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山龍討伐一日目(1):ライア覚醒

 その後いろいろと検証して、とりあえず想力について調べてわかったのは


・同じ[解放]でも、状況によって何が起こるかが違う

・少なくとも数値上は、想力で手を加えることで強化することができる


 ということだった。

 ちなみに、このナイフの切れ味は元が12だったのが17となったが、名工が打った本物の刀だと普通に千とか万とかになるらしい。

 それと比べたら、まあ「+5」ぐらいなら誤差かという気もするけど。


 それならいつか、本物の刀とかを強化してみたいな……などと考えていると、車が緩やかに速度を落とし、制止してから地上に降りた。

 どうやらいつの間にか、目的地に到着していたらしい。

 扉を開けて外に出ると、そこは「まさしく田舎」という感じの田園風景が広がっていた。

 木造建築の宿舎みたいな建物がぽつんと一つ。それ以外には何もない。

 馬車の向こうには、地平線の先まで畑が広がっていて、建物の向こうには高い山が。

 見上げると、頂上が雲に隠れて見えないほどだった。


 全員が馬車から降りて出そろうと、建物の中から一人の男が自分たちの方へ向かって歩いてきた。

 男は、おやっさんの前で立ち止まり、帽子を取って頭を下げる。


「ようこそ『赤き農民』へ。私はサブマスターのディーノです。今日はよろしくお願いします」

 おやっさんは面食らった顔をして、一歩後ろに下がり、その隙にアウラが割り込んだ。

「初めまして! 私が(・・)、『黄金』のギルドマスター、アウラ・ヴァシランドです。こちらはギルドメンバーのガストフ、同じくギルドメンバーのチシロと、助っ人で協力していただくテンキ、ラビです」

「し……失礼しました! アウラさん、今日はよろしくお願いします。それでは、詳しい話は中で伺いましょう」

 どうやらこのディーノさんは、アウラではなくおやっさんがギルマスだと勘違いしたらしい。

 まあ確かに、一番貫禄がありそうなのは彼だから、間違えても仕方がないとは思う。

 アウラとおやっさんは社交辞令的な挨拶をすませ、ディーノさんに案内されて建物の中に入っていった。

 ちなみに……移動している最中に聞いたのだけど、討伐クエストは


 調査

 ↓

 対処

 ↓

 完了(報告)


 の手順で進められるらしい。

 基本的に、調査だけで短くても1週間ほど。

 長ければ数か月ほどの期間をかけて行われる。

 そしてその後やはり数ヶ月かけて討伐が行われて、一つのクエストに半年かかることもあるのだとか。

 ゲームだったら


 敵!

 ↓

 戦闘!

 ↓

 クリア!


 みたいにわかりやすいんだけど、実際のところはそんな単純ではないらしい。


 ということで、馬車の中で話し合った結果、交渉ごとはアウラとおやっさんが二人で行い、自分とテンキ、ラビさんの三人は各自で調査を進めることになった。

 とは言っても、初日は具体的な仕事内容も聞いていない状態なので、できることといえば、雰囲気をつかむぐらいで、実際のところは自由時間に等しい。


 テンキは、こういうクエストにも慣れているのか、アウラが出した方針に納得した様子だった。

「それなら、俺はラビちゃんと一緒に飛行魔法で散策するから、チシロはマテラちゃんと一緒に……まあ、適当に調べてくれ」

 これは、要するに空を飛ぶこともできない自分は、戦力外ということなのだろう。

「それなら自分は、山の中を少し歩いてみようと思います」

「わかった。だけど気をつけろよ? 山道から外れなければ大丈夫だと思うが、魔物が出るかもしれないからな」

「そうです……危ないと思ったら、すぐに助けを、呼んでください。私とテンキが、飛んで向かいますから」

 ラビさんが言う「飛んで向かう」というのは、比喩ではなく本当に空を飛んでくるのだろう。

 とにかく、自分はあまり二人に迷惑をかけないように、山を歩くと言ってもあまり奥深くまでは行かないように……


 ◇


 やばい。


 どうやら自分は、道に迷ったようだ。

 あたりを見渡しても木、木、木、木、木。

 多様性もクソもない、一種類の(まったく同じ)木が続いているせいで方向感覚が狂い、自分が今進んでいるのか戻っているのかもわからない状態になってしまった。

「マテラ、帰り道はどっち?」

「チシロさま……申し訳ありません。ステータスカードの調子も悪いようで……」


 まさか異世界でも、山に入ると圏外になる。なんて、想像しないじゃん。

 まあ実態は、電波が届かない……というよりも、魔力濃度が異常な状態なのが原因らしいけど。


 ◇


 自分たちが森に入って一番に感じたのは、薄暗さだった。

 背の高い木が生い茂っているせいで、太陽の光がほとんど届かず、昼間のはずなのに夕方のように薄暗い。

 獣や魔獣がいないどころか、鳥の鳴き声も、風の音すら聞こえない。

 不気味な静けさだけが漂っていた。


 森の奥ばかりに気を取られていたからだろうか。

 それとも、どこかに油断があったのかもしれない。

 気づいたらあっという間に。本当にあっという間に、帰り道を見失っていた。

 森に入って5分も経っていないと思うのだけど……

 いや、いくら何でもこれはおかしい。


 途方に暮れていると、マテラが何かに気づいたように、フードの中から小石を一つとりだした。

「チシロさま……試しにこの石を、手前に向かって投げてみてください」

「投げる? こうかな」

 マテラに言われたとおりに小石を振りかぶって投げると、数メートル進んだあたりでカーブを描き、急加速した直後に突然停止して、そのまま地面に落ちた。

 普通に投げたつもりだったのだけど……?


「チシロさま、やはり、この森は少しおかしいです!」

「少しおかしいのは、そうなんだろうけど、でもこれはどういうこと?」

「魔力の流れに違和感があります。まるで、人為的に……それこそ、侵入者を逃すまいとする結界のような」


 どうやら、ステータスカードの連絡機能が動かないのも、この結界が原因らしい。

 そしてこれが人為的な現象なのだとしたら、ただ迷わせるだけで終わるはずもない。


「チシロさま……複数の魔力反応が」

「うん、自分もなにか感じる……包囲されつつあるみたいだね」


 不思議な感覚だった。

 自分でもうまく説明できないのだけど、『嫌な感覚』に取り囲まれつつあるのがわかる。

 最も近い感覚は、嗅覚だろうか。

 嫌らしい感情が、空中を漂って自分の元へと届くような。

 直感的に、これが『想い』なのだと、理解できた。

 たぶん自分の限界突破した『想力』が、周りの人の考えていることを匂いとして感知しているのだろう。

 そしてその匂いが「この人達は親切で近づいているのではない」と告げている。


「……マテラ、逃げよう」

「そうですね、捕まると面倒なことになりそうです」


 闇雲に逃げるのは悪手なのかもしれないけれど、結界にとらわれた時点でどうせ帰り道はわからないのだ。

 だとしたら、敵に捕まるぐらいなら今は逃げて、タイミングを見て山から脱出した方が良いはずだ。


 ◇


 チシロさん、テンキさん、ラビさんと別れた私は、ガストフを連れて『赤き農民』の拠点に乗り込みます。

 私たちが交渉をしている間、三人には自由に散策してもらうことにしました。


 この人選にはいくつか理由があります。

 まず第一に、そもそも大勢で交渉に挑むメリットがないこと。

 基本的に話すのは一人か二人なので、後ろに並んでいる人はただ暇になります。

 それなら、その時間に調べごとをしてもらった方が有意義だといえます。


 チシロさんは、この世界に来たばかりということなので、交渉ごとに参加するのはまだ難しいでしょう。

 今回は結果だけを伝えて、これから徐々に覚えてもらえば良いですね。

 ラビさんとテンキさんは、結局のところ『黄金』からしたら部外者なので、交渉ごとを任せるわけにはいきません。

 それに、私としてはこの男(ガストフ)を見極める必要もあります。

 ということで、基本的な会話はガストフに任せていたのですが……少しきな臭いことになってきました。


「なるほどな、つまり山龍が山から下りてくる原因は、わからないってことか……?」

「ええ、はい。そうなのです。ですので、今すぐ山に入って調査をしていただきたいのです……」

「それより前に、せめて山龍の被害があった場所を見せてもらえるか?」

「はあ……それは、どうしても……ですか?」

「いや、そりゃできればだが……痕跡を見れば『どの程度の山龍なのか』がわかるし、そすれば対策も練れるだろ」

「はぁ、そんなものですか。ああいえ、ですが……」


 先ほどからディーノは、挙動不審というか、何かを隠しているような怪しい雰囲気があります。

 これは……もしかしたら予想通り(・・・・)かもしれませんね。

 私の方から、少し追撃してみることにしましょう


「ディーノさん、山龍とは、危険な生き物です。討伐するとなれば、しっかりと対策を練る必要がありますので、被害のあった場所に案内してください……ああ、もしかして、山龍を観測しただけで、まだ被害は出ていない……とかですか?」

「あ、ああ! そうだ、そんなところだ。実はうちの若い者が山龍を発見して……だから皆様には、山に入って調査を……」

「ですが、依頼内容には『山龍が畑を荒らして……』と書いてありますよ。もしかして虚偽報告を」


 私の言葉にディーノが顔を引きつらせます。

 あと少しで尻尾をつかめそう……というタイミングで、コンコンコンコンと、扉を叩く音が。

 返事も待たずに扉を開けた青年は、ディーノに向かって勢いよく手招きをしていました。


「ええと……すいません。急ぎの用があるようなので、少し席を外します」

 ディーノは慌てて部屋を飛び出しました。

 客を残して退席するなど、マナーの観点から見ても最悪ですが……まあ、それは田舎の辺境ギルドということで許すことにしましょう。


 部屋に残された私とガストフは、突然のことに驚きながらも、冷静さを保ちながら顔を合わせます。

「ガストフ……どう思いましたか?」

「何かを隠している感じだな……俺たちを山に入れたいようだが」

「山に、仕掛けや罠があるのでしょうね。慎重に調査をする必要がありそうです」

「それか、虚偽報告の件で賠償金(ばいしょうきん)だけかっさらうという手も……」


 なんとなく、方針が見えてきました。

 どちらかというと、私が「難題をむしろ突破してやる」という方針なのに対して、ガストフは「無理せず取れるだけ取る」という方針のようです。

 少なくとも、ギルドの利益を第一に考えたら、ガストフ案の方が良い気もしますが……

 それは、交渉を進める中で決めていくことにしましょう。


 そんなことを考えていると、勢いよく扉が開かれました。

 そこには、さっきまでが嘘のように、全身に自信をみなぎらせたディーノが仁王立ちしています。


「お待たせいたしました! いえ実は、少し良い話が入ってきまして……」

「いい話? 山龍でも現れたんですか?」

「いやいやいやいや、それのどこがいい話なんですか。そんなの最悪じゃないですか! まあそういう意味で、今回の話は皆様にとって『最悪の話』かもしれませんが?」

 回りくどい言い方に、ガストフが苛立ったように眉間にしわを寄せます。

「良いから話を続けろ、何があったって?」

「実はですね……」

 ディーノは、わざとらしく片目を閉じて、おもちゃを自慢する子供のように、もったいぶって話します。

「……我々はですね、皆様のお仲間を人質にすることに成功したのです!」


 人質……まさか?


 嫌な予感がした私は、隣にいるガストフと目を合わせる。

「ガストフ、みんなと連絡は取れますか?」

「それが、まずいことになってる。テンキさんとラビさんはだが、チシロさんと繋がらねぇ!」

 よりによって、チシロさんとマテラちゃんがターゲット……ですか。

 二人に迷惑をかけるつもりはなかったのに、これではギルドマスターとして失格かもしれません。

 ですが今は、今の私にできることに専念しましょう。

 偉そうに胸を張っているディーノを見上げるように睨み付けると、彼は慌てて虚勢を張り直しました。


「……ディーノさん、それで一体何が望みですか? 私たちに何をして欲しいのですか?」

「お、話が早くて助かるね! なに、難しいことじゃないさ。お前達には当初の依頼通り『山龍討伐』をして欲しい。二週間以内に、三匹分の素材を集めてこい……なに、安心しろ。あの山の奥深くには山龍の巣があるって噂だ。巣をちょっとつつくことができれば、山龍の三匹ぐらいなら、すぐに出てくるはずさ!」

「噂……ということはつまり、山龍の被害を受けているというのも?」

「もちろん、真っ赤な嘘さ! 山龍が田畑を荒らすわけないだろ、都会者はそんなことも知らないのか?」


 都会というか、私たちのギルドがある場所もかなりの田舎ですけどね。

 辺境で農業をしている彼らは、そのことにコンプレックスがあるのかもしれません。

 とはいえこれは……見事に罠に、嵌められてしまったようですね。

 やはりせめてチシロさんとマテラちゃんは、私たちと一緒に行動すべきだったのかもしれません。


「おいアウラ、どうすんだ? このままだとチシロさんの身が、あぶねえぞ?」

「そうですね……仕方がありません。その要求を、飲みましょう。その代わり、チシロさんとマテラちゃんの安全を約束……いえ、魔術契約で保証してください!」


 魔術契約とは、名の通り魔術を用いた契約です。

 契約を破ると重大なペナルティーがあり、今この世界で、一番厳正な契約方法と言われています。

 私がそれを提案すると、ディーノは少し戸惑ったように視線を左右させました。

「お……おいおい、立場が分かっていねぇようだな!(そもそもマテラって誰だ?)まあ、いいだろう。その代わりに、討伐する山龍は3体じゃなくて15体だ! 人質がいるんだ、嫌とは言わせないぜ!?」

「……わかりました、その契約、乗りましょう」


 ◇


「どうしよう……マテラ、本格的にどうしようもないんだけど」

 追っ手の気配は完全に消えたようだけど、帰り道がわからないのではどうしようもない。

 というか、姿の見えない追ってから逃げているうちに、森の奥へ奥へとより深く迷い込んでいる気がする。

 まあ、もともと迷子だったんだから、関係ないんだけど。


 どうにかしてみんなに連絡を入れたいけど、相変わらず通話は繋がらない。

 固定文のメッセージを送っても届いているのかどうかわからない。

 魔物などの「魔力」の気配はマテラが察知できるし、自分には悪いことを考えている人の『想い』が感じられるので、身に危険が迫っているわけではない。

 しかしやはり、このままずっとこのままというわけには行かないだろう。


「チシロさま、おそらくですが……私たちが最初に道に迷ったのは『対人低級結界』が原因のようです」

「対人? 低級?」

「はい。そしてその結界は、追っ手を振り払ったときに消えています」

「ということは、今は結界の外にいるの?」

 だとしたらなぜ、ステータスカードは未だに圏外なのだろう。

 不思議に思っていると、マテラはそれを察したのか、すぐに補足を入れてくれる。

「私たちは結界から抜けた瞬間に、別のもっと大きな結界に取り込まれてしまいました。より複雑で、より大規模で……今の私では、全体を把握することすらできないレベルの……」

 どうやら自分たちは、敵から逃げる過程で、より大きな罠にかかってしまったらしい。

 やはり闇雲に逃げるのは間違いだったか……と後悔しても、何も変わらない。


 あたりを見渡すと、山の入り口とは違って、多種多様な木々が生えている。

 けれど、それでも周りに木しかないということは何も変わらない。

 上下左右を見ると木と葉しか目に映らない。

 なんだったら下を見ても、落ち葉が敷き詰められている。

 背の高い木が多いせいか、薬草のような草が生えていないのも、少し残念なところだ。


 テンキやラビのように空を飛べたら……と思うけど、できないことを言っても仕方がない。

 それでもとにかく、何もしないわけにはいかないのだけれど、結界のせいなのか山の中だというのに地面が水平で、どちらに進めば外に向かうのかすらわからない。


 途方に暮れて、立ち尽くす。

 小さくため息をついて、気合いを入れ直そうとしたその瞬間に、自分の後ろから突き刺すような視線を感じた。

「マテラ、何か近づいてくる!」

「チシロさま? 私は、何も感じないのですが……」

「すごい強い『想い』だ。でも、嫌な感じはしない……」

 今まで遭遇しかけた魔物からは、想いをほとんど感じなかった。

 だからこれは、魔物ではないのだろう。

 だけど明らかに、人間とは違う。

 きっと人間に、ここまで澄んだ、綺麗な想いを出すことはできないだろうから。


 近づいてくるその『想い』は、うねうねと蛇行しながらこちらに近づいてくる。

 速度を考えると……どうやら逃げ切ることは難しそうだ。

「それならば……せめて!」

 せめて見逃さないようにと、視線をそらさずにじっと身構える。

 それは、木々の合間を縫って風のように現れた。


 それは、一柱の『龍』だった。


 全長は約2メートルほど。

 曇りガラスのように半透明な細長い身体が、地面から百センチぐらいのところに漂っている。


 大きいことに変わりはないのだが、「巨大」というには少し物足りない。

 だけど、単純な大きさの問題ではない。

 強烈なプレッシャー……存在感。

 敵対心は感じられないが、圧倒的上位から見下ろされている感覚。


 そして、それだけ異質な存在でありながら、目を離せば見失ってしまいそうなほどに自然と調和していた。


<<迷いしものよ、汝、この声が聞こえるか。>>

「!?」


 頭に、というか、全身に言葉が響く。

 爆発音と聞き違えるほど巨大な『声』だった。

 マテラは……?

 自分の視線とは違う先を見ている。

 この様子だと、どうやらマテラにはこの声が聞こえていし、この龍のことも見えていないみたいだ。


<<そうか……聞こえぬか。まあ、普通は聞こえぬよな>>

<<あれだけの包囲をたやすく破る者ならば「あるいは」とも思ったのだが……>>

<<おそらく其の姿も、「何かがここにある」程度にしか認識しておらぬのであろう>>

<<しかし、姿を見ることはできているようだぞ?>>

<<ならば、物珍しさで釣ることが可能ではないか?>>

<<そうだな、それが良いかもしれぬ……上手く操って、我らの目的を!>>


 呆然としていると、今度はあちこちから声が聞こえてきた。

 どうやら声の主はこの龍以外にもいて、それぞれが会話をしているようだ。

「あの……自分に何か御用ですか?」


<<語りかけてくるということは、見えていることは間違いなさそうだな>>

<<見たところ、結界に飲まれて困っているようだが?>>

<<ならば、案内するふりをして、例の場所(・・・・)に誘導すれば……>>

「いえ、そんなことしなくても、自分にできることがあるなら、お手伝いしますよ?」

<<そうかそうか……って、うむ?>>

「どうかしましたか?」

<<もしかしてお主……、我らの声が聞こえておるのか?>>

「ええ……まあ一応」


 自分が答えると、目の前の龍は困ったようにその場でうねうねととぐろを巻いた。

<<そ、そうか、聞こえていたか。ならば早く、そう言わぬか!>>

<<まあ、よいではないか。ある意味において、最も望む結果ではある>>

<<うむ。特異なる人間よ、お主に頼みたいことがあるのだ!>>

 どうやら他の声の主達と話し合った結果、騙そうとかそういうのはなかったことになったらしい。


「こちらとしては、道案内してもらえるのなら、手を貸しても良いと思ってますよ」

<<そうか、それは助かる。では案内しよう、直接見た方が早いであろう>>


 用件ぐらい伝えてくれても良いのに……とは思うが、まあ良いか。

「マテラも、それでいいよね?」

「チシロさまが決めたことには従います……が、ところでチシロさまは先ほどから、一体誰と話をしているのですか?」

「あ……そっか」


 どうやらやはり、マテラにはこの龍の言葉が聞こえていないし、姿も見えていないらしい。

 もしかして、自分が幻覚を見ているのだろうか……

 だとしたら相当にやばい状況だけど……自分自身では確認のしようもない。

 試しに、龍に向かってステータスカードを向けて、鑑定を実行してみる。


 ……ジジッ


 鑑定を実行すると、数秒間のタイムラグがあってから、鑑定結果が表示された。


<<竜王種>>


 表示されたのは、ただその一言だけだった。

 もしかして、これが山龍? と期待したのだが、どうやら全くの別種であるらしい。

 それにしても、鑑定に時間がかかるのも初めてだし、鑑定結果がここまで頼りないのも、初めてのことだ。

 ただ、何かしらが鑑定されたということは、確かにそこに何かがいるということではある。


「確かに……鑑定結果が表示されていますね。あ、見てください、チシロさま!」

「ん?」

 マテラに言われて鑑定結果を見直すと、じわじわと鑑定結果が変化する。


<<竜王種>>

 [解放(想)]


 少しずつ輪郭が明らかになったそれは、今までに何度か見た、想力の『解放』ができるボタンだった。

 だけど、本人(?)に無断で、勝手に解放するわけにもいかないだろう。


「あの、竜王さん……で、いいのかな? まあいいや。スキルを使ってあなたのことを『解放』してみたいんですけど、試してみても良いですか?」

 恐る恐る聞いてみると、宙に浮く存在は興味深そうにこちらの顔をのぞき込んでくる。

<<ふむ、解放……であるか? 人種程度の力で、我に影響を与えられるとは思えぬが……よかろう。好きに試してみるがよい!>>

 そういうことなら、遠慮せずに試してみることにしよう。

「……えいっ」

 何が起こるかわからないという不安と好奇心が3:7ぐらいの気持ちで解放のボタンを押す。


<<竜王が想いから解放されました>>


 簡素なメッセージが表示されると同時に、宙に浮く龍の身体が光り出す。

 まるで巨大な風船を膨らませるように、龍の身体そのものも、少しずつ膨らんでいく。

「チシロさま、何が起きているのですか?」

「やっぱりマテラには、何も見えてないの?」

「はい……ですが、強いエネルギーを感じます」

 光はどんどん強くなり、やがて目を開けているのも辛いほどになり……

 フラッシュを炊かれたように輝いた直後、突然、弾けるように掻き消えた。

 森に薄暗さと静けさが戻ってきたのを感じる。

「うむ、待たせたな。終わったようである!」

 脳内に響く『声』ではなく、耳の鼓膜を震わす『声』として、かわいらしい声が聞こえる。

 目の前を見ると……さっきまであった姿が消えている?


 そういえば、さっきの声は、少し低い位置から聞こえたような……

 視線を下ろすと、そこには手のひら(マテラ)サイズの女の子が、腕を組みながら自分を見上げていた。

 中性的な顔立ちなので、もしかしたら男の子なのかもしれない。

 というか、性別という概念が存在しないのかも?


 真っ白な肌に、薄く青みがかかった白髪で、金色のツノが2本生えている。

 背中にはツノと同じ金色の翼が生えているが、羽ばたくことはなく宙に浮いている。

 小さな精霊は、調子を確かめるように身体を伸ばしてから自分と、自分の肩に乗っているマテラと同じ高さまでふわりと浮き上がる。

「うむ、なかなかに面白いことになった! 大義であるぞ!」

 隣を見ると、マテラの視線はまっすぐに彼(彼女?)を見つめている。

 どうやら今の姿なら、マテラにも目視することができているらしい。

「あ、はい……自分はチシロといいます……改めて、よろしく?」

「うむ! 我が名は……ライア!」


<<ライア・ミト>>

 起源:チシロ ミト

 種族:————

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