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5 天才宮廷魔術師クイン



 クイン・ブランシェットは二十代と若くして、この国の宮廷魔術師の中でトップに君臨する魔術師だった。


 幼い時から膨大な魔力を持っており、ありとあらゆる魔法の勉強を受けて育ってきた。

 また、生まれ持ったセンスと本人の飽くなき努力により、成人を前にして宮廷魔術師になり、数年でトップに上り詰めた男である。

 年の半分以上は、国の内外で蔓延る魔物狩りに参加し、その功績は国王にも認められるほどに彼は人一倍国に貢献していた。

 

 そんな魔術のことなら誰よりも優れている男が、一枚の論文を見て、度肝を抜いているのだから余程のことである。


 一見、あまりに荒唐無稽な研究内容で、もし普通の魔術師が見たら、悪戯で書いた物だと見なしたかもしれない。

 だが、クインはこの国一番の魔術師であり、彼の直感がこれが偽りで書かれたものではないと告げていた。


 ――一体、誰がこんな研究を?


 普通に考えれば、先程自分にぶつかってきた、あの少女が書いたものと考えられる。

 しかし、フードを目深に被った華奢な少女がこんな重厚な内容の研究をしていたとは俄には思えなかった。


 ――とにかく、さっきの少女を探そう。


 そう考えたクインは大股で校舎を闊歩する。

 向かうのは講師陣のいる研究棟だ。





 クインは迷うことなく目的の部屋へ辿り着くと、ノックもなしにその扉を開けた。


「ダリウス教授!」


 偶然にもクインはダリウスの教え子であり、真っ先にその師を頼った。


「――おや? これは珍しい、クイン君じゃないか」


 応接用のソファに腰掛けていたダリウスが、クインを見て腰を浮かせた。


「あー、すまない。クイン君。今、少し立て込んでいてね」

「……来客中でしたか」


 ダリウスの向かいにローブ姿の生徒が座っているのを見て、クインはタイミングを間違えたと息を吐く。

 また後にしようと思ったが、クインの目に机の上の紫色に輝く液体が止まった。


「……教授。それは、何ですか?」

「あ、これはだね……その。――お、おい。クイン君っ!?」


 クインはズカズカと部屋の中に踏み込むと、ダリウスの制止を無視して、机の上の瓶を手に取った。


 今まで見たことのない妙な発光をしている紫色の液体にクインは食い入るように見つめる。


「……この紫はケイトウモネ草の色か? それに……リリックバスの根の抽出液か? 光って見えるのはメビュリアの花粉、いや、違うなハイナスビカの鱗粉か」

「わぁ、正解です! すごい。見ただけで分かるなんて!」


 可愛らしい声に振り向くと、目をキラキラとさせた少女がクインを見つめていた。


「……お前、さっきの」

「ひゃっ!」


 少女はクインと目が合うと即座に目を逸らし、ローブのフードを被ってしまった。


「失礼。彼女は人見知りなんだ」

「す、すみません。……あ、あの、論文を拾ってくれた人ですよね……。さっきはありがとうございました」

「やはり、そうか」


 クインはこんなに早く目的の人物が見つかったことに驚きながらも、冷静になって自分の持っていた論文を少女に差し出した。


「――まだ、もう一枚あったぞ」

「あ! ありがとうございます」


 しかし、少女が受け取る前に、クインは論文をひょいと上に挙げる。


「えっ?」


 驚く少女にクインは言った。


「そっちの束を見せろ」


 クインの言葉にダリウスが顔色を変える。


「クイン君!」

「ちょうどこの論文を書いた人間を探していたんですよ」


 クインはダリウスに手にしていた論文をヒラヒラと振って見せると、ニヤリと笑った。


「……読んだのかね?」

「ええ。とても興味深かったです。なので、見せてくれませんか?」

「…………はぁ。読んでしまったのなら、仕方ない。メラニー。彼にも論文を読ませてもいいかね?」

「え? あ、はい……」



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