紡ぎの少年
はじめまして、春豆 ちろと申します
初投稿作品になります
新参者ではありますが、どうぞよろしくお願いします
─おはよう、ハリー。今日は夕方から雨が降るから
学校へは傘を持っていくといいよ─
「そうなのかい?ありがとう
それじゃあ傘を持っていくよ」
カーテンに射し込む日射し
今日は気持ちの良い朝だ。晴れやかな青い空を
見上げれば学校へ向かう準備を始める。
「おはよう針。あら、また今日も朝食はコーヒーだけなの?」
「おはよう母さん、うん。今日もコーヒーだけで大丈夫だよ」
朝食の朝はいつも母とこんなやり取りをしている。元々食へのこだわりがなく、何も食べずに1日を過ごすなんてことは多々ある。そんな息子を母はいつも呆れたような顔をしながら見るのだ
「それじゃあ、行ってきます」
玄関で靴を履けば手にはしっかりとビニール傘を握る。ガチャという扉が閉まる音がすれば、リビングから朝のニュースが聞こえる
─本日は快晴です。外を出歩くにも心地の良い陽気ですので、今日は絶好のお出かけ日和となるでしょう─
家から学校へは最寄り駅から電車に揺られ
五駅進んだ所にある。電車を下りれば通勤、通学で
人が行き交う列に並び改札を抜けると、同じ制服に
身を包む生徒達の姿がちらほら見えだす。
そして歩いて10分程の場所に毎日通っている高校がある
「おっす。ハリー!今日も相変わらず
ひょろひょろした体してんな?もっと肉を食え!肉を!」
昇降口で靴を履き替えていれば
突如、背中に痛みが襲う。どうやら背中を
叩かれたらしい。この朝から元気な男は
同じクラスで幼馴染みの“佐々木 元”
元気の元と書いて”はじめ”と呼ぶ
いつもパワフルな彼にぴったりの名前だ
「おはよ。元。毎日毎日、いい加減その挨拶の仕方、どうにかならないの?背中にいくつ。元の手跡が
ついてるか見せてあげたいよ」
「わりー、わりー。これをしないと1日が始まらないんだよ!てか、なんで傘?今日は降水確率0%だぜ?
天気予報見てこなかったのかよ?」
見渡しても見渡しても、傘を持っている
生徒は誰もいない。みんながみんな
天気予報を見ている訳ではないだろうが、
今日は確かに気持ちの良いくらい晴れている。
雨の気配なんて微塵も感じない
「いいんだよ。今日は雨が降るからって
教えてもらったから」
元はその言葉を聞けば、”相変わらず変なやつだな”と頭の後ろに手を回しながら答え教室に向かう
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
午前中の授業もあと少しで終わろうとしていた
4時間目の授業は英語だ。先生が発音した後に続けて
復唱する。すると微かに耳に聞こえる苦しそうな小さな声が届く
───痛い。痛いよ、誰か助けて───
生徒達が教科書に目を向けている中で
窓の外を見てみると、どうやら
声の主であるらしいものを見つけた
授業終了のチャイムがなればお昼休みに入る。
元から一緒に飯食おうぜと誘われたが、ごめん
と言って、教室を出ていく
「大丈夫かい?ボールにでも潰されたのかな?
今、植え替えと水をやるからね」
───ありがとう、ハリー。君はいつも助けてくれる優しい人だね───
この声は誰にも届かない。声の主は教室の窓から見えた花壇に咲く花々の中の一輪だけ、しおれた花の声だ
「君の声が聞こえたからね。それに助けたなんて、
そんなだいそれた事をしたつもりはないよ。ここは
グラウンドが近いからボール何かも飛んできやすいし、また何かあったらいつでも呼んでくれていいから」
花は先程より少しだけ元気な顔をしたような
気がした。そして、また”ありがとう”と今度は
大きな声でお礼を言われた
教室へ戻ると、元からどこに行っていたのかと
しつこく迫られたが、その辺はいつものように
話を逸らしながらごまかす
午後の授業、五時間目、六時間目と授業を受け
帰りのホームルームをしていると、ゴロゴロゴロと
遠くから雷の音が聞こえてくる。窓の外を見てみれば、あんなに晴れやかだった空が一気に、ねずみ色の
どよんとした曇り空へと変わっていた。そして程なくしてポツポツという雨足が聴こえてくれば本降りへと変わっていく
「うげ、まじかよ。天気予報外れじゃん
俺、傘持ってねーし」
元は窓を見れば気怠そうな顔をしながら、今日の
部活が屋内になってしまった事を嘆いていた。
彼の部活は野球部だ。昔から野球少年だった元は高校でも野球部に入り日々汗を流している。
そんな彼と昇降口まで来れば別れ、手に持っている
ビニール傘をバンっと開けば、昇降口に溜まる
生徒達の視線がこちらに集中した。雨が酷く、中々
みんな外に出たがらないようだ。そんな視線を
感じながらゆっくりと傘をさしながら歩いていく
一人の少年
名前は、羽由良 針 “はゆら しん“高校2年生
彼は物心ついた頃から自然の声を聞くことができた。今朝、雨が降ることを教えてくれたのは、針の部屋で育てている植物から教えてもらったのだ。彼のこの力を知る者は亡くなった祖父だけだ。昔から不思議な空気を纏う針はいつからか“緑音のハリー“と呼ばれるようになった
どきどきしながらの執筆でした
少しでも誰かの目に止まって頂けたら嬉しいです