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6 アマノミネ

「あ、ありがとうございます!」


 お客さん用のお部屋に連れられて、一人用のソファーに座らせてもらいました。

 そしてすぐ、シタソラさんが手当をしてくださいました。

 アマノさんも、ずっと座って見ててくださいました。


「手当まで全部して頂いて……」

「いいよいいよ。眼福だし!」

「ほえ?」

「シタソラ、いいってば。朝比奈くん、痛みは大丈夫?」

「ジンジンとしてますが……もう大丈夫です……!」


 ならよかったと、お二人は安心しています。

 その姿を見て、僕も一安心です!

 優しくして頂けたので、もう気になりません!


 だんだんと、僕も周りが見えてきました。

 痛いのがなくなったからでしょうか。

 辺りを見回そうとしましたが、すかさずシタソラさんが僕のお顔をのぞき込んできます。


「星夜くん。わたし、貴方のお話が聞きたいなあ」

「お話、ですか? えっと、うんと……」

「シタソラも唐突すぎるよ。あ、ミルクティーあるよ」


 さっき、誰かが持ってきてくださったらしい、ほかほかなミルクティーが目の前にあります!

 怪我と痛さにつきっきりでしたので、気づけていませんでした。


「甘めにしてもらってるよ。確か好きだったよね」

「わぁ! はい、大好きです! 嬉しいです!」

「ふむふむ。星夜くんは甘いものが好きと」

「何をメモしてるのよ何を」


 シタソラさん、何やらメモをとっているようです。

 僕のことを知ろうとしてくれてるの、とってもうれしいです!


「えっと、僕のお話、でしたよね? 何をお話すればいいのでしょう?」

「そうだなあ。本読むの好きみたいだけど、どういう本を読んでるのか知りたいな~」

「んーっと……」


 僕が好きな本。

 最近読んでるのはエジソンさんのお話です。

 ですがこれは、別世界の人のことなので、あまり喋らないように朝倉さんから言われてます。


 とすると、この前読んだあの……。


「あ……! 『アマノミネのヒミツ』って本です!」

「へえ、この町の……。どんな秘密が書いてあったの?」

「うんと、色んなことが書いてありましたけど……――」


 あの中で一番心に残ったお話といえば。


「――アマノミネのどこかに、妖精がいるってお話でした」

「妖精……? これまた幻想的ね」

「…………」


 シタソラさんは気になるようで、じっとこちらを見てきます。

 ちょっと、こわいです。

 でも、藍色の目がとっても綺麗です。


「んと、昔は妖精さんたちが、このアマノミネを守っていたみたいで――」

「ほおーいわゆる賢者様みたいな?」

「そうですそうです! テンペンチイを乗り越えて、眠りについたって書いてありました!」

「へぇ~……なんだか夢があるね!」

「はい! 町を冒険したくなりました!!」


 いつか、そんな妖精さんたちに会ってみたいなって思います。

 ……いったい、どこに居るんでしょうか。


「星夜くん。周りを見てもたぶん、この部屋には居ないと思うよ」

「ふわっ……ぼうっとしてました! って……あれ、アマノさん?」

「あれ。居ないね」


 アマノさんが居ません。

 お花の様子を見に行っているのでしょうか?


「……あ、この町の話だからかな」

「ほえ?」

「アマノって、この町の言い伝えをあまり言いたくないんだってさ」

「んー……」


 話してはいけないことだったのでしょうか……。


「そんな顔しないの。たぶん星夜くんが話す分には大丈夫。でも、知ってる張本人が話題に乗ると、うっかり喋っちゃうかもしれないでしょう? 間違ったことは訂正したい主義らしいしさ。だから席を外したんじゃないかな」

「うーん……ううん……わるいことをしてしまったでしょうか」

「ほら、悲しまないで。あの人……アマノがそんな器の狭い人間なわけがないよ」


 シタソラさんは一回大きく息を吸って吐いて、もう一度吸いつつ続けます。


「心を代弁するなら、『私はいいから、あなたたちだけで楽しみなさい』ってことだよ」

「ほえー!」


 なるほど、そういう考え方もあるんですね……!

 そうと分かれば……!

 入り口のドアに駆け寄って、ガチャッと開いて僕は叫ぶのみです!


「アマノさーーん!! もうお話終わりましたぁーー!!」

「こらー。静かにっ」


 僕の声に反応して、廊下の壁沿いからお叱りが聞こえます。


「あっ、ごめんなさい……! でも、えっと、廊下にいらっしゃったんですね!?」


 怒られてびっくりしましたが、すぐそこに居てくれた嬉しさが一緒に住んでいます。

 なんだかあったかいです。ふわふわ。


「さ、戻ろう。ミルクティー冷めるよ」

「えへへ、はーい!」


 僕はまっすぐ、元居たソファーに戻ります。

 隣のソファーにアマノさんが座り、向かいにシタソラさんが居ます。


「じゃあ、んと、いただきます」

「どうぞ」


 ミルクティは、ちょうどあったかいぐらいです。

 ちょうどお二人と同じぐらいに、優しくて、あったかいのです。


「ほふ……」


 この場所に居られることが、どれだけ幸せなことなのでしょう。


「ねえシタソラ」

「どしたのアマノ」

「朝比奈くんってさ、ぜったい頭にお花咲いてるよね」

「あ、わかるかも」

「えっと、鳥さんなら肩に乗ってくれますよ?」

「星夜くん、たぶん、そういうとこ……」

「ほえ!? どういうとこですか!?」


 結局、この意味を二人とも教えてくださいません。

 意地悪なこともありますね……むぅっ。


「あ、膨れてる」

「星夜くんかわいい~」

「もうっ! お二人がよくわかりません!!」


 拗ねないでーとシタソラさんに言われますが、僕はわるい子なので、拗ねます。


「なでなで」

「ふへ……」


 アマノさんにまけました。

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