードは言葉ではそう言いつつ、さして残念そうではない様子から、ダメ元で聞いてみたと言う感じだろう。


「スカー、申し訳ないんだが包帯を巻いてもらえないだろうか? 確かに痛み殆どないが、無理に動かそうとすると少しだけ痛むんだ。念のために包帯を巻いているんだが、一人では上手くいかなくてな」

「……分かりました」


見ているだけでも緊張するのに傷の手当もとなると、正直卒倒しそうだったがこれ以上不審な行動はできない。

スカーレットは覚悟を決めると、レインフォードの傷口に薬を塗った。

そして手早く包帯を巻き、それが終わるとほっと息をついた。


「これで大丈夫です」

「ありがとう、助かった」

「いえ……気になさらないでください」

「……お前の手、結構小さいんだな」


不意にレインフォードはスカーレットの手に目を止め、不思議そうに見ながらそう言った。

そしてスカーレットの手をとるとそのまま指を絡めた。

突然の行動に、驚いたスカーレットは持っていた薬を落としそうになってしまう。


(な、なに!?)


混乱するスカーレットをよそに、レインフォードの長い指がスカーレットの指を弄ぶように、感触を確かめるように撫でていく。

触れ合った肌からレインフォードの熱がじんわりと伝わってくる。


「ん……」


思わず変な声が漏れそうになるのを、スカーレットはぐっと我慢した。


「こんな女みたいな手で剣を握るのか」


掠れた声でそう言いながら、レインフォードはまるで魅入られたようにスカーレットの手を見つめている。

きっと悪気はないのだろう。

ただ純粋にスカーレットの手が剣を握る手に見えず、それを不思議に思っているのだろう。


それが分かってはいても、このように触れられるとそわそわして、緊張から心臓が飛び出しそうだ。

むしろ止まりそうになっている。

これ以上、触れられることも指を絡められるのも無理である。


「レ、レインフォード様……もう、無理です!」


力を振り絞ってレインフォードの手を引きはがし、ひっこめた。

その言葉にレインフォードは我に返ったようにハッとすると、慌てた様子で弁明した。


「す、すまない! お前の手があまりに柔らかくて細いし、包帯を巻く時も丁寧だと思ったら手を伸ばしていた」

「い、いえ!」


この部屋に来てから予想外の展開が多すぎて、スカーレットの心臓はもう限界である。このままでは死にそうだ。


顔が熱を持っているのを誤魔化すように、スカーレットは話を変えることにした。


「それにしてもリオン遅いですね」


スカーレットがこの部屋を訪れてからだいぶ時間が経っている。

こんな深夜まで年端も行かない少年が戻ってこないというのは心配である。

何か事件に巻き込まれた……そんな考えが頭をよぎった。


「確かに遅いな」

「心配です。ボク、ちょっとその辺見てきますね」

「俺も一緒に行こう」


二人が立ち上がったその瞬間。ライザックが何かに気づいたように窓を見た。そして突然、何かを訴えるかのように激しく鳴きながら室内を飛び回り始めた。


「ピ―――ピ――――」

「どうしたの?」


スカーレットはライザックの突然の行動に驚きながらその様子を見ていると、スカーレットの肌がピリリという痛みが走った。

それを感じた刹那、スカーレットは反射的にレインフォードへと体当たりして、部屋の端へと追いやるのと、窓が激しい音と共に割れるのが同時だった。


エロエロ回?

レインフォードがセクハラ親父みたいになってて申し訳ない。でも指を絡めるとかえっちぃ感じがして好きです。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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