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転生生活三日目(2):運転室にて

「お、いたいた、アウラさん……こんなところで何を?」

「宿の……ガストフさん、でしたっけ? 私は念のために、自動運転の調子を見ています」

「自動運転なのに、人が監視しないとだめなのか?」

「動かすのは久しぶりですからね。今のところ問題ないので安心してください。それより、私に何か用ですか?」

「特に用はないが……せっかくだ、黄金(くがね)について聞かせて欲しい。そもそもアウラさんは、このギルドに入って、どれぐらいになるんだ?」


 車の運転室で、駆動音を聞きながら外の様子を見ていると、ガストフさんが扉を開けて入ってきました。

 どうやら彼は、チシロさんが加入することになった『黄金』について気になるみたいですね。


「ギルドに入って……そうですね、十年ほどになりますね」

「十年? そんな昔から?」

「はい。信じられませんか?」

「だって……黄金といえば、あれだろ?」

「そうです。黄金は、五大ギルドの一角です。テンキさんが所属する『赤銅』と同格のギルドということになりますね」

「十年前ってことは……? アウラさんは、長命種族だったのか?」

「いえ、私は普通の人間です。そうですね……説明するにはどうやら、昔のことを話す必要がありそうです」


 そういって、運転室にある椅子にガストフさんを案内しました。

 私もその向かいに座って……さて、どこから話せばよいでしょうか。


「ガストフさんはご存じかもしれませんが、『五大ギルド』は襲名制です。条件を満たしたギルドが『ギルド戦』を挑み、勝利することでその名を勝ち取ることができます。黄金(このギルド)も、七、八年前に、当時の黄金からその名前をもぎ取ったのですが……」

「……お、おう」

「では、ここで問題です! 今の『黄金』となる以前、このギルドはなんという名前のギルドだったでしょう? 制限時間は十秒です!」

「……いや、知らんわ!」


 ガストフさんは、即座に「知らん」と答えましたが、それではつまらない。

 念のために心の中で十秒間数えましょう。


「はい、時間切れ。答えは……『アウラ』です」

「……『アウラ』? そりゃあんたの名前だろ、それがなんでギルド名に?」

「それがですね……自慢できる話ではないのですが。このギルドは実は、私一人のために作られたもの……だったんです」


 ◇


 私の両親は私が生まれて間もない頃に事故で亡くなったらしく、私は顔も覚えていません。

 そんな私を、両親の代わりに育ててくれたのが、私の母方の祖父(おじいちゃん)でした。


 おじいちゃんは昔、一流の冒険者だったようです。

 私が生まれた時にはすでに引退していたのですが、それでもそこらの戦士では歯が立たないぐらいに強かったんです。

 そんなおじいちゃんが私を引き取って、一番最初にしてくれたのは……

 それは『私の居場所を作る』ことでした。


 その当時はギルド間での戦争が頻発しており、どのギルドも生き残ることで精一杯でした。


 そんな状況で、すでに引退した、しかも子連れの老人を新たにメンバーに入れたがる酔狂なギルドなどあるはずもなく、結局おじいちゃんはギルドを新たに立ち上げたることにしました。

 それが『アウラ』です。


 すでに引退していた昔の仲間に声をかけ、なんとかメンバーを集めたのですが……なんと私を除くギルドメンバーの平均年齢は150歳を超えていたそうです。

 ギルド名についても、「孫と老人会」とか「孫を愛でる会」とか、冗談のような名前についても本気で検討されたのですが、結局おじいちゃん自身が「このギルドの主役はあくまで『アウラ(この子)』だから」と、押し切ったらしいです。


 そんな老人たちがノリと勢いで作ったような集団でしたが、年を取っても一流だということで、見る見るギルドは大きく成長していきました。


 おじいちゃんや、おじいちゃんの戦友達(ともだち)が、張り切って高難度のクエストをじゃんじゃんクリアしていたので、資金面でも、名声面でも爆発的な成長を見せました。

 そもそもあの人達は、体力に限界を感じたとかではなく、単に「飽きた」とか「若者に活躍の場を」とかの理由で引退した人ばかりです。

 現役に復帰して、活躍できないわけがありませんでした。


 しかも、仕事なんてしなくても余生を楽しめるだけの資金を溜め込んでいる年寄りばかりでしたので、報酬や効率なんかは一切気にしない。

 高難易度のクエストをクリアしては、私に自慢してきました。

『アウラちゃんや、ドラゴンって知っとるかね? これが、ドラゴンの鱗じゃ。きれーじゃろ?』

『アウラちゃん、見てみてこの石。この石はのぅ、ダンジョンの奥深くに隠されていた……』

『ほら、ごらん? これはね』

 そんな風に、孫に自慢するだけのために伝説級のクエストをいくつも達成していきました。

 あの頃の私は『うわぁ〜、おじ〜ちゃんたち、すご〜い』なんて無邪気に返事してましたが、今考えるととんでもないことが起きていました。


 そうしてギルドが成長してくと、当然ですが「このギルドで働きたい」という人もたくさん現れます。

 そしておじいちゃんたちは、広い心でそういう若者たちを受け入れいきました。


 その時は単純に『仲のいい友達』ができたような。

 ひどい言い方をすれば『なんでも言う事を聞いてくれる召使い』ができたような。

 まるで一国の王女(おひめ)様のような気分だったんだと思います。

 ですがそんな気分は、残念ながら長続きしませんでした。


 ある日私は、おじいちゃんの真似をして、クエストのパーティーメンバーを募ったことがあったんです。

 簡単なクエストでした。

 私は「一人か二人ぐらいは集まるといいな」なんていう、軽い気持ちで、募集掲示板に書き込みました。

 結果は……多分想像通りです。

 彼らは、結局のところ、ギルドの有力者に強いつながりのある私に、恩を売りたかったのでしょう。

 一時間ほど経って、慌てて募集を打ち切った時には、それはもう、すごい人数です。


 おかげさまで、私の初めてのクエストは『1000人で薬草集め』という、ピクニックにしても大迷惑なツアーを敢行する羽目になりました。


 その頃からですね。私がギルド離れをするようになったのは。


 すべての目が私に集中しているようで、怖かったんです。

 少しでも困ったそぶりを見せると、カラスかハイエナのように群がってくる。

 悩むことも迷うことも、考え事をすることすら許されないようで。



 そこにいる限り、私に自由は存在しなかった。



 結局私は、周りの気遣いから逃げるように、遠く離れた町のクエストを一人で受注するようになりました。

 ギルドにはほとんど戻らずに、一人でクエストをこなす生活を続けるようになりました。

 ギルドからの仕送りには手をつけず、生活費も自分で稼ぐようになりました。


 幸いなことに、おじいちゃん達から学問や戦闘技術を教わっていたので、一人で生きることに苦労はほとんどしませんでした。

 そうして一人暮らしをしているとある日、私の元に「おじいちゃんが病気で亡くなった」という手紙が届きます。


 旅に出ていた私は、おじいちゃんの死に目にも逢えず。

 便りが届いた頃にはギルド主催の葬式もすでに終わっていて、私にできることは何もありませんでした。

 部屋から出ないで一人で泣き続けましたし、今でもたまに思い出して後悔しています。


 でもそれと同時に「ギルドに顔を出す理由」も完全に消え去って、まるで枷が外されたような開放感もありました。

 そう感じてしまう私自身に、罪悪感を感じながらも。


 それからは、あっという間です。

 急速に育ったギルドというものは、枯れ果てるのも速いのでしょう。

 おじいちゃんが亡くなった頃には、他のおじいちゃん達もすでに引退しているか亡くなっていて、ギルドには成長途上の若者達ばかり。

 支える柱がなくなったギルドは、崩れるように落ちぶれていきました。


 ◇


「そして気がついたら、ギルドメンバーは私一人になっていた。これが、私の知るこのギルドの全てです」

「そうか……」

「私のために作られたギルドが、最終的に私一人のものになったのですから、世の中うまくできてますよね」

「そうか……そうか。アウラさんにも、いろいろあったんだな。すまない、辛いことを思い出させてしまって」

「いえ、とっくに終わったことです。それに、おじいちゃんが残してくれた『黄金』だけは、最後まで私の手元に残り、そしてそこにチシロさんという新しい風が吹き込みました。私は今の状況に満足しています」


「そうか……そうか、そうか。よし、決めた! 決めたぞ! アウラさん……いや、ギルマス! 是非この俺も、このギルドの一員に加えて欲しい!」

「……はい、喜んで!」

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