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自遂  作者: 安宰
8/9

波と君

街のサンドウィッチ屋でサンドウィッチをゲットして、また丘の上に戻ってきた。風は心地よく頬を撫で、声を掻き消しこそこそ話のようなゾクゾク感の中で話をしていた。


『サンドウィッチと言ったらハムとレタスでしょう』

少しむくれたように笑う。

『いーや!揚げ物があってこそだ!』

と態とらしく声を荒げる。お互いに睨み合い少しだけ間が空き……先に負けたのはノイズだった。


『ぷっ…なんだよこれ』

と少年のように笑い出す。つられてアローンも笑い出す。お腹に手を添えたり、口元を隠したり、とにかく笑っていた。彼等の瞬きの様な日常のワンシーンだった。


唐突に残りのサンドウィッチを全て口に放り込んだアローンがそのまま草原に倒れ込む。日差しに手を翳して、ごくりと飲み込んで言葉を紡ぐ。


『私、怖いんです。貴方が。可笑しな話なんですがね、出会って数日なのに、もう何年も一緒に生きてきたような安心があって、貴方が離れるのが怖いんです。』


手を胸元に下ろして、だから、と言いながら起き上がる。

手に汗握る感覚になる。


『この日々が続けばいいと思うんです。ベスさんがいて、貴方がいて、擽ったい日々が続いてほしいんです。』


何でこんなことを忘れていたのかと疑問になることを思い出す、嗚呼、駄目だ、まただ。

指の先から冷たくなるような感覚に陥る。鏡を見なくても、顔が引き攣って、青くなっていく感覚がわかる。

立ち上がったアローンはそのまま崖の先に進んでいく。


『でも、無理なんです。人というのは愚かなものです。お願いを聞いてくれませんか?』


嫌だと叫びたかった。耳を塞いでいたかった。赤子のように泣き叫んで彼を、いや、自分を否定したかった。


『私を忘れないでください』


そういった彼の奇麗な青い目が一度だけきらりと輝き、髪を靡かせていった。


丘には波の音だけが響いていた。その妙に煩い波に吐き気を覚えて、走り出したかった。

























目が覚めた。ムクっと起き上がりなにか嫌な夢を見ているようだった。熱い目頭に指を運んだ。なにかのある感覚を指がなぞっていた。


『もう起きたの、おはよう』


そう、青い瞳の彼女の声が俺の体躯に大きく響いていた。

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