4 カイトさん
ふと、時計を見ると時刻は十一時になろうとしています。
ずっと研究所にいるのも楽しいですが、やっぱり僕一人では少し寂しいですね。
テレビを眺めたり、テーブルに置いてあるスゴイ板でご本を見たりします。
最近僕は「エジソンの一生」を読んでます。
別世界では電気を作った人なんですって。すごい!
でも、エジソンさんやテスラさんより、朝倉さんはもっとすごいんですからね。ふふん。
「おぅ……アルト。おはよう」
「あ、カイトさん! おはようございます!」
「ぅぁああ……。眠気が取れん」
この人は冥生 カイトさん。
元盗人で、研究所から大切なモノを取って逃げようとしていたところを僕と朝倉さんが捕まえました。
それから仲良くなって、今は大切な家族なんです!
髪の毛は朝倉さんと同じぐらいボサボサで、服も整え知らずで堂々としています。歳は朝倉さんより何歳か上らしいです。
「朝飯あるかな」
「朝倉さんが作ったのを温ルームに置いてましたっ」
「おいさー。 ……いや、温蔵庫で良くないか?」
「温ルームです! 温かいお部屋なので!」
「うーん毎度のことながら納得しきれんなー……」
カイトさんはいつものようにご飯を取り出して、テーブルで食べ始めます。
食べるのはもちろんさっきの「もふわとろむらいす」です。言えてますかね……?
「やっぱあいつの料理最高だな! あと温蔵庫の存在も――」
「温ルームです」「――でかい」
「……温ルームの存在もでかいな!」
朝倉さんとカイトさんが一緒作りをしたこの温ルームは、ただ温かいだけじゃないんです。
なんでかはよく分からないですが、一日中おいしさが変わらないお部屋なんです!
あと、これはオンゾーコじゃなくて温ルームです。
「そういやお前、学校はどうした?」
「あー……僕たちと同じですね」
「へぇ?」
僕たちはどうやらお休みを分かってないみたいです。
研究所は毎日動いてますから、お休みを忘れてしまうのでしょうか?
「今日、赤い日らしいです……!」
「うっそだろマジか!? くっそー。世間様は街中で買い物やデートを楽しんでいるっつーのに!」
「僕も午後遊びに行ってきます!」
「うわぁー羨ましいな! 俺の分まで楽しんでこいよ」
お話が済んだ辺りでカイトさんはガッツガツとご飯を食べ始めます。
ゆっくり食べればいいのになーと思うんですが、そう言うといつも「忙しいからなー」とため息を吐いています。
忙しいって、そんなに大切なことなんでしょうか……?
頑張ってる方々はみんな、忙しいって言います。
でも僕は、忙しいと感じたことはないんですよね。忙しいがあった方がいいんでしょうか?
「カイトさん、ちょっと質問が」
「どうしたんだ? 真剣だな」
「その、忙しいって、大切なことなんでしょうか?」
「……? つまりどういうこと?」
「忙しいって、僕にもあったほうがいいんでしょうか?」
「んー……」
カイトさんはオムを頬張りつつも、右手のお母さんとお兄さんをトントコして少し考えます。
しばらくしてお水を飲むと、口を開きます。
「別に忙しいこと自体は大切でないけど、何かに没頭できることが大切なんじゃねえかなーとは思う」
「ぼっとう?」
「そうだな。お前は動物や植物が好きだろ? その好きって事実だけでいいんだよ。それ以上にこだわる必要はないし、俺たちみたいに急ぐ必要はない。自由なら、その有り余る時間を好きにするのがいいんだよ」
「そういうものなんですかー」
「そうなんですよぉ。忙しさなんてのは立場や状況による。人生には義務なんてものはねぇし、休めるやつは休めばいいんだ。知らんけど」
「ほえ~~……」
目からお魚です。ピチピチです!
見方が違ったみたいです!
「ま、俺はやりてぇからやってるだけだし、そのやりてぇことが丁度忙しくなることだったってこった。それはきっとトモヤも同じだろうよ」
「なるほど! よくわかりました!」
お返事をすると、慣れてなさそうな笑顔で会釈をしてくれます。
そしてお皿に残った小さな神様をかき集めて、まとめて掬い取るカイトさん。
「毎回この一口が惜しいんだよなー」
「あ、それ分かります。ちょっと寂しいですよね……」
あーんと口を大きく開けてもぐりと食べ終えます。
お腹を服越しにさすって、ポンポンと満足そうです。
僕は自分の部屋に行こうかと立ち上がり、歩き始めたところでカイトさんに呼び止められます。
「あー、そうだアルトー」
「どうしたんですか?」
「今さ、トモヤと耳に付ける装置を考えてるんだが……」
それは僕にはとっても、素敵なお話でした。
完成が楽しみです!