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自遂  作者: 安宰
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 七時頃に目が覚め生温い水で顔を洗う。家主が起きる迄私に出来る事は無いので着替えをして眼帯を…昨日汚してしまったのでした。仕方無く眼帯を買いに行くついでに買い物にも行こうと思いリストに目を通し、代わりとはなんですが包帯を目元に巻き、髪をまとめ帽子に隠す。

この髪がなんともまぁ面倒くさいのですよ。私が不便だから切ろうと言うとノイズは不貞腐れた様な顔で折角綺麗だから嫌だなんて駄々こねるんです。

まぁ別に切らないと死ぬ訳でもないので毎朝まとめるんですけどね。

と、すこし文句を言いながら外に出る。








 無事に買い物も終わって少し散歩もしたのでもう起きている頃かなと家に入るとコンポタアジュの入ったマグカップを持ちながら何かを書いているノイズにお出迎えされる。

私が片付けをしながら、

『何を書いているんです?』

と問うと

『んー、小説?』

と私の分のコンポタアジュを手渡ししてくれる。

『ノイズは字を書くのが好きなのですか?』

ベスのところにも手記やら小説やらが沢山あると言っていたんですよ。そんなふうには見えないのですがね。

『うーん、好きと言うか、小説家になりたいんだよね俺』

余りに予想外な返答で驚くと

『だろ、そうは見えないだろう』

と少年の様な笑みを溢していた。

『あ、そうだちょっと御使い頼まれてくれないか?ベスの所にこれを持って行ってほしいんだけど』

今帰ってきたのに? と呆れ顔をするといいだろう頼むよと両手を合わせお願いしてくる。ノイズに根負けしやむをえず了承する。

序に、序に、と言うのがノイズの口癖な物で始まる前に行ってしまおうと脱いだばかりの帽子を被り家を出る。さっきまで静まり返っていた街も既に賑わい始めていました。







『ベス、ロウです。開けてくれませんか?』

と裏口の戸を叩くと

『なんだいこんな時間に、今から寝るところだったのに』

と、大きな欠伸をしながらベスが出てくる。

『ノイズに御使いを、頼まれたもので』

と、苦笑すると、あんたも苦労人ねと笑っていた。

『昨日はあんま話せなかったしお代はいいからちょっと寄って行きなさいな』

と裏口から中に案内され昨夜の席に座る。




私が

『昨日の質問の答えでしょうか?覚えてたんですね』

と口を開くと

『そうだよ、急に聞いてくるもんだし酔も冷めちまって覚えてるに決まってるだろ』

と少し睨み気味に私を見つめた。

『それでどうなんです。私を死神と知ってて店に通していたら客足が遠のくでしょう?』

少し間を開けて、溜息を吐くように

『アンタが来るより早く、アスランが来てる時点で客足は遠のいてんのよ。でもあの子が来てるから行かないなんて童部、最初からお断りなのよ』

と、幼く笑う。

『ノイズについて詳しく知ってる訳では無いですが、ノイズと私は生きてきた世界が違う、否、今だって違うのですよ』

『アンタが何時の日かアタシの目の前で人を殺したんなら追い出すわよ。でもアタシはロウが人を殺す所を見るまではただの客よ』

矢張りベスと話すのは少し掴みにくくて苦手です。彼女は正しい事を言っている様に思うのに、どうにか苦手なのです。

『それで商売になるのですか?』

『かったい頭ね。別にお客は来るわよ。お喋り好きな旅人が来て何処か知らない国の話をしたり、食い扶持すら稼げ無い餓鬼達が来たり、無駄に大人ぶりたい莫迦共がきてくりゃあ、それで良いのさ。客で店を選ぶ様な阿呆に出す酒なんて無いわ。毎日沢山人が来て繁盛してお金稼ぐだけが商売じゃないのよ。

それに、ツケをこの店に来ても良いような理由にしてまで来るような子を追い出すなんて木偶でも思いつかないわ。

ほんとに莫迦な子よ、アスランは。理由が無くったって来ていいのに。言えないアタシも莫迦なのだけどね』


彼女の美しい翡翠の瞳が物憂げを写していた。

生憎私は常人の感覚など理解したくも出来ないのですが彼女は美しいと言う事が理解できる事が嬉しかったです。


『ノイズの事が大好きなのですね。ベスは。羨ましいです。』


『それは愛されるノイズに?愛せるあたしに?』


答えが出なかった。何方なのかわからなかった。


『あの子を愛してると言えたら良かったのにねぇ…』

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