第2戦 様銀二の実力
僕は今コートに立っている。
大勢の観衆の中で。
そう、世界大会のだ。
何と世界大会が当日だったのだ。
歓声は僕に向いているものではない。
悲惨にもシード落ちの優勝連名強豪校に当たっているらしい。
シード権はじゃんけんとかいうビックリ仕様。
自分たちの高校は散々に負けたため、下の下から上がっていくしかないらしい。
まぁじゃんけんに負けたのは樹里菜先輩らしいけど。
そんなことはどうでもいい。
樹里菜先輩すらもう戦えないんだ。
でも、もしここで一戦でも勝てれば五十万円なんだろ?
そもそも誰も期待すらしてないんだ。
何なら、”やりたいようにやるだけ”だ。
三年のホープらしい相手がネットの際まで歩いてくる。
そうだそうだ、どっちがサーブ権を持つかはじゃんけんだったな。
何かにつけて運任せだな、このスポーツ。
「君、小さいねぇ。
まさか一年生じゃあるまいね?
レギュラーでもない一年生が世界大会で、この僕と戦おうなんざ」
「うるせぇ。
サッサとしろよ、弱い犬ほどよく吠える。」
「ハッハッハ!
威勢だけは百点満点だな!
いいだろう、サーブ権は譲ってやろう。
大いに恥をかくといい。」
言いたいことは沢山あったが、どうでもいい。
勝ちさえずれば。
ラケットにはめ込まれた青いパーツを外す。
その光景に審判が声を荒げる。
「君! そのパーツを外したら反則……え?」
アクリルケースから取ってきた緑のパーツと取り換える。
「え? 君、正気か……?」
「反則でしたか?」
「い、いや……。」
そもそも怖がって誰も使わないだろうから鍵すらつけてなかったんだろう。
甘いな。
多分青いパーツであそこまで疲弊するんだから緑のこれは相当に効くんだろう。
一回勝つまでが僕の仕事だ。
なら、コイツだっていいだろ?
「し、試合開始!」
ホイッスルが高らかに鳴る。
しかし、どういう原理で球が出てラケットで打つのかもわからない。
テニスと一緒でいいのか?
ふいっとラケットを上げる。
その姿に会場から笑いが零れる。
「ハッハッハ! 超電磁テニスと普通のテニスの違いすら分からないのか!?
そんなんじゃ」
スパーン!バリバリィ!
「……君、動けなかったね? 勝者、様銀二!」
「え? 嘘だろう? 球なんて飛んで来てない!」
「強豪校さんは目の前の事実を受け入れないで勝つものなのか?
足元、焦げてるぞ。」
「はっ!」
視線を下にやると少し離れた線のギリギリ内側に焦げ跡がついている。
「こ、焦げ跡だと!?
どんな電力をしたらこんな事……!?」
「はーい、一勝とったからサーブもこっちだったかな。
もう一発行くぞー。」
観客は呆気に取られている。
そうか、ラケットを振れば球が自動的に出るのか。
樹里菜先輩も意地悪だよなー、教えてくれればいいのに。
ってのはまぁ、冗談で樹里菜先輩は部長の看病でそれどころじゃないんだよな。
ピーッ。
ホイッスルが鳴る。
ブンッ、とラケットを振った瞬間にスパーンと打った音と同時に相手の足元にバリィ!と電気の着地音がする。
「勝者、様銀二!」
「バカな! 速すぎる! 精度も速度も化け物か!?」
打ちますよ、のモーションが要らないのは相手の虚が突けていいね。
お相手さん全く動けていないじゃない。
面白い、まさに無双じゃん。
死ぬとか聞いた割にこの緑のパーツ全然疲れないし。
力入れてないんだぞ、殆ど。
ピーッ。
三戦目のホイッスルが鳴る。
今度は待ってやろうか。
ラケットを持ち時間ギリギリ近くまで待ってから振る。
スパーン、バリィ!
「セットスリー、勝者、様銀二!」
「こ、この僕がストレート負けだって!? 嘘だろ……!?」
観客が状況を理解したのか歓声が一気に様銀二に向く!
「よっしゃ! 一勝! 五十万円だ!
部長、待ってて下さいよ!
それにしてもこれ、かなり気持ちいいなぁ!」
かくして、選手疲弊による棄権とまで見られていた我が校は様銀二たった一人により相手校が、先鋒、次鋒、急遽変更になった大将の三人が三敗ストレートで抜かれ呆気も無く敗北を喫したのであった。
これまでの様銀二の獲得賞金、三人抜きで五人と見做されて二百五十万円。
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