山龍討伐二日目(3):蛇足
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山龍の大量消滅が確認されました
原因の特定……完了
1.チシロ・ミトによる破壊術式により甚大な魔力が消費
2.チシロ・ミトの破壊術式により、結界が破壊。魔力の流れが正常化
3.何者かにより魔力循環が『治癒』された痕跡あり
貢献度はそれぞれ同等と判断し、貢献者不明分を除いた三分の二をチシロ・ミトの実績とします
◇
チシロ・ミトにより15体以上の山龍が討伐されたことが確認されました
『黄金』は、討伐条件を満たしました
結界の消滅が確認されました
『赤き農民』による、チシロ・ミトの解放が達成されました
以上、魔術契約は完了となります
詳細資料は後日、ギルド『黄金』『赤き農民』の本拠地に送付されます
◇
私は今、車の中の運転室で、戦いの準備をしながら山をじっと見つめています。
巨大な山、広大な森。
私の仲間と、私の命の恩人が、今のこの山のどこかに捕らえられている。
本当は今すぐにでも救出に向かいたいのですが……今朝になってギルドから「山への進入を禁止する」という通達が届きました。
おそらく、赤き農民が何か企んだのでしょう。
後手に回ってしまっている現状を、どうにか変えないといけない。
それはわかっているのですが……
「スゥ……」
ため息をつこうと、身体が息を吸い込んだ瞬間に扉が開く音が背後で鳴りました。
「ひぅっ!」
驚いて変な音が喉から鳴ったのを誤魔化しながら、首だけを回して音のした方へ視線を向ける。
すると、扉の先にラビさんがいました。
走ってきたのでしょう、肩を上下させたまま、部屋の中に入ってきます。
「アウラ……さん、テンキさんが、山から……戻ってきました……!」
「そ、そうですか……わかりました。ラビさん、すいませんがみんなを呼んでくれますか?」
どうやら動くときが来たようですね。
私も戦闘準備の仕上げをしてから、部屋を出て車の中の広間へ向かいます。
運転室から出ると、すでにガストフ、テンキさん、ラビさんの三人はすでに椅子に座っていました。
ガストフは、そわそわと落ち着かない様子。
テンキさんは気のせいか、衣服がすこし薄汚れているような気がします。
ラビさんは、走ってみんなを呼び集めてくれたのでしょう。うっすらと汗を掻いて、肩を上下させています。
全員が揃ったところで、早速テンキさんが頭を下げました。
「アウラさん、済まない! まずは独断行動したことを謝罪したい!」
独断行動というのは、私たちに連絡なく山に入ったことを言っているのでしょう。
よかれと思ってしたことが、どんな悪影響を及ぼすかはわかりません。
なので基本的に勝手な行動は許されないのですが……
テンキさんはAランクの冒険者。そんなことは知った上での行動なのでしょう。
「不問にします。それよりも、報告をお願いします」
「ありがとうございます。まず、俺が山に入ったのは、山への進入が禁止される直前だ。だから違法なことはしていない。そこだけは安心してくれていい」
テンキさんはおそらく、このような状況になるのを予測して、山の近くで待機していてくれたのでしょう。
ギルドの判断を、発表の直前に手に入れて、独自判断で山に入ったということでしょうか。
事前に伝えてくれたらなお良かったのですが、いずれにせよベテランらしい判断です。
「俺はチシロの痕跡を探しながら、山龍の調査も行っていたんだが……みんな、これを見て欲しい」
そう言ってテンキさんはステータスカードをテーブルの上に置き、録画の再生を起動します。
初めに写されたのは、一匹の小型の山龍と、それを囲む大勢の人の姿でした。
何かの本で読んだのですが、魔獣を相手にするときは、このように大勢で取り囲むのが定石らしいです。
映像の視点は、全体を見下ろすような位置です。
おそらくテンキさんが、樹上から撮影しているのでしょう。
「やはり山龍は……」
いたのですね。と口にする前に、状況が急変します。
大型獣用の武器を持った冒険者が一人、山龍に向かって突撃し……返り討ちに遭いました。
巨大な刃は無防備な山龍の皮膚に傷一つつけることすら出来ません。
勢いよく振り回された長い尾が冒険者を吹き飛ばし、冒険者は木をなぎ倒しながら吹き飛ばされて、岩に直撃して意識を失います。
とっさに周りの冒険者が助けに入るのですが、ことごとく返り討ちに遭い、現場は死屍累々といった有様に。
そしてそこで映像は終わりました。
テンキさんは、ステータスカードを拾い、胸元にしまいます。
「俺が見た感じ、戦っているこいつらのレベルが低いわけじゃなかった。むしろ異常なのはこの山龍だ」
映像を見ただけではわかりませんが、一流冒険者のテンキさんが言うからには、そうなのでしょう。
そしてもしかしたら、山への進入が禁止となったのは、これが原因なのかもしれません。
危険な魔物が現れたとき、一般冒険者の立ち入りが制限されるのはよくある事例です。
だとすれば、ギルドによる調査が進めば別のクエストが発行されて、そうなれば山に入ることも可能になるのですが……
あのような危険な山の中に、チシロさんとマテラちゃんが捕らわれている。
危機的な状況だというのに、何も出来ない。
睨み付けるように山を眺めていると……おや?
たしかに今、違和感を感じたような。
仲間達に目を向けると、どうやらラビさんも何かに気がついた様子です。
青ざめた表情の彼女に生えた複数の耳が、ピクピクと反応して何かを探っているようです。
「ラビさん?」
「そんな……結界が、消え……消滅しました」
結界が……?
ラビさんに言われて、慌てて車の外に出ると、山の様子が大きく変わっているようでした。
改めて山に魔力探知を発動すると、さっきまで曖昧としていた山の様子が、明瞭になっています。
確かに、山の結界が綺麗に消滅しているようです。
ですが赤き農民が結界を解除する理由が、思いつきません。
もしかしたら、私たちの知らないところで何かが大きく動いているのかもしれません……
「嫌な予感がします、やはり山に入るべきです!」
「だが、アウラさん。それは禁止されているんじゃないのか!?」
私の言葉を聞いたテンキさんが、即座に反論します。
そして直後に、ガストフが口元に手を当てながら自信なさげに
「それは、大丈夫なはずだ。禁止されているのは結界への侵入で、結界が消滅した以上、どこに入っても違法ではない……よな?」
「はい……ガストフさんのおっしゃるとおり……です。ギルドによる禁止令自体も……どうやら解除されている、ようです」
ラビさんに言われて確認すると、確かに山への侵入禁止令は、いつの間にか解除されていました。
「それでは、私は山に入ることにします。てんきさんは……大丈夫、ですか?」
「ああ、アウラさんは強いな。だが俺も、さっきは逃げたが次は大丈夫。戦える」
「では、私とテンキさんで山に入りましょう。私は例の姉妹を相手するので、テンキさんは山龍の討伐とチシロさんの救出を。ラビさんとガストフは念のため、ここで待機してください」
そう言って私たちは、チシロさんとマテラちゃんの救出、そしてクエストの勝利のために、山へと向かうのでした。




