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2 魔法学校の引き篭もり




「……できた!」


 メラニーはインクで真っ黒になった手で汚れないよう、書き上げた羊皮紙を慎重に指先で摘むと、最後のページを目線の高さに上げた。

 びっちりと紙の隅から隅まで書いた力作に思わず笑みが溢れる。

 床にはそうやって書いた羊皮紙が広がっていて、足の踏み場がない状態となっていたが、メラニーは達成感でいっぱいだった。



 ここは魔術学校の校内にある研究棟のメラニーに与えられた部屋で、メラニーは日夜この研究室に篭り、自身の研究に明け暮れていた。


 机の上にはガラス器具や乳鉢といった、調合で使う道具が所狭しと並び、部屋の奥には特大の錬金釜。隣の本棚には実家や学校内の図書館から借りてきた本が押し込まれ、壁一面の薬品棚には研究で使用するための材料が並んでいた。


 部屋の隅には休憩用の長椅子が備わっていたのだが、今はその上にメラニーが持ち込んだ布団やクッションが積まれていて、実質ベッド化としている。

 その長椅子の下には使い魔であるメルルの居住スペースもあり、気持ちよさそうにメルルが眠っていた。


 この学校に来て、まだ大した日も経っていないのに、与えられた研究室はすっかりとメラニーの巣となっていた。


 叔父であるダリウス教授に誘われ、魔術学校にやってきたメラニーだったが、ここでも彼女は人見知り精神を発揮し、与えられた研究室に引き篭っているというあり様だった。

 むしろ、設備と装備が整った分、引き篭もりが強化されたと言っていい。




 テーブルが研究道具で散らかっていて使えないために、床の上で研究論文を書いていたメラニーは、書き上げた論文をひとまとめにすると、うーんと背伸びをする。

 

「すっかり徹夜しちゃったわ」


 本当は途中で切り上げて、校舎の隣にある寮に帰るつもりだったが、筆が乗ったお陰で夜通しで論文を書いてしまった。

 しかし、メラニーがそうやって寮に帰らない日は今に始まった話ではない。

 

「終わったら、お腹も空いてきちゃった。まだ携帯食料あったかしら?」


 メラニーは棚をごそごそと探り、最後の携帯食料を見つける。


「良かった。まだあったわ。――いただきます」

 

 携帯食料はビスケット生地を固めた簡易的な食べ物で、大して美味しいものでもないのだが、貴族の食事以外の料理を今まで知らなかったメラニーにとって中々興味深いものであり、ナイフとフォークを使わずに食べるお手軽感がちょっといけないことをしているようで楽しくもあった。


 今まで屋敷の中で過ごしてきた反動もあってか、制限のない自由な暮らしになった途端、ご飯を携帯食料で済ませたり、夜通し研究をしたりと、メラニーはここでの生活を大いに満喫していた。




 そもそも、叔父のダリウス教授に助手として呼ばれたはずなのに、それらしい仕事は最初の数日だけで、研究室を与えられると、後は自由に勉強していいと言われた為、メラニーは自分で研究を始めていた。


 そもそも魔力があまりないメラニーは戦闘魔法や回復魔法と言った実技系の魔術は使えない。

 しかし、それだけが魔術の全てではなく、学校では魔術を使った調合や研究を行う設備が揃っていた。


 始めは何をしてよいか分からずに、家から持ってきた古文書を読んだり、ダリウスから教わった簡単な調合などをして過ごしていたのだが、古文書に記載されている薬品の材料と道具が揃っていると分かると、無性に作ってみたくなり、見様見真似で薬品作りに没頭した。

 それが昨日、見事完成し、せっかくなのでその研究結果を文章にしたためていたのである。

 

 机の上にはその完成した薬品が瓶の中でキラキラときらめいていた。


「そうだわ。早速、叔父様に見せなくちゃ」


 学校に通う兄や妹から、研究結果をまとめて教授に提出するのが大変だと聞いたことがある。

 判定はEからAまでの五段階でAが最高単位となり、一定の単位を取らないと落第となってしまうらしい。

 特にダリウス教授はなかなかA判定を出してくれないことで有名という話だった。


「せっかく学校に来たんだもの。少しは学生らしいこともしたいものね」


 正確には学生ではないのだが、メラニーは学生生活に強い憧れを持っていたので、その真似事をしてみたいと思っていた。

 わざわざ論文も書いたのもその一環で、メラニーはウキウキと支度を始める。


「じゃあ、メルル。行ってくるわね。お留守番よろしくね」


 メラニーは制服であるローブを服の上から纏うと、フードを頭に被り、薬品の入った瓶を鞄に入れ、論文を抱えて部屋を出た。




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