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山龍討伐二日目(1):山龍狩り

 朝起きて、ベッドの上でボーッと天井を眺めていたら、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 扉を開けようと起き上がると同時に、マテラがフードの中から顔を出す。

「チシロさま、私が開けますね」

 彼女がそう言うと、鍵が勝手に動き、扉が音もなく横にスライドする。

 自分も慌てて服のしわを伸ばしながら扉へ向かうと、白黒姉妹がそこに立っていた。


「おはようございます〜、チシロさ〜ん」

「チシロ……もう食堂……開い…………んだぞ☆ 一緒に……食……ん…………ぞ☆」

「ということで〜、チシロさん。一緒に食事をいただきませんか〜?」


 シロヒメさんはいつも通りな感じだけど、クロヒメさんはなんか眠そうというか、昨日の覇気がない。

 目がショボショボしているし、話し方も語尾以外はなんかゴニョゴニョしてる。

 自分が「良いですね」と答えると、姉妹に食堂まで案内された。


 食堂に着くと、まだ日が出たばかりの時間にも関わらず、すでにほぼ満席の状態だった。

 昨日からの徹夜組と、早朝から作業組が、情報交換しながら軽食を取っているようだ。


 自分たちも、列に並んでパンのようなものと、コーヒーのような飲み物を受け取って、たまたま空いていた席に、横に並んで腰掛ける。

 味は、お世辞にも美味しいとはいえなかった。

 パンは堅くて噛みちぎるだけで大変だし、飲み物からは苦みというか、渋みというか……

 健康には良さそうだけど、逆に言えばそう感じてしまうぐらいには、不味い。


「うげ……」

 横を見ると、自分の隣に座っているシロヒメさんと、その奥に座っているクロヒメさんも、嫌そうな目でパンを見つめていた。

 ということは、自分の舌に合わないとかじゃなくて、単純に不味いのだろう。

 マテラとライアに頼めば、フードの中から適当に食材を用意してくれそうな気もするけど……

 周りを見ると赤き農民の人達や、赤い羅針盤の人達も同じものを食べているみたいだから、自分たちだけ贅沢をするわけにはいかないかな。


 と、そんな感じで朝食をとり、食後の時間を過ごしていると、シロヒメさんのステータスカードに連絡が入った。

 彼女は内容を確認したカードをクロヒメさんに渡すと、いつも通りののんびりとした顔を自分に向ける。

「チシロさん〜、探索隊の人達が山龍を発見したようです〜」

「と、いうことで、私たちは討伐に向かうんだぞ☆ 早速出発するんだぞ☆」

「チシロさんには〜、道案内を〜、お願いします〜」

 そう言ってシロヒメさんは、自分に一枚の地図を渡してくれた。


 地図を広げると、そこにはこの山の様子を立体的に表示されていた。

 しかも、現在地の表示やズームイン、ズームアウトも簡単にできる優れものだった。

 そして地図上には、自分たちの位置を示すマーカーの他に、赤い点がいくつも表示されている。


「山龍のいる場所が〜、地図上に表示されているらしいです〜」

「探索ギルドのみんなに感謝☆ なんだぞ☆」


 ちなみに、こうしている間にも赤い点はポツポツと増えているし、一つ一つの点はリアルタイムで動いている。

 今も探索ギルドを中心とした山龍の観測が行われていて、その位置が更新されているのだろう。

「チシロさま、その地図を私たちに!」

「うむ、我らが案内するから、チシロは移動と、白黒への指示を頼む」

「……わかった。それじゃあこれは二人に任せるよ」

 二人は地図をフードの中に持ち込んで、自分たちは山龍退治に出発することにした。

 とはいえ、討伐するのは姉妹の仕事で、道案内は基本的に妖精達の仕事。

 自分はついて行くだけというか、荷物運びみたいな役割なわけだけど……


 ◇


「チシロさま、そのまま前方に進めば、山龍の反応があります!」


 二人にそう言われるまでもなく、自分たちの前には地上を浮遊する山龍の姿が見えていた。

 その姿は、前世の創作物などに書かれる『龍』と似ていて、妖精形態(いまのすがた)になる前のライアとも似ていた。

 ただし、ライアのような強い意志は感じないし、完全に実体化しているのか、自分以外にも普通に見えるらしい。

 見た目が似ているだけの別物と考えた方が良いのだろう。


 見た目は凶暴な山龍に、シロヒメさんが気楽な様子で近づいていく。

「あれぐらいの大きさのなら〜、大したことはありません〜」

「チシロはおとなしく見ているんだぞ☆」


 山龍の方もシロヒメさんに気がついたようで、口を開いて牙を見せつけながら威嚇している。

 それでも近づいてくるシロヒメさんに、山龍はしびれを切らしたのか勢いよく襲いかかる。

 細長い身体をバネのように縮めて、瞬時に延ばす。

 見えない足場を蹴ったかのように加速する山龍は、放たれた矢のようにシロヒメさんに飛びかかり……

 シロヒメさんはそれを片手で軽く受け止めた。


 ズッ……という、鈍い音が聞こえ、山龍の方は気のせいか、驚いた表情をしているように見える。

 そのままシロヒメさんが逆の手で軽く手刀を振ると、山龍は綺麗な断面を見せて地面に落ちた。

 山龍の死体は大地に溶けるように消え、残ったのは二つの土山と、ビー玉のような綺麗な宝石が一つだけだった。 


 ちなみに、山龍はもともと山の土などが魔力で変化した存在なので、死ぬとそのほとんどは土に戻るらしい。

 それでも、強く魔力が宿っていた部分などがこうして素材として回収できるのだとか。

「やりました〜! チシロさん、龍玉が出てきたので〜、預かっといてください〜」

 そう、そしてちなみに、討伐で出た山龍の素材を運ぶのが、自分の今回の役割だ。

 自分には便利なフードがある。というのもあるし、それぐらいしか出来ることがないという理由もある。

 双子姉妹(ふたり)は「素材なんて、チシロに全部あげるんだぞ☆」とか「私たちは困ってませんので〜」と言っていたが、それは申し訳ないから等分で山分けすることにした。

 それでも、何もしていない自分の取り分が、多すぎる気はするけど……


「チシロさま、ここから近い位置に山龍が5体ほど密集している場所があります」

「うむ。さっきのそれより、一つ一つの反応が大きいようであるが……まあ大丈夫であろう」

「そうだぞ☆ 今度は私の番なんだぞ☆」

 そう言って、クロヒメさんは山龍の群れに飛び込んで行く。

 その様子は、某ゲームの無双シーンのようで、彼女の様子からは余裕さえ感じられる……

 確かに、この調子で双子に任せておけば、大丈夫かな。

 まあ念のため、自分は回復魔法をいつでも使えるように準備だけはしておこう。

 むしろそれぐらいしかやれることがない……


 ◇


「…………」

 私とライアは、フードの中に次々と送られてくる山龍の素材をみて言葉を失っていました。

 山龍の討伐に出発した頃は、私たちも討伐の手伝いをしようと思っていました。

 ですが白黒姉妹が何体か討伐する様子を見ていると、それも馬鹿らしくなってきます。

 私たちが「戦闘はあの二人に任せておこう」という結論に至るまで、時間は必要ありませんでした。

 というか、あの二人、やばすぎませんか?

 山龍と手合わせしたことはないので、正確な強さはわかりません。

 ですが、あれらが異常でないとすれば、この世界の基準は狂っています。


 彼女が手を振れば、空を覆うほどの巨大な龍が、雲と共に二つに裂ける。

 大地を覆うほどに湧き出した無数の群れに飛び込んで、数秒足らずで片付ける。

 討伐された龍の素材は、チシロさまを通してフードの中(このくうかん)へと送られてきます。


 私たちは山龍の場所まで案内しながら、素材の整理もしなくてはならず、今まではまったく追いついていなかったのですが……

「うむ! ついに出来たぞ、自動分配魔術が!」

「やっとですか! ライア、早速起動してください!」

「もちろんだ!」

 そう言ってライアが魔術に魔力を流し込むと、放置されていた山龍の素材がふわふわと浮き上がり、種類ごとに分配されて倉庫へ向かっていきます。

 移動速度はゆっくりですが、すべての素材が一斉に動き出すので、一つ一つ分配するよりも効率的です。

 それに、次々投入される素材達も、ちゃんと倉庫へ向かうみたいです。


 しばらく様子を確認して、問題なさそうだと判断した私たちは、ようやく一息つくことが出来ました。

「ふうぅ……大丈夫、みたいですね」

「うむ。さて、外の様子は……? あれは、大丈夫なのか?」

「あれ? 何のことでしょう……」

 ライアが何か気になったようなので、私もフードから顔を出して外をのぞきます。

 その先では、チシロさまがスライムと格闘していました。

 どうやら、白黒姉妹が山龍の素材を回収している間に、たまたま近くにいたスライムを討伐することにしたようですが……

 案の定というか、チシロさまの振るうナイフはスライムの身体を素通りしています。


「マテラよ、チシロの攻撃(あれ)は一体どういう仕組みなのだ?」

「ああ、それはですね……説明するよりも見せた方が早いですね」

 そういえば、ライアはまだチシロさまのステータスを見たことがないはずです。

 せっかくなので、ステータスカードを操作してチシロさまのステータスを表示することにしました。


<<チシロ・ミト>>

 想力:103

 やさしさ:35

 想法力:13

 魔法力:4

 魔力耐性:3

 治癒力:3


「これが、チシロさまのステータスになる……のですが、しばらく見ないうちに成長してます」

 魔法力や魔力耐性が上がっているのは、昨日ここで、魔術をいくつか試したから……でしょうか。

 それでも『魔力』の項目が見当たらないのは、『魔水』の魔力を使っただけで、チシロさまの魔力は鍛えられなかったから、なのでしょう。

「うむ……なるほど? 想力という項目と比べ、他の数値は軒並み低いようだが?」

「はい。おそらくチシロさまの性格もあるのでしょうね。なにせ、他のステータスを無視してでも『やさしさ』というステータスを取得するぐらいなのですから」

 私は、チシロさまがステータスを選択する場にいたわけではないので、そのときチシロさまが何を考えていたのかは知りません。

 ですがおそらくチシロさまは「戦うよりも、誰かを支えたい」という、崇高なお気持ちでこのステータスに決めたのでしょう。

 お仕えする身として、光栄に思います。


「なるほど、チシロの攻撃が通らぬのは、攻撃力に対してやさしさ力が勝っているからなのだな?」

「はい。ですが、今の様子からもわかるように、チシロさまはこの状況に満足はしていない様子です」

「確かに、ここまで極端だと、チシロが周りの足を引っ張ることになりかねぬ……」

 ライアも私と同じ考えのようで、私と同じように悩ましい表情をしています。

 なにせ、攻撃魔術を試してもらったら、回復魔術が発動するほどの異常事態なのですから。

 スライム程度の魔物であれば、チシロさまの代わりに私やライアが相手すれば問題ないのですが……

 そうなるとより一層、チシロさまは心苦しい思いをすることでしょう。

「やはり、チシロさま用の攻撃手段を用意するのが良いでしょうね」

「うむ。もちろん我も協力しよう……だがひとまず、外のあれはどうする?」

 外のあれ……そうでした。チシロさまはまさに今、スライムを相手に戦闘を続けているところなのでした。

 とはいっても、スライムからは敵として認識されていないのか、チシロさまが一方的に攻撃をしているのですが。

「今はまだ、その手段がありません。あれは私たちで倒してしまいましょう」

「うむ。では、あれは我に任せておけ。我が魔術を使えば、あの程度なら……」


 ◇


 ナイフが通り抜けた直後に、少しタイムラグがあってスライムがはじけ飛んだ。

 自分の攻撃が蓄積して……なら良かったのだが、感触からして違う。

 おそらく、フードの中のマテラかライアが自分の代わりに攻撃してくれたのだろう。


「チシロさま、対応が遅れて申し訳ありません」

「いや、自分が勝手にやってただけだから、大丈夫だけど……今のはマテラが?」

「いえ、さっきの魔術はライアですね。私でも同じことは出来ますが……」

「そっか、ありがとうって伝えておいて」


 本当に自分は、二人の妖精に助けられっぱなしだ。

 自分でも何とかしようと思ってスライムに挑んでみたけど、ライアの力を借りないと何も出来なかった。

 もしかしたら自分は、戦う以外で貢献できる方法を探した方が良いのかもしれない……


「チシロさま、ご安心を。私たちでチシロさまの『秘密兵器』を用意しています……ところでチシロさま、白黒姉妹はどこに?」

「あの子達なら、もうすぐ戻ってくると思うけど……あ、ほら」

 シロヒメさんとクロヒメさんは、少し離れた場所の山龍を討伐に向かっていた。

 自分には一般人の身体能力しかないから、二人は自分のいる場所を中心に、近くの山龍を倒して回っていたのだけど、ちょうど良いタイミングで戻ってきたようだ。

 それぞれ両腕に、牙やら爪やら鱗やらを抱えるようにして、小走りしながら近づいてくる。

「おーい! 戻ったんだぞ☆」

「このあたりの山龍は〜、だいたい片付きました〜。別の場所に移動しますか〜?」

 ちなみに、二人の肩の上にはそれぞれライアの姿がある。

 シロヒメさんとクロヒメさんが道に迷わないようにということで、ライアが生み出した分身体……らしい。


 自分のフードの中にもライアはいるのだけど、そのライアは今、元々の半分程度の能力になっているらしい。

 そして、シロヒメさんとクロヒメさん、それぞれの上にいるのは四分の一程度の能力に。

 すべてのライアは自立行動が出来る、と同時に、情報の共有も出来ているらしい。

 ライアが言うには「やってみたら出来た」とのこと。細かい仕組みはライアにもよくわかっていないのだとか。

 シロヒメさんもクロヒメさんも、目の前で分裂するライアの様子を見て初めは驚いたけど、すぐに「妖精なら、分裂しても不思議じゃないんだぞ☆」ということになった。

 もうなんか、だいたいのことは「妖精だから」と言えば押し切れるような気がしてきた……

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