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第八話 異世界、行っちゃうのかよ?(七)

「異変が起きたのは、遥か北にあるノースコア。『ドラゴンファンタジスタ』の世界でも人々が住むことのない極寒の大陸だ」


 そう言いながら伍道が木の杖で床を叩くと、また先ほどと同じく会議室の壁が広大な風景(パノラマ)に変わった。だが大きく異なるのは、まるで北極か南極のように氷の山がひしめいていることだ。見ているだけで、身も心も凍りつきそうである。


「ひゃっ! さっ、(さっぶ)そやなぁ……」

「ここが、ノースコア……。私、話には聞いたことありますけど……」

 ゲームとしての『ドラゴンファンタジスタ』の、廃人プレーヤーとして長年遊び続けている(ゆたか)ちゃんでも、いまだ訪れたことのない未開の地らしい。


「これを見てくれ」


 伍道が杖を振るうと、視点が上空へと切り替わった。そこにいたのは――翼はためかせ、長い尻尾を振るい、巨大な角と牙を持つ怪物(モンスター)。そう、ドラゴンである。


「これが……ドラゴンなの?」

「それも、メッチャいるっス!」


「そうだ。現時点で確認できるドラゴンの数は、およそ三十体。そして、今もなお()えつづけている」


「三十体だと?」

 比較するものがないから正確な大きさまではわからないが、空を飛んでいるドラゴンは体長が十から二十メートルくらいはありそうだ。ビルの工事現場で見る、大型クレーン車並みである。それが三十体もいるっていうのか?


「それも、いろんな種類(タイプ)がいるようですね」


「ああ。炎の(ブレス)を吐く火炎竜(レッドドラゴン)に、毒ガスを振りまく暴風竜(グリーンドラゴン)。それ以外にも、青いのやら黒いのやら茶色いのやら……。ここまでの大群は、今までに見たことも聞いたこともない。ノースコアの上空は、いまやドラゴンの見本市(ショーケース)だな」


 伍道は、杖の先を一体のドラゴンに向けた。ぐっと大写しになり、幾重もの鱗が鮮明に見える。その姿は、怪獣映画で見た巨大モンスターそのものだった。


「その体躯を生かした多彩な攻撃とパワー、強烈な(ブレス)も厄介だがな。ヤツらの一番の難点は『瘴波(しょうは)』だ」


「瘴波って?」


「ドラゴンは、自身が発し続けている目に見えない邪悪な波動が、周りの生物や環境に悪影響を与える。存在そのものが死と破壊を呼ぶ、まさに滅びの化身さ」


 ふたたび伍道が杖を鳴らすと、周囲からドラゴンの群れが消えた。その衝撃的な映像に、軽くめまいすら覚えたほどだ。


「こんなドラゴンが、やがて世界中を覆いつくす。まさに『竜の大嵐(ドラゴンストーム)』だ。放っておけば、ドラファンの世界だけじゃない。こっちの世界のインターネットも、瘴波によって致命的な打撃を(こうむ)るだろう」


「そんなん……いったい、どうすればええのん?」


「無論『伝説級の災厄』には、『伝説の勇者』しかいないだろ?」


「ってことは、つまり…………っスか?」


 みんなの目が、ふたたび一斉に俺の方を向いた。


「この事態を食い止めることができるのは、伝説の勇者・軍馬竜司しかいねえ!」




「いいか竜司、事態は一刻を争う。モタモタしてると、あっという間にドラゴンが(ガン)細胞のように増殖しまくって世界は終わるぜ」


「そうは言うがな、伍道。いったいこの俺に、どうしろってんだよ?」


「まずはこれから次元転移魔法(リディメンション)を使って、お前をドラゴンファンタジスタの世界へと送り込む。そしてどんな手を使ってもいいから、とにかくドラゴンをすべて根絶やしにすればオッケーだ」


「あのなあ……。軽く言ってくれるんだが、相手は空飛んで火を吐くドラゴンだぜ? それも三十匹。どうやって退治しろってんだよ」


「そうや! いくらなんでも無茶やで」


「実は、ドラゴンには大元になってる親玉がいてな。今いるヤツらは、言わばすべてそいつのコピーなんだ。親玉のドラゴンさえ倒しちまえば、ほかのもすべて消滅する」


「親玉って、どんなヤツっスか?」


乱嵐竜(テンペストドラゴン)だ」


「そのテンペストドラゴンっていうのはどこにいて、どうやったら倒せるんですか?」


「それは…………残念ながら、俺にはさっぱりわからん。そこからは竜司、お前の仕事だ」


 なんだと? ここまで話を進めておいて、肝心のところで終了か。この男、いくらなんでも無責任すぎやしないか?


「はあ? それじゃあいったい、どうすればいいのよ?」


「お嬢、申し訳ないが、この俺にできるのは竜司のサポートだけだ。逆に言えば、竜司だけがそれをやり遂げる力を持っている」



「――――ひとつ聞いていいか? 伍道」

 しばらく考えたあと、俺は伍道にひとつ気になっていたことを聞いてみた。


「なんでも」


「今、エルミヤさんは、ドラファンの世界にいるのか?」


「竜司。俺はあの後、自分の持てる魔力すべてを駆使してエルミヤの居所を徹底的に探索した。そして、あの()が次元転移して向こうの世界に戻っていることを突き止めたんだ」


「本当なのか? 今でも無事に――」


「それはわからねえ。だが、このままドラゴンファンタジスタの世界が消滅すれば、もちろんエルミヤも無事ではいられないだろう」


「……………………」


「グンバリュージ……」

「竜司さん……」

「竜ちゃん……」

「竜司……」


 俺は彼女たちの思いを受けながら、最後の決断を口にした。いや、その内容はすでに心に決めていた。


「わかった、行くぜ。俺ができることを、できる限りやるだけだ」


「そうか! それで申し訳ないが『竜司ガールズ』のお嬢さん方。ぜひみんなにも、この竜司についてってほしいんだが……」


 ハイエルフの熟練魔導師(マスターウィザード)・ゴドゥー・ライモンは、両手を広げて彼女たちにそう言い放った。




「お、意外とみんな冷静だな。もっと『ええええ~~~~っ?』とか言うかと思ったが」

 伍道は、すこし拍子抜けしたかのようにおどけて言った。


「あの話の流れだと、そんな感じだったからね」

「地球の平和を守るのは、警察官の務めっス!」

「ま、竜ちゃんと世界のためならしゃあないな」

「ゲームの世界に行けるなんて夢みたいです!」


「おっと、(ゆたか)ちゃん、だっけ? 悪いがキミは居残りだ」


「えっ? どうしてですか?」


「たしかキミは『ドラファン』のヘビーゲーマーなんだよな。その腕と経験を生かして、こっちの世界から竜司たちを手助けしてほしいんだ。失礼ながら、キミ本人は体力的にも少々心もとないしな」


「そうですか…………わかりました」

 優ちゃんは、ちょっと残念そうに返事した。女の子たちの中では、一番ドラファンの世界の知識を備えている彼女だが、言ってみれば普通の女子高生だ。というか、ほかの三人が規格外すぎるのだが。


「お嬢に尾形(オガタ)ちゃん、粽子(チマキ)ちゃんには、竜司と一緒に行ってもらいたい。みんなの持つスキルは向こうの世界で、きっと竜司の大きな助けになるはずだ」


「わかった、伍道」

「ウチもええで!」

「了解したっス!」


 小虎・チマキ・オガタは快く承知した。

 本来なら、針棒組の屈強な組員を数人連れていったほうが、戦力的には助けになるのかもしれない。だが、いまから組員たちに事情を説明して納得してもらう時間的余裕はないし、向こうの世界を熟知している伍道としても、彼女たちがゲームの世界で役立ってくれることを確信しているのだろう。


「だが伍道、この()たちにドラゴンと戦えってのは、いくらなんでも危険すぎやしないか?」


「俺は、優ちゃんと一緒にこっちの世界からゲーム画面を介して指示をさせてもらう。そして万が一、彼女たちに危害が及びそうになったら、即次元転移魔法(リディメンション)で瞬時にこちらへ連れ戻すから、安心してほしい」


「そうか、わかった。くれぐれも、この子たちの命を最優先にしてくれ」


「ああ。それで竜司、向こうへの行き方なんだがな。みんなを『ドラファン』の世界に確実かつ安全に送り出すいい方法を思いついたんだよ」


「どんな方法だ?」


「お前の乗ってる車、あったろ? あれだ」



「まさか――――ハコスカか?」




続く



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