05
桜子はずっと緊張していた。
最初の挨拶から。
休み時間も。
授業中も。
ずっと緊張していた。
周りの人達はいい人ばかりで。
すぐに仲良くなれるかもしれない。
でも……。
桜子はでそうになるため息を飲み込んだ。
ここでため息をしてはいけないことぐらい分かる。
そういうつもりじゃなくても。
あまりいい印象を与えないことぐらいは。
桜子(早く家に帰りたいな……)
家に帰れば大好きな家族がいる。
今日はこんなことがあったって話せる人がいる。
桜子は家族が大好きで。
早く家族に会いたいと思っていた。
クラスメイトA「お昼ごはんね」
クラスメイトA「いつもみんなで食べてるんだけど」
クラスメイトA「一緒にどうかな?」
クラスメイトB「他のクラスの人もいるしさ」
クラスメイトB「部活案内とかもできるしね」
昼休みの時間。
近くの席のクラスメイトの言葉。
善意で言ってくれてるのは分かる。
すごくありがたいとも思う。
でも……。
桜子は昔からわいわいしのが苦手だった。
できるだけ少人数で静かにしていたいと思っていた。
きっと……。
普通ならこの人達も私をお昼ごはんに誘わない。
私が転校生だから誘ってくれてるだけ。
そう少しだけ卑屈になる。
クラスメイトB「もちろん、桜子さんがいいならだけど」
クラスメイトA「うん」
クラスメイトA「うちらって騒がしいからね」
クラスメイトA「そういうのが苦手なら断っても大丈夫だから」
そうも言ってくれる。
なんだか逆に断りづらくなった。
いい人のお誘いなんだから。
最初ぐらいは付き合ったほうが……。
そう考えて返事しそうな時だった。
へちる「あの……」
1人の少女が桜子に声をかける。
小さな体にセミロングぐらいの髪。
それに……。
ぼそぼそっとした小さな声。
あまり目立たないタイプで。
桜子は今初めて存在を認識したぐらいだ。
でも……。
確か……。
あの小悪魔が……。
クラスメイトA「へちるちゃん、どうかしたの?」
クラスメイトB「桜子さんに用事があるの?」
へちる「え……そ……その……」
クラスメイトの言葉に少し怯えた雰囲気のへちる。
別にいじめられてるといった様子はなくて。
慣れてない人には誰にでもこんな感じななんだろうなって……。
へちる「う……うん……」
へちる「えっと……ちょっと……し……知り合いっ……」
クラスメイトA「桜子さんとえちるちゃんって知り合い?」
えちるではなくて桜子に聞くクラスメイト。
きっとそうした方が話が早いと思ったのかもしれない。
桜子「うん」
桜子「少し前からの」
クラスメイトB「そうなんだね」
へちる「だから……一緒に……ご飯……」
へちる「食べたいなって……」
たどたどしい言葉だけど。
十分にへちるの言いたいことは伝わったし。
桜子はそれがありがたいとも思った。
へちるとの方が静かに過ごせそう……と。
桜子「分かった」
桜子「一緒に食べよう」
桜子「えっと……」
桜子「そういうことだから」
桜子「誘ってもらえて嬉しいけど……」
クラスメイトA「ううん」
クラスメイトA「大丈夫、大丈夫」
クラスメイトB「えちるちゃんが自分から誘うって珍しいしね」
クラスメイトB「もう2人は仲良かったりするの?」
桜子「うん」
へちる「う……うん……」
桜子ははっきりと。
へちるはおどどと。
それぞれ返事をした。
やっぱりこの子が魔法少女だよね。
事前に教えてもらった容姿や話し方が同じで。
それに……。
私が同じ魔法少女だって気がついたから。
こうやって話しかけてくれたんだなって。
へちるは見るからに人見知りで。
そういうことがとても苦手そうなのに……。
桜子「もしおすすめの場所があるなら」
桜子「そこを教えてくれたら嬉しいな」
へちる「う……うん……」
へちる「静かな……とこが……ある……よ……」
相変わらずぎこちなくしゃべるへちる。
でも、いい子なのはなんとなく分かって。
この子と仲良くなれたらいいなって。
桜子は思った。