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自遂  作者: 安宰
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バーの店主

*バーの店主


『っただいまー』

と、ノイズがベッドに飛び込む。買った物を机に置き、

『お昼御飯!の時間じゃねぇよなぁ、もう十五時だし』

『結局あの後色々回りましたもんね』

『食べ歩きしたし腹も減ってねぇわ……』

げふっと小さく音を出しノイズは服を私は食材を片付け始める。



 片付け終わり椅子に座って落ち着いていると向かいに座ったノイズが私の顔を見ながら

『Je veux t'aimer』

と言う、何語かも何を言っているかもわからずに困惑していると

『好きな小説で当て馬キャラが言ってたんだ。好きな子の処刑が決まって、その子とくっついた当て馬キャラの友達の男の子は犯人蔵匿罪で捕まって一人になってしまうお話。皆は主人公たちに同情して好きだっていうんだけどやっぱり俺は彼が好きだなぁ……』

『どうゆう意味なんですか?』

『あなたを愛したい、』


ガンッと机に手を付き立ち上がりノイズは本棚に本を取りに行く。

『違う話だけど読み聞かせてやるよ、あんたの事だから物覚えも良いし字なんてすぐ覚えられるさ』

そういい表紙に魚の尾を持った女性の本を持ってきて読み始める。

『そういえば、ノイズは私以外に知り合いはいないのですか?』

話聞いてんのか?と言いたげな顔で本から目線を私にずらすノイズ。

『先程買い物に行った時も思ったのですが、貴方は目つきが悪いからか待ちゆく人に避けられているように感じます。』

『目付きが悪いの気にしてんだけど……まぁ確かに嫌われてるのは否定しないが友達はいる。今日の夜行こうか』

居たんですねと驚くとうるせぇなと言いながら視線を本に戻して読み始めた。


お話は人魚姫?と言うお姫様が人間の王子に恋をするお話だった。人間とは愚かな物だと思っていたのですが、何故人魚姫は彼を海に引き釣りこまなかったのでしょうね。












 夜八時頃になるとノイズがそろそろ行くぞと言い出しそのお友達とやらの所に手を引いていったのです。

付いたのは小さな老舗感溢れるバーでした。

『あら、いらっしゃい』

と煙草を吹きながらノイズに手を振る年齢不詳の美しい女性だった。

『友達を連れてきたぞ』

と、何時にも増してドヤ顔をするノイズに紹介され軽くお辞儀をする。

此処に座りなさいと、女性のいるカウンターを挟んだ席に座る。

『ベスって呼んでね。アンタは? あと注文も』

ノイズが『いつものやつ二つ』と頼んでいて随分と沢山来ているのだなと察する。

『私は、、えっと、』

吃ってしまった。此処でアローンを名乗ればバレてしまう。バレてしまってはもうノイズとはいられないのです。先ず、私なんかが彼のいる事さえ可怪しいのです、でも彼と一緒に居るには名乗れないのです、その名は。

コップにお酒を二つ入れて差し出したベスに見られて固まってしまった私に向かってノイズが助け舟を出してくれる。

『彼の事はロウと呼んでくれ』

の後に小さく今朝の名前の件だとウィンクする。

『なんだい、男なのかい。アタシャてっきりアスランにも恋人が出来たと思ったのに、』

とカウンターに肘を付き残念そうにベスは溜息をついていました。

『なんだと、別に良いだろう恋人なんて』

と、ベスの頭にデコピンをするノイズを横に

『失礼ですが、アスラン……とは?』

とベスに問う。アラ……と私に目を向けるベスと真っ青な顔で私を見つめるノイズの視線に挟まれて、聞いてはいけなかったのかもと縮こまっていると

『俺の名前だよ、アスラン、オレが産まれたときはもうちょっと目の色が朱色に近かったらしいから、』

なるほど、と思いグラスを取り一気飲みをする。

そしたらベスはすっごい驚いた顔をするのです。もう顎なんて外れちゃうんじゃないかってくらい。

『いい飲みっぷりね、もう少しいる?』

私がいえ大丈夫です、と言うとノイズは思い出したように

『うわ! 忘れ物した! ベスこの前の本!!』

と言い走って店を出て行ってしまった。


カランカラン……とやがて落ち着いたドアからギギギ……とベスに視線を戻して少し見つめ合う。そして気づいたんですよ、気まず過ぎるのです。私が困って

『や、矢張りもう一杯だけくださいますか』

ってニコリと笑うと

『アンタ良い笑顔するねぇ、ハイどうぞ』

と同じのもう一つ差し出してくださった。

『ねぇ、ロウはあの子のことをどう思っているんだい?』

唐突な質問に場に沈黙が流れました。暫くして、氷がパキッと割れる音にハッとして

『どう、と言われましたても生憎あって数日なもので、私がどうこう言える事ではないですが、彼は……』

また吃ってしまうのです。どう探しても言葉が出て来ませんでした。

『別に無理に言えとは言わないさ、でもあんたあの子に一緒に居てくれと言われただろう?』

先程まではグラスを見たり灰皿を見たり忙しなかったベスの翡翠色の瞳が今度は間違いなく私を捕まえて、また不思議な、顔に亀裂の入る感覚がしてゾワッと身震いをした。

『アンタはどう思うの、そばにいたいと思うの?死神さんよ』

ハッと目線を下からベスの瞳に移した。

『知っているのですか?』

『当たり前さ、』

とまたベスの翡翠色の瞳はアチラコチラを移し始めた。

『思いますよ、それはそれは心から。彼と居るときは恐ろしくないのです。死も、体裁も、落ち着いていられるのです。分かってはいるのですよ、彼の為にも私は側にいるべきではないのです。でも、分かり得なくて、無駄な行為な筈なのに、、』

ベスは目を丸くしていたが、1番驚いたのは私でした。言葉が勝手に出ていった癖に、大切な言葉が思い付かなかったのです。知らないのです。最適な言葉が。

『そうかいそうかい、まぁアンタが出来る時まで一緒にいておやり。そういえばアスランがたまにきて書き記してった手記があるんだ、見るかい?』

正直を言うと凄く見たかった。でも私は先ず字が読めないですし、それを読んでしまってはいけないと感じたのです。禁忌の魔法の様な魅力と危うさが漂っていました。沈黙が流れ考え続けて今度その沈黙を破ったのは氷ではなくノイズでした。バンっと荒々しくドアを開け息を切らしながら

『まぁた、返すの忘れる所だった、これ』

と本を手渡ししベスに手を合わせ謝っていました。

『なんの話ししてたの?』

と聞いたノイズの質問を華麗に避けたベスは

『久しぶりに来たんだ、ツケを払うかそれ以上の酒を飲んで払ってから帰りなよ』

とノイズに話しかけて夜はこれからだと乾杯の合図を上げた。

乾杯と3人の声が響き夜と月に溶けて行きました。

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