1 朝倉さん
――夢を、見ています。
辺り一面の草原を駆ける楽しそうな僕。お花に挨拶をします。
虫や鳥たちも、こちらに挨拶をしてくれます。
みんなふわふわで、あったかいんです。
ちゅんちゅん、もふもふ。
「あるとー。おはよー」
「あるとくーん。おみずちょうだーい」
話しかけてくれました。
えへへ、みんなかわいい。
んーと……はい。夢だと分かっています。
お花や生き物はこんなにふわふわしていませんし、こんなにあったかくはありません。
まして動物たちが挨拶してくれる日なんて、まだ僕には遠いですから。
夢と分かったら、すぐに起きてしまうんです。
そこは単に、少し明るめの何もない世界です。
なので僕はゆっくりと目を開きます。
明るくて眩しいですが、でも窓から見つめてくる優しいお日様からなので嫌じゃないです。
ゆっくりと腰を上げて、身支度を調えて部屋を後に。
とりあえずまずは洗面所に。
急いで歯磨きを済ませます。
そうして向かうは一点。ご飯の部屋……というと食い意地が張っているでしょうか。
でも仕方ないのです。
朝倉さんの作るご飯が美味しいからいけないんです。
「あーさーくーらーさんっ!」
食堂――といってもそんな大きいわけではないです。お友達の家と似ています――にいる朝倉さんへ声をかけます。
ええ。これが日課なんです。
「おお、アルト。おはよう」
「おはようございます! アルトは今日も元気いっぱいです!」
この朝倉さんこそがここの主です。いつも白衣を着ています。
背丈は僕よりも少し小さくて、時々、その白っぽい銀色のくせっ毛が僕のお鼻に触りそうです。
歳は15歳だそうで、僕より2つ上……になるんでしょうか?
優しくて、頭が良くて、怖いことがあっても助けてくれる、すごい人です!
いつも汚れた白衣を着ていてばっちいですが、これでもご飯作りはとっても上手なんです!
今日のメニューはなんでしょう。
匂いからするに、きっと卵料理でしょうか。フライパンを使っていたようですが。
「オムライスですか!?」
「ご名答。さすがアルト。盛り付けているから座って待ってなさい」
なんと、起き抜けから「ごちそう」様です!
朝倉さんの作るとろとろオムライスはいつかお店を出すべきだと思います!
はうぅ……いい匂いです……。
「『朝倉さんちのご飯屋さん』でしょうか?」
「店名かい? それだけ喜んで貰えるのなら、作り甲斐があるというものだよ」
出てきたオムオムはとってもとろとろふわふわ、もふもふです。
そうです。ふわふわ、もふもふです。
ああ、さっき夢に出てた、あのふわふわな子たちを思い出しました。
「さて、今日は何の夢を見たんだい?」
いつも朝倉さんは、僕に見た夢を聞いてきます。
きっと僕が、前にずっと毎日夢の話をしてたからでしょう。
「ふわふわな、お花や鳥たちとお話をしてました」
「ほぉー。新しい布団が良かったのかな?」
「……あ! そっか! そうでしたね!」
すっかり忘れていました。
昨日、朝倉さん達が作ったお布団や枕――僕は寝るためセットと呼んでます――に変えたんでした。
すごく気持ちよく寝られたのも、楽しい夢を見られたのも、お布団のおかげでしょう。
「とっても、もふもふな、『もふとん』でした……!」
「そうかそうか。作って良かったよ」
にこにこ笑顔な朝倉さん。
このお顔をしてくれると、とってもあったかくなります。
「さて、まだ時間に余裕はありそうかな?」
「んーと、今は、何時でしょう」
「6時10分だね。誰かさんと違って、アルトは早起きだ」
「そういう朝倉さんもですよ。いつも早くに料理作ってくださって、うれしいです」
時間があるから、ゆっくりご飯を食べるんです。
朝倉さんと一緒にお話しできるのも楽しみの1つです。
あ、そっか。食い意地だけじゃない。
朝倉さんと話したいからすぐ食堂に来るんですね。
今、わかりました。
「時にアルト。朝比奈 星夜としての生活はどうだい?」
「はい! 学校のみんな、いい人ばっかりで楽しいです!」
「友達沢山かい?」
「はいっ! ルディミハイムさん、ヨノウエさん、ユメソラさんふたりに、アマノさんとあとは……」
「――ふむ。確かに、彼らが居れば愉快で楽しかろう」
「えへへ。ですです!」
学校はとっても楽しいです。
先生達が僕の知らないことをたっくさん教えてくれます。
付いていくのが大変なこともありますが、分からないことはお友達に聞けば大体解決します。みんなすごいです!
でも、みんな朝倉さんには適いません。
朝倉さんはいっちばん物知りで、ふと気になったことを聞いたらほとんど答えが返ってくるんです。
その汚れた白衣姿も、色々な研究をしているから汚れているらしいです。
研究が何なのかは、聞いてもよく分からないんですけどね……難しくて……。
「おっと、手が止まっているよ。冷める前に早くお食べ」
「あ、はーい!!」
もふもふわとろオムライス、とっても美味しいです!
今日はどんな一日になるんでしょうか?
期待を胸に、僕はもふも……もぐもぐを続けるのです。