11 パーティへの招待
「お城のパーティ、ですか?」
突然のクインの誘いに、メラニーは目をパチクリとさせた。
「ああ、君を紹介したいやつがいるんだ」
「はぁ……」
正直、人見知りのメラニーにとってパーティなどの社交場は苦手だった。
「気が進まないか?」
クインにじっと見つめられ、メラニーはドキンと胸を高鳴らせる。
どうも最近、クインから今みたいにじっと見つめられる機会が多く、その度に何だか胸の奥がムズムズとするような感覚になってしまう。
気のせいか前より距離も近いような気もするし、ちょっとしたスキンシップも増えているように感じた。
移動する時には必ずと言っていいほどエスコートされるし、エスコート後もなかなか手を離してくれずにずっと握ったままだったりするし、課題が上手く出来るとヨシヨシと頭を優しく撫でて褒めてくれるし、とにかく距離が近いのだ。
でも、婚約者なんだし、これくらい当たり前なのかしら?
ああ、でもクイン様はあくまで弟子として迎え入れるために、叔父様に言われた条件を呑んでくれただけだし……。そこのところどうなのかしら?
そもそも、前の婚約者であるジュリアンとは一切そんなスキンシップなんてなかったし、全然参考にならない。
何より、そんなクインの行動が少しも嫌じゃないことが問題だ。
と言うより、むしろ……。
――はっ。私ったら何を考えているの!?
クインとの距離が縮まるたびに、人見知りで恋愛経験も乏しいメラニーの頭の中は大混乱と化していた。
そんな固まったメラニーにクインはダメ押しの一言を口にする。
「……一応、私たちは婚約しているわけだし、是非一緒に出席して欲しいのだが」
「い、行きます!」
クインにそう言われたら、行かなければならない。
パーティは苦手だけど、クインに恥をかかせるわけにはいかなかった。
「そうか。ありがとう、メラニー」
「――っ!?」
目元を和らげ、嬉しそうに微笑んだクインにメラニーは目を奪われる。
――クイン様っ、そういう所です!
普段はあまり表情を動かすことはないのに、急にそんな眩しい笑顔を向けられたらどうすればいいのか。
バクバクと鳴る心臓を抑え、その場を何とかやり過ごすメラニーであった。
――――――
――ううっ。人がいっぱい。
煌びやかなパーティ会場の入り口で、メラニーは会場の広さと人の多さに尻込みをしていた。
「メラニー。大丈夫か?」
「ふぇ!? は、はひっ!」
「……そんなに緊張しなくていいから」
「は、はい……」
メラニーは可笑しそうに苦笑するクインをチラりと見上げる。
今日のクインはいつもの宮廷魔術師の制服姿と違って、パリっとしたタキシードを着ていた。
黒で統一した正装姿は恐ろしいくらいクインに似合っていて、普段とは違うクインの姿にメラニーはドギマギとしてしまう。
そういうメラニーも今日はいつものローブ姿ではなく、ふんわりとした可愛らしいドレス姿であった。
隣のクインもまた、普段とは違う着飾ったメラニーを見て内心感動しているのだが、そこは国一番の宮廷魔術師。得意のポーカーフェイスで心の動揺を隠していた。
そんな二人はパーティ会場でもかなり注目の的だった。
長年誰とも浮いた話のなかったクインが婚約しただけでも大ニュースなのに、相手は先日公爵家に婚約破棄された例のスチュワート家の令嬢である。
しかし気になるものの、なかなか二人に声をかける者はおらず、誰もが遠巻きで二人の様子をチラチラと窺っていた。
そんなことになっているとは知らないメラニーは、なんだか人に見られている気がするが、恐らく自分が緊張しているだけだと思っていた。
緊張のあまり、なんだか頭がクラクラとする。
そんなメラニーに優しい声がかかった。
「お嬢さん。顔色悪いけど、大丈夫かい? 良かったら、飲み物でもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ジュースの入ったグラスを手渡され、メラニーは素直に受け取った。
一口飲んで、ふうと息を吐くと、少しだけ気分が落ち着いた。
顔を上げると、煌びやかな刺繍の入った衣装を着た、人の良さそうな青年が立っていた。
「なんだ、ケビンか。お前、こんなところにいたのか」
隣でクインがその青年を見て、驚いたように言った。
「お知り合いですか?」
メラニーが問うと、クインは頷いた。
「ああ、こいつが紹介したかった相手だ。ケビンだ」
「まぁ、そうなのですね。あ、あの、初めまして、メラニーと申します」
「よろしく、メラニー。……なんだ可愛い子じゃないか。本当にお前のタイプだな」
「えっ?」
ケビンの言葉に思わず、隣のクインを見上げるが、クインは眉間に皺を寄せてケビンを睨んでいた。
唖然とするメラニーにケビンは楽しそうに笑みを向ける。
「メラニーはクインの弟子でもあるんだよね。どう? クインに厳しく扱かれていない?」
「いえ、そんなことありません。クイン様はとってもお優しいです! 分からないことは丁寧に教えてくれますし、欲しいものはなんでもくださいますし、怒ったりすることはなくて、何から何まで本当に良くしていただいています」
「へぇー」
ニヤニヤとケビンはクインを見つめ、対するクインは何故かそっぽを向いていた。
――あ、あれ? 私、何か変なことを言ったかしら?
「ハハハ。なかなかいい婚約者じゃないか。親友として安心したよ」
ケビンは豪快に笑うと、クインの肩を叩いた。
親友と言うだけあって、クインとケビンは本当に仲が良さそうだとメラニーは感じた。
そんなケビンの元に、一人の年配の男性が慌てた様子でやって来た。
「王子! 探しましたよ。ご来賓のお客様がお呼びです」
「ああ、すまない。それじゃあ、クイン。メラニー嬢。またね」
「……えっ?」
にこやかに去っていくケビンの後ろ姿をメラニーは呆然として見送る。
「…………王子様?」
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