第1戦 入部したのは超電磁テニス部
昔から電気的な才能があるのは知っていた。
ドアを触れば静電気が走るのはいつものことだし、怒ることこそそんなに無いが幼少期にグズって周囲一帯を黒焦げにしたこともあった、らしい。
そんな自分も高校生になったが、付いたあだ名が電気球。
あの電気が流れる銀の玉に触ると手痛いアレだ。
一応、公 様銀二って名前があるんだけどね。
新入生歓迎会も厳かに、部活選びが始まった。
自分の能力を知ってか知らずか声はそれほどかからない。
まあ、体格的には低身長でスポーツに向いているとも思えない。
どこにも興味がないな。
帰宅部にでもするか。
そんなことを考えながら歩いていると、袋小路に行きついた。
行き止まりか、引き返すかなと思ったら少し開いているドアから何か見えた。
ベッドに寝ている何か。
まるで爬虫類の鱗のようなものに覆われている人のような何か。
「あ、あぁあぁ……!」
何かを見え切らずとも察したのか腰が崩れた。
声を察知したのか中から綺麗な女性が出てくる。
「あれ、君……?」
「ぼ、僕は何も見ていません! 忘れます! すみませんでした!」
「君、超電磁の力があるの?」
「え? 超電磁? 何ですかそれ……。」
「だって身体に砂鉄がついてるよ。」
「あ、またか……。」
いつもの事に呆れ、パンパンと砂鉄を叩き落とすがその綺麗な女性は目を輝かせてこちらを見ている。
「な、何ですか。 忘れますって。」
「君、ちょっとこの部屋に入らない?」
「いや、でも。」
「お願い、少しだけでいいから!」
半ば強引に押し込められるように部屋に通されると、ベッドには半人半龍の人間が寝かされていた。
見間違いではなかったらしい。
二十歳くらいだろうか、半龍の女性が少し身体を起こすと僕を部屋に押し込めた女性に厳しい言葉を投げる。
「樹里菜、怖がっちゃうでしょう? こんなことしたら……。」
「でも部長! 彼には才能があると思います! だってこの砂鉄!」
「あ、まだ付いてるのか。」
「……もう、ごめんなさいね。
私は二十歳になる、ここの留年部長をしているんだけどね。
見ての通り、呪いにかかって今はもう半分が龍の身体に侵されてるの。」
「呪い……? 進行しちゃうんですか?」
「そうね。 放っておけば、龍になって理性を失くして死ぬわね。」
「部長!」
「樹里菜、これは私の問題。
消えゆく私は名前も明かさないし、龍になって狩られるだけの存在よ。
この身体になってそんなに経ってないけれど、思ったより進行は早いわ。
間違いなく21歳は迎えられないでしょうね。」
「で、でも……折角部長の治療費が取れるかも知れない世界大会まで来たのに……!」
「何なら樹里菜、貴女が名乗ったら?」
「あ、そっか。 まだ名乗ってなかった。
私は青山 樹里菜、三年生。 ここの副部長だよ。」
「副部長さんですか、自分は一年の公 様銀二って言います。」
「おおやけほうぎんじ? 随分と珍しい名前だね?」
「あまりにバリバリするんで、電気球ってあだ名がついてます。」
「……部長、ここはお願いしてみてもいいんじゃないですか?」
「もう、勝手になさい。 期待するだけ無駄よ。」
ふいっと部長が向こうを向いてしまう。
「何ですか? そういえば治療費の目途がつきそうな世界大会に出たとかって聞こえましたけど。」
「本当ならね、五人で戦うセットマッチ戦の超電磁テニス部なんだけど世界大会まで来て私を含めて部員がみんなダウンしちゃって……。」
「へ? 何部ですって?」
「超電磁テニス部。」
「どう戦うんですか、超電磁?とかで。 テニス?え?」
「これがラケットなんだけどー……。」
見せられたのは普通のテニスラケット……じゃないな。
何か持ち手のすぐ上に何かはめ込むギミックがついてるぞ。
「何か付けるんですか? ラケットに。」
「これこれ。」
取り出したのはちょっと重そうな、電気パーツ。
「これで体内を走る電気を増幅して電気球を発生させてボールにするの。
私が持ってるのは青いパーツでしょ?
これはALマイト電極って言って威力と消費電力のバランスが取れているパーツ。」
「アルマイト電極? 聞いたことないや。」
「向こうのアクリルケースに置いてある緑のパーツは見える?」
「あぁ、ありますね。」
「あれは、使用を禁止してるんだけどFLマイト電極って言ってね。
消費電力が高く、威力も高いハイリスクハイリターンの部品。
一応レギュレーションとしてあるから置いてるだけだけど、あんまり使うと場合によらなくとも死んじゃうからね。」
「フルマイト電極? やっぱり知らないや。」
「君、超電磁の力があるみたいだから一戦だけでも戦ってみてくれないかな。
一勝でも出来れば五十万円。
部長の治療費には到底届かないけど、当面の維持費用にはなりそうだから……。」
そう言って樹里菜先輩が表情を落とし、手で目をこする。
その姿を見て、何かが心で弾けた。
「……します。」
「え?」
「入部します! 世界大会一戦だけでいいんで、自分にやらせてください!」
「ルールは? 知ってる?」
「分かりません!」
「でしょうね……、もし一勝でも出来たらひとつお願い聞いてあげる。」
「ほ。」
「あ、えっちなのはダメだからね?」
「分かってますよぅ!」
奥で向こうを向いていた部長が聞こえていたのか小さくクスクスと笑っている。
後々樹里菜先輩から聞いた話だと、一人五戦中三勝すればいいだけの事だ。
数戦で一戦になる実際のテニスとは違う、一球で一戦。
どこまで行けるか分からないが、部長のためにみんな頑張って来たんだろう?
まずは一回、勝ってみようじゃないか。
ここから様銀二の戦いが始まる。
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