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第十話 キタぜ!敵はムテキの乱嵐竜(一)

伍道(おとう)さま……お久しぶりです!」


「エルミヤ……無事でなによりだ」


 カーナビの小さなモニター越しではあったが、エルフの魔女・エルミヤさんとその父親・雷門(らいもん)伍道(ごどう)ことゴドゥー・ライモンが久々の対面を果たした。とくにエルミヤさんにとっては、記憶が戻ったあとの初めての再会であり、喜びも一入(ひとしお)だ。


「お帰りなさいエルミヤさん!」

「まさしく、感動の再会っス!」

「本当良かったね、二人とも!」

「ホンマやで、おめでとさん!」


 次々と祝福の声が上がる中、ステアリングを手に黙って運転中の俺に向かって、妖精のレベリルが口を尖らせた。

「ちょっとぉ勇者さま、アナタも何か言ってあげなさいよ」


「ん? ああ。……ま、まあ、良かったな、エルミヤさん」


「はい! リュージさまやみなさんのおかげで、こうしてまた父に会うことができました。……本当に、ありがとうございました!」


 助手席に座っていたエルミヤさんは、俺たちに向かって深々と頭を下げた。あふれる涙が、彼女のトレードマークである丸メガネをすっかり曇らせている。


「だがよエルミヤさん、まだ喜ぶのは早いぜ。なあ、伍道」


「その通りだ。あれからまた時間が経って、事態はさらに悪化している。これを見てみろ」


 カーナビの画面が、別の映像に切り替わった。おそらく、現在のノースコア上空の様子であろう。だが――


「こりゃあひでえ……。おい! さらに()えてやがるのかよ、この『竜の大嵐(ドラゴンストーム)』ってヤツは」


 そこには、この前に見せられた映像とは比べ物にならないほどの大量のドラゴンがぎゅうぎゅう詰めになっていた。これではまるで初詣の明治神宮か、入場待ちのティバニーランドだ。


「ねえ伍道、いったい何匹いるの、これ?」


「言いたくねえが、ざっと百匹ってとこでさあ、お嬢」


「ひゃ、ひゃくぅ! どういうことなん?」


「ドラゴンの増殖速度が、思った以上に(はえ)え。周囲に悪影響を及ぼす『瘴波(しょうは)』の濃さも急激に上昇している。さすがに、こんな数はまともに相手にしてらんないな」


「それじゃあ、これからどうするんスか?」


「じつはな、俺にちょいと考えがある。それには尾形(オガタ)ちゃん、アンタの協力が不可欠なんだがよ」


「ジ、ジブンっスか?」


「後で説明するから、悪いがそれまで待っててくれ」


 殖えまくったドラゴンたちの対処方法について、オガタがいったいどんな切札になるのか。とりあえず、そこは伍道に任せるとして、俺は気になっていたことを尋ねてみた。


「もうひとつ、いいか伍道? 近衛騎士(ロイヤルナイト)のエルシャルク・ウランベルってヤツのことなんだが――」


「ああ。ソイツのことなら、レベリルから話を聞いている」


「知っているのか? シャルクのことを」


「ウランベル家については、くわしくは知らねえ。だが、昔から大王宮(ロイヤルパレス)ってとこには魑魅魍魎(ちみもうりょう)(うごめ)いていやがるからな。どんなに妖しげな手段や魔法を使うヤツがいるか、わかったもんじゃねえさ」


「お父さま……」


「安心しな、エルミヤ。絶対(ぜってぇ)に、お(めぇ)をあんな三下(チンピラ)(ヨメ)になんかさせねえからよ」


「は、はいっ!」


 こっちの世界での伍道(ゴドゥー)は、かなり由緒正しく高貴な家柄のエルフの魔導師であるということだが、あっちの世界の任侠暮らしが長かったせいか怒りのせいか、多少口調が荒っぽくなっている。まあ、エルミヤさんがそれを受け入れているなら良しとするか。


「今のところ、俺のツテやコネをフルに使って、いろいろ調べてる最中だ。とにかく、ドラゴンと同じくらいシャルクの動きにも十分に気をつけてくれ」


 わかった、と俺は返事した。シャルクの騎士団に黙ってホッタンの村を出てきてから、すでに一時間以上が経過している。今ごろヤツらは、血眼(ちまなこ)になって俺たちを追ってきているだろう。



「いいか? 竜司。このまま車で真っ直ぐ、ノースコアの中心地まで向かえ。全速力で行けば、おそらく半日とかからないはずだ」


「了解だ」


「竜司さん、私がマップから方向を指示(ナビ)します。それから魔物(モンスター)の接近があったら、その情報も随時お知らせしますね」


「ああ。頼むぜ、(ゆたか)ちゃん」


「任せてください!」


 この『ドラゴンファンタジスタ』の廃人プレーヤーでもある(ゆたか)ちゃんならば、最新の魔物(モンスター)に関する知識は、伍道をも凌駕するに違いない。頼もしいナビゲーターの存在に、ハンドルを握る手にも力がこもる。




「それではリュージさま、みなさん! いっしょに力を合わせて『らんらんるー』を倒しましょう!」


「なんだ? その『らんらんるー』ってのは」


「今回の『竜の大嵐(ドラゴンストーム)』の親玉(ボス)の名前じゃないですか。『乱』れる『嵐』の『竜』だから、『乱嵐竜(らんらんるー)』です!」


「あれは『テンペストドラゴン』だろ?」


「あ、そう読むんですか? 私、文字でしか見てなかったので知りませんでした」


 エルミヤさんとのそんなやり取りをしながら、俺はこれまでの彼女との同居生活を思い出していた。いつもの調子のエルミヤさんが戻ってきてくれたことに、自然と俺の口角は上がっていた。



 カーナビの画面が再び切り替わり、いつになく真剣な表情の雷門伍道の顔が映し出された。


「いいか? みんな。最後にもう一度だけ、確認しとくぞ。今回の作戦(ミッション)の目的は、乱嵐竜(テンペストドラゴン)の討伐。だが、全員が生きて帰ってきて初めて『成功』だ。それだけは、絶対に忘れないでくれ」


 伍道の言葉に俺たちは全員、心を込めて返事をした。そう、この世界(ゲーム)は死んだら終わりの超難関(ハードモード)なのだ。



「行くぜ! みんな!」


 俺は、不気味な黒雲の渦巻く北の大陸・ノースコアへと向かって、全力を込めてアクセルを踏み込んだ。




続く



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