ゲームのオフ会がコスプレ参加だなんて聞いてないっ!…え?コスプレじゃない?
なんとなく思いついたものをガーッとかき綴たもの。
あらすじにあった通りご都合主義、甘々な設定の世界観となっておりますのでご注意ください。
ゲームのオフ会で、初恋の人に会える事になった。
その人とは1度も直接あったことは無かったけれど、ゲームの中を通していつの間にか好きになっていた。
だから、今日のオフ会はとてもとても楽しみで…
ドキドキと高鳴る胸を抑えて会場に足を踏み入れた。
が…
そこはコスプレ会場だった。
「?」
今日は確か、私が所属するゲームのギルドメンバー全員参加の大規模オフ会。元々このギルドメンバーは所属人数がとても多く、学生から社会人と年齢層も人種もバラバラの皆が奇跡的に集う会場には…何故かコスプレ集団の姿。
「…ん?あれ、場所間違えた?」
慌てて場所を確認するも、そこは間違いなく指定された会場だった。日付も時間も完璧、なんなら日本人らしく15分前行動に則り早めに着いた…はず。
しかし、そこは私が想定していたものとは全く違うもので…
会場の中は明らかコスプレをした方々が溢れかえっている。
しかもよく見ると、私がプレイしているゲーム仲間のキャラクター達だ。どのキャラクター達もクオリティーが高く違和感がない。
これは…もしややらかしたのでは??
「今日のオフ会って…まさか、コスプレ参加?!」
まさかそんなっ!!私のところにそんな連絡来てない!!
でもでも会場はここだし…え、今からコスプレする?!
で、でもコスプレなんてした事ないし今からじゃとてもじゃないけど間に合わない…何が何だか分からなくて会場に入る事も出来ずオロオロと狼狽えていたその時スマホが鳴った。
ピロン!
『ニャコピー!会場着いたー?』
連絡をくれたのは特に仲が良く、ゲーム初期から頻繁にパーティーを組んでくれている“ラララ”さん。
彼女のキャラクター種族はエルフ。職業は暗殺者である。
エルフといえば魔法職の人が多い中では異例の暗殺者だがレベルも高くとても頼りになるお姉さんである。
キャラデザもとても可愛らしく、いつも明るく優しい彼女にリアルで会うのはこれが初めてで、会える事が嬉しくとても楽しみにしていた1人である。
因みに“ニャコピー”は私のキャラクターネームである。
種族は名前の通り猫獣人である。
『一応着いたんですが…すみません、連絡の行き違いがあったみたいで…』
『んー?どしたの?』
『あの、私。普段着できてしまって…』
普段着とは言ったものの、よそ行き用のちゃんとした服ではあったが…今回のオフ会での正装はどうやらコスプレだったらしいのでそう伝えてみる。
明らかに場違い感が半端ないのだ。
『なんだ!アタシも普段着だよー!別に服装の指定とかなかったし、全然大丈夫だよー!!』
『本当ですか?良かったです…あの皆さんどこに居ますか?』
『人多いもんね!ニャコちゃん、どこいるのー?迎えいくよ!』
『本当ですか?助かります~!今、会場入口前にいます!』
『了解!すぐ行くから待っててね!』
『はい!』
暫く待つ間、会場入口付近によってラーさんを待つ。
そういえば…彼女が今日どんな服装をしているかとか聞いていないし、こちらからも伝えていないのだが…分かるだろうか?まぁ、ラーさんも普段着って言ってたからコスプレはしていないのだろう。それなら逆にわかりやすいかもしれないと思い直す。
それにしても…落ち着いてよく見てみれば、ゲームの中で見た事のあるギルドメンバー達のコスプレばかりだ。
確かにゲームの中でしか会ったことがない私でも誰が誰なのか、これなら逆に分かりやすく見分けがつく程だ。
リアルで会うのは大体の人達は皆これが初めての筈だから…分かりやすいように自分のコスプレをしてきたってこと?
というか、本当にクオリティが高い…あの鎧とか、本当に金属でできてるみたいだし、あの剣も凄くかっこいい!
あーゆーのどこで売ってるんだろう?
色んな意味で皆凄いなぁ…
「ニャコちゃーん!!」
なんて、半ば現実逃避をしながらそんなことをツラツラと考えていると…画面越しに聞いたことのある声が私を呼んだ。
声の方へ視線を向ければそこには…見知った人の姿があった。
「ラーさ…ん?」
「きゃー!本物のニャコちゃん超可愛い!!ちっちゃーい!あ、一応初めまして?改めてラララだよー!」
「あ、えー…と。はい、ニャコピーです…あの」
「ささ!皆あっちで待ってるから!レッツゴー!!」
「ら、ラーさん?!」
スラリとしたモデルのように高くスタイルの良い身体。
ツリ目のその瞳は優しく細められておりキラキラと翡翠の光をともしている。そして、暗殺者らしくない少し露出の多いその服装。何より、長くとんがったその耳は画面越しによく見るものと同じ。
…ラーさんもバッチリコスプレしてるじゃないですか?!!
◇
ラララさんこと、ラーさんに引きづられるようにして連れてこられたそこには私が今所属しているパーティーメンバーが集まっていた。
「お、ラララお帰りー」
「ただいまー!ニャコちゃん連れてきたよー!」
「おぉ!ニャコピーはリアルも可愛いなぁ。あ、俺わかる?ライチだぜ!」
人懐っこい笑みを浮かべるのは筋骨隆々のとても大きな男性。燃えるように紅く色付いたその髪と瞳、そして背中に背負った大太刀と額に生える黒い角。
鬼人族、職業は剣士のライチさんだった。
見た目に似合わず可愛らしい名前の彼もまたバッチリ自分のコスプレをしている。
「ニャコニャコ!僕はオレサマだよ!!」
服の袖を一生懸命に引いて来るのは、ライチさんとは違いとても小柄な体つきの男の子。ミルクティー色の髪に金色の瞳、その腰にはいくつかの杖をつけブカブカのローブを着ている。小人族、職業は魔法使いのオレサマ君。
そして…
「ニャコ」
耳に心地よい、低く滑らかな声が私を呼ぶ。
振り返ればそこには、とても美しい人がいた。
サラリと銀色の美しい髪に、紫根の瞳。
私よりも頭2つ分ほど高い身長の彼の頭にはピョコリと丸みを帯びたもふもふの耳が2つ、腰にはゆらりゆらりと太く長い尾が揺れている。獣人族、職業付与術師。
彼は、私の…
「ニャコ、やっと会えた」
「…スターさん?」
「うん、スターことスタコラサッサです。よろしくね」
ふわりと微笑んだスターさんはぎゅっと私の手を握りしめた。見たこともないほどの美丈夫に優しく微笑まれて手を握られるなんて…しかも相手は私の初恋の人。
ドキドキと胸がうるさい。
勝手に顔に熱が溜まる。
あぁ、私はずっとこの人に会ってみたかった。
ゲームの画面越しでしか見た事のなかった姿
機械越しでしか聞いた事のなかった声
実物はゲームの中以上にとてもかっこよくて…そして。
名前がダサいっ!
…うん、やっぱりこのパーティー
ネーミングセンスないなぁ。
◇◇
ギルドの中でも特にレベルの高い人達が集まった者達で構成されたのが私が所属するこのパーティーである。
その名も『ENDLESS』
果てしなく、メンバー全員の名前が残念なパーティーとして有名である。
だが、その実力は高くランキングでも上位の凄腕が集まる。
その中でも一番の新参でありレベルの低いのが私。
年齢すら1番下である…因みに、私よりも小柄なオレサマ君はあの見た目で35歳らしい。真偽の程は不明だけれど…。
「ニャコちゃん、ゲームのも可愛いけどリアルは本当に可愛いねぇ!会えて嬉しいよ!」
「オレサマ程じゃないがやっぱちいせぇなぁ!」
「ニャコニャコ!これ美味しいよ!」
「ニャコは人だったんだねぇ、可愛いなぁ」
私みたいなのが入っているのは少し申し訳ないけれど…皆いつもとても優しくて、レベルの低い私に合わせてくれている。
いつの間にか皆のことが大好きで、大切になって…
彼らはただのゲーム仲間じゃなくて、本当に大事な仲間なんだけど…
今この時ばかりは本当に疎外感が半端ない。
凄く、居づらい…だってだって!全員が全員コスプレだよ?!
ラーさん普段着だなんて言っておいてバッチリコスプレしてるし他の皆もそう!他のギルドメンバーも、私みたいになんのコスプレしてない人なんて見る限り全く居ないっ!
皆して私にだけ伝えてくれなかったってこと?!
で、でも、まぁ…例え私がコスプレしたとしても皆みたいにバッチリ着こなせたりはしなかったんだろうなぁ…。
そう考えるとしてこなくて良かったのかな?うーん、でもやっぱり仲間外れにされたみたいで…ちょっと寂しいかも。
「あれ、ニャコどうしたの?」
「あー、その…皆その格好かっこよくて凄いですよね!私、今日がコスプレ参加だったなんて知らなくて、私だけ何もしてなくて…」
「こすぷれ?」
「え?もしかしてニャコちゃん知らない?!」
「え、まじで?」
「ははは!まっさかぁ!」
「?」
なんの事かさっぱり分からなくて首を傾げている私に、なぜだか皆して困惑したように目をさ迷わせている。
何かおかしなことを言ったかな…?
「あー、ニャコピー」
ライチさんがとても言いづらそうに、しかし真剣な瞳で私を見る。周りのみんなも同じような様子で…
「は、はい」
「俺らのこれね、コスプレなんかじゃないんだ」
「?それは、どういう…?」
「ニャコ、これ触ってごらん」
スターさんはそういうと私の手をそっと持ち上げて頭の上にちょこんと乗っている獣耳へと持っていく。
フワリと肌触りの良い毛並みに暖かいその耳は、触れる度擽ったそうに小刻みにぴくぴくと動いていた。
「…え?!!」
明らかに付け耳としての感触ではない。よく見てみれば、スターさんの顔の横には私と同じ人の耳はなかった。
猫と同じ縦に長い瞳孔、鋭い牙。ゆらりと揺れていつの間にか私の腰に巻きついている太くて長いフワフワの尻尾…
無意識にスターさんの体をあちこち触りまくってしまっていた私は彼の声でハッと我に返った。
「ふふっ、ニャコくすぐったいよ」
「あっ!ご、ごめんなさいっ!!」
「ふふ、大丈夫…ニャコならもっと触ってもいいよ」
「っ~~!!」
余りにも甘い声で囁かれたその言葉に全身が熱く燃え上がった。慌ててそばを離れようとするもいつの間にかスターさんの腕に囚われ逃げることも出来ない。
顔を真っ赤にして狼狽える私を見つめて彼は心底楽しそうに私を見つめている。
「ニャコ、こっち向いて?」
「す、スターさん…」
クイッと細くしなやかな指で顎をすくわれ上を見上げれば、トロリと甘い蜂蜜のような、しかし火傷してしまいそうなほど熱い瞳をしたスターさんの顔がいっぱいに拡がっていた。
その美しくも激しい感情の色に目を奪われた。
彼の顔が段々と近づき、もう少しで唇が触れるという時…
「はいはい、そこイチャつかないの!」
「あはは!スターはニャコニャコ大好きだからねぇ」
「うへぇ、いつも以上に甘ったるくてヤベーな…」
ラーさん達の声で我に返った私は慌てて顔を背けた。
グイグイとスターさんの胸を押しているのに一向に腕の拘束が緩むことは無い。
「チッ…」
「す、すすスターさんっ!離してくださいっ!!」
「なんで?」
「なんで?!だ、だって皆見てますよ?!!」
そうなのだ!先程は何故か全く目に入らなかったけれど、近くには当然同じパーティーメンバーの皆はいるし、そのまわりにはギルドメンバーだっている!だってここ会場のど真ん中だもの!!
「すすスターさんっ!!」
「おーい、ニャコピー恥ずかしがってんだろ。そろそろ離してやれよ〜」
「ニャコちゃん、本当に嫌なら殴って大丈夫だよー?」
「あはは!ニャコニャコがそんなことできるわけないじゃーんっ!」
「あのあのあの!!」
「…ニャコ」
「は、はいっ!…?!!」
チュッ…
目の前いっぱいにスターさんの顔が拡がったと思った瞬間、唇にとても柔らかい感触が落ちた。
「…これで、ニャコは俺のね」
「…っ~~~!!!!」
何をされたのか理解した瞬間、そのまま目の前にある胸に顔を隠してしまったのは仕方が無いと思う。
「「ヒュ~!!!」」
「いいぞー!もっとやれー!」
「リア充共め!爆破しろ!!」
「「俺たちのニャコピーがあぁぁぁ!!!」」
会場いっぱいに飛び回る雑音から私を遠ざけるようにスターさんの腕の力が強まる。
凄く凄く恥ずかしいけれど、その暖かくて力強い腕の中が心地よいと感じてしまうのはやっぱり仕方ないと思うの…。
「うへぇ…独占欲の塊かよ、さすが獣人」
「いや、あれはスターだからじゃない?」
「あはは!スターさんやっと会えたからって必死すぎー!」
ワイワイと楽しそうな声が響く。
ゲームの画面越しでしか会えなかった彼らとこうして会えるなんて、とても嬉しくて楽しくて…でも今はとても恥ずかしいだから、まだ、この腕の中で彼の鼓動を聞いている。
ドキドキと、私と同じくらい早く強くなるその音に耳を傾ける私にボソリと呟いた彼の声は届かなかった。
「ニャコ…俺の可愛い子猫。絶対逃がさないから覚悟してね」
◇◇
その後、私がやっていたゲームは実は異世界と繋がっていたことが判明。コスプレだと思っていた彼らは実は本物の人外さんだったらしい。
ゲームとして楽しんでいた世界が、何がどうして異世界の彼らの世界と繋がり、画面越しに彼等と冒険なんかできてしまっていたのかは甚だ疑問だけれど、現実として私はゲームを通して彼らと共に冒険していたことは事実らしい。
因みに、変な名前だと思っていた彼らの名前だが…あれらは本名らしい、なんとも残念な話である。
今回のオフ会では、画面越しにゲームとしてしか交流が果たせなかったはずの私達の世界と彼らの世界との境界線がより深く合わさることで此方と彼処を直接行き来できるようになってしまったらしい…。
そしてこれまた不思議なことに、オフ会場として使っていたあの場所は丁度境界線の狭間らしく。
私が入場してきた扉からあちらの世界の住人の人々が通り此方側へ来ると…角や獣耳のない普通の人の姿に変わる。
逆に、彼らが入場してきた扉から私達があちらの世界へと渡ると…ゲームで使用していた己のキャラクター姿へと変わる。
なんともご都合主義な話である。
ところで…私は今、あちらの世界のスターさんの家にいる。
何故か?それは…
「ニャコ、おはよう」
「おはようございます、スターさん」
「ふふ、こっちのニャコもやっぱり可愛いね」
「私はまだこの姿は少し慣れないです…でも、スターさんとお揃いなのは嬉しい、です…から、その」
「っ、ニャコ!」
ピコピコと頭の上で小刻みに動く耳と、彼と同じ長い尻尾。
私は今『ニャコピー』として彼と生きている。
元の世界には時々戻るけれど…彼の傍が私の居場所だから。
最後までお読みいただきありがとうございました!
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
…因みに、作者は普段ゲームを全くしないのでこういったゲームで在り来りな職業構成?とかが全くわかっておりません…申し訳ありませんでした!!