01
魔法少女は夢を見る。
長く穏やかな夢を見る。
みんなが元気になれるように。
みんなが笑顔でいられるように。
みんなが永遠の幸せの中にいられるように。
心から祈りながら。
魔法少女は夢を見る。
第一話「魔法少女が見ている夢」
えちる「ねぇ……」
えちる「朝……だよ……」
いつもの朝の時間。
いつものように。
えちるは幼馴染を起こす。
遠慮がちに体を揺らして。
えちるは起きるのを待っている。
えちる「……起きない……」
いつもはすぐに起きてくれるのだけれど。
今日はなんだか様子が違って……。
穏やかな表情で。
あさひはずっと眠り続けている。
えちる「もうすぐ……起きないと……」
えちる「遅刻……しちゃう……」
えちる「…………」
それでもいいとえちるは思う。
こうやって2人でいるだけで。
えちるは幸福を感じるから。
えちる「ずっと……寝てるなら……」
いっそ……このまま……。
自分もベッドに入って……。
幼馴染だからいいよねって……。
恋……人……だから……。
そう考えたところで……。
……
…………
…………‥
あさひ「起きるのが遅くなってごめん」
えちる「ううん……」
えちる「大丈夫だよ……」
少し以上の寝坊。
急いで準備を終わらせたおかげで。
こうやってのんびり歩いて登校できる。
今日もいい天気で。
気温もちょうど良くて。
思わず2人は笑みを浮かべてしまって。
えちる「……昨日は……眠るのが……遅くなったの……?」
あさひ「そういうわけでもないんだけど」
実際のところ夜ふかしをしたわけでもない。
だいたいいつもと同じ時間に寝て。
別に眠れなかったというわけもなく……。
あさひ「ただ……」
えちる「……?」
あさひ「何か夢を見てたような気がする」
えちる「夢?」
あさひ「うん」
あさひ「夢はいつも見るんだけど……」
えちる「そう……だよね」
あさひ「いつもの夢とは違うような……」
えちる「……怖い……夢……とか?」
あさひ「うーん」
あさひ「そういうのでもないんだけど」
見ていた夢を思い出す。
ふわふわとした。
なんだかぼんやりとしているけれども。
誰か……自分の隣りにいて……。
でも、それは……。
横にいるえちるじゃなくて……。
あの子は……。
あの少女は……。
「わたしのことは忘れて」
「幸せになって」
……
…………
………………
あさひ「思い出せないけれど……」
あさひ「何か……大事な夢だったと思う」
あさひ「覚えてなくて言うのも変だけど」
えちる「……ううん」
えちる「覚えてなくても……」
えちる「大事なことって……あると思う」
えちる「…………」
えちる「わたしも……最近は……」
えちる「夢を……見る……から……」
えちる「よく……覚えてないけど……」
えちる「見てるのは……覚えてる……」
あさひ「そうなんだな」
言いながら。
あさひは嬉しい気分になる。
少し前まで。
えちるは不眠症だったから。
確かあれは……。
どれぐらい前だったか。
夢と同じように不確で。
少し前な気がしたけれど。
ずっと昔のように思えて……。
えちる「……どうかしたの?」
あさひ「ううん」
あさひ「何でもない」
あさひ「変な夢を見て頭が働いてないんだと思う」
えちる「寝すぎると……そうなっちゃうよね……」
あさひ「休日とかな」
えちる「あさひくんは……昼まで寝てるから……」
あさひ「起こしてもらわないと起きれないからな」
えちる「威張って言うことじゃない……」
あさひ「それもそうだな」
えちる「でも……」
えちる「あさひくんを起こすのは……好き……」
あさひ「俺もえちるに起こしてもらえて助かってる」
あさひ「やっぱり朝は苦手だからな」
……あれ?
……そうだっけ?
あさひは疑問に思う。
確か俺は苦手じゃなかったはず……。
そしていつも……。
……
…………
………………
やっぱり寝すぎて調子悪い。
そう結論づけた。
あさひは昔からえちるに起こしてもらったし。
えちるは昔からあさひを起こしている。
それはずっと変わらないことで。
ずっと変わらないでいて欲しいと思ってること。
あさひ「いつもありがとう」
えちる「ううん……」
えちる「……好きでやってることだから……」
今日も並んで歩く。
今日もえちると話ができる。
それが分かればいいと。
あさひは思って。
えちるもきっと。
同じように思ってくれてると分かって。
何もなければ。
永遠にこの時間が続くと。
あさひはなんとなく分かった。