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第7話 これはいわゆる〈デート〉ですかっ!?

 エディルさまと一緒に街に出る――。


 普通だったら喜ぶことなのに、今のわたしには、とてもじゃないけど無理っ!!


 (だって、こんなの想定してなかったわよ~~っ!!)


 お墓参りだって思ってたから、そんなにいい格好してないし、どっちかというと地味だし。

 そりゃあ、エディルさまの普段着を見て「カッコいいなあ、ステキだなあ」って思ってウットリしてたけど、その隣に自分がいるのは間違ってる気がする。わたしなんかは、その辺の街を行く人に紛れて、「ああ、カッコいい人がいるなあ」って、遠くから眺めてるのが一番なんだってば。

 「なんであんな娘が隣に?」とか、「妹かしら。それにしても似てないわね」なんて声は実際には聞こえてこないけど、そう思われてるのは、百も承知。

 でも、こうして一緒に街を歩けるのは単純にうれしい。並んで歩いてるだけで、胸がドキドキして足元がフワフワしてくる。このお誘いは、「先日のパイのお礼」ってことらしいけど。う~~、パイ万歳っ!! 焼いてよかったミートパイ!!

 街を歩きながらグルグルする思考。

 気持ちが上を向いたらいいのか下を向いたらいいのかわかんなくて、迷走しちゃってる。


 「レディ・フォレット?」


 「え?」


 「どこかおかげんでも悪いのですか?」


 「あ、いえっ!! ぜんっぜん平気ですっ!!」


 心臓バックバクなぐらい元気ですっ!!


 「そうですか。ならいいのですが……」


 俯いてばっかりだったから、心配させちゃったかな。


 「どこか立ち寄りたい場所とかありますか? 私はその……、お誘いしておいてなんですが、あまり街に詳しくないのです」


 言って、エディルさまが顔をそむける。

 うわ。心なしか、その横顔、赤いんですけど。――照れてる?

 王宮では見られないエディルさまのお顔に、ちょっと驚き、ちょっと心がほぐれる。


 「それなら、少し買い物をしていってもいいですか?」


 「買い物?」


 「はい。いつもお世話になってるアンナさんにお礼をしたくて」


 焼きたてのパイをおすそ分けしたけど、それ以外にもちゃんとお礼をしたい。

 けど……。


 (相手に気を使わせないような贈り物って難しいのよね~)


 わざわざ買ってきました~ってのは、贈られても「申し訳ない」って気分になるし。「こういうの欲しかったんだ」って言われたわけでもない物を買って贈って、「そこまで必要でもないなあ」って思われるのも悲しい。高い物を買って気を使わせたくないし、安い物を買ってこの程度の感謝なのとも思われたくない。

 お礼の贈り物って案外難しい。

 一番無難なのは、「街で食べて美味しかったので、お土産です」とかなんとか言って渡すことだけど。


 (これも、ちょっと難しいのよね)


 食べ物に好みもある。

 わたしが美味しかったからって、アンナさんも気に入るとは限らない。

 王宮でもわたしや先輩侍女たちと、侍女頭のベネットさんでは、好むお菓子が違う。わたしたちは甘いものが好きだけど、ベネットさんはアッサリしたものを好む。甘いのが好きな先輩たちのなかでも、果物をたっぷり使ったものが好きな人もいれば、そうでない人もいる。

 人の好みがすべて同じ、誰もが好きな物なんて存在しない。

 だから悩む。


 「エディルさまのお母さまなら、どんなお菓子がお好きですか?」


 「母……ですか?」


 「ええ。エディルさまのお母さまなら、アンナさんとも歳が近そうですし、好みも似てるんじゃないかなって。わたし、母を早くに亡くしてるから、そのあたりがよくわからなくて」


 物心つく前に亡くなった母。母ではなく、祖母の好きなものならわかるけど、それでは少々年寄りくさいお菓子になってしまう。

 だから、ちょっと参考にさせてもらおうと訊ねたんだけど。


 「――すみません。私も母を亡くしているので、どのような菓子が好きなのかわからないのです」


 あ。


 「すっ、すみませんっ!! わたし、失礼なことをっ!!」


 「いえ。話してなかったのですから、そんな気になさらず」


 いやいや、そんなことおっしゃっていただいても。

 ペコペコと頭を下げて恐縮するわたし。知らなかったとは言え、謝らないわけにはいかない。


 「そうですね。生前の母は、ナッツを入れた焼き菓子を好んでたように思います」


 わたしの謝罪を遮るように、エディルさまが話し出す。


 「王妃殿下の養育で忙しかったから、そう頻繁には食べてなかったですが。それでも、お茶をするときは、その傍らに焼き菓子を置いてたように思いますよ。時折、私も妃殿下もそのお菓子を分けてもらったことを覚えてます」


 「優しいお母さまだったんですね」


 幼い王妃さまとエディルさまにお菓子を分けてあげる風景。

 見たこともお会いしたこともない方だけど、その優しさと温かい人柄は充分に伝わってくる。


 「そう……ですね。厳しくもあり、――優しい母でした」


 しみじみとした言葉。エディルさまが、遠くを見るような目をして、そっとまぶたを閉じた。まぶたの向こう、記憶の中のお母さまと再会されているのかもしれない。


 「母が生きていたら、レディ・フォレット。あなたとも仲良くお茶をしていそうですね」


 それは、どういう意味……。


 「俗にいう〈嫁姑問題〉は起きないでしょうね。母は娘を欲しがってましたし、あなたを大事にしたと思いますよ」


 (嫁姑問題って――っ!!)


 大事に仲良くしていただけるのはうれしいけど、そういうことじゃなくってっ!!

 嫁姑問題も何も、わたしとエディルさまは王妃さまの命令で決められただけの、お試し、かりそめ、とりあえずの夫婦なのよっ!?

 それを、それを、それを……っ!!


 みるみる間に顔が、というか全身が赤く茹で上がってくのを感じる。耳たぶがジンジンするぐらい、血が暴れるように流れまくってる。せめて頬に昇った熱を冷まそうと両手を当てるけど、手のひらも熱すぎてなんの役にもたたない。


 「ではまず、菓子屋から行きましょうか」


 「は、はひっ!!」


 声が裏返った。

 エディルさまが、一瞬目を丸くして――苦笑。

 ああ。回れ右して逃げ出したいぐらい恥ずかしい。焦りに羞恥が加わって、さらに顔が熱く火照る。

 こんなことなら、無難なお菓子を選ぶだけにしておけばよかった。

 今更ながらの大後悔。



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