表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集・散文集

十一時

作者: Berthe

 起きると十一時で、入浴後髪をかわかしコーヒーメーカーに珈琲を抽出させながらテーブルを拭いてカーテンをひらき見ると薄暗いほど曇っている。

 そろそろぽたぽた来そうだけれど雨は好きなので気分はかえって上がり、淹れた珈琲のお供に読みかけのエッセイを手にするも一章読むうちにはもう飽きて、これまで幾度か読み返した短編小説に時を過ごすうち暖かい珈琲も冷めている。珈琲は熱いほど暖かなのが好みなので香気が消し飛ぶのも厭わずレンジにあたためなおすと、やっぱり冷めた珈琲よりも数段美味しく満足して本をめくるうちふと置時計に時間をみれば午後も二時。

 平日なら出がけに軽く食事を摂るのが常だけれど、休みの今日は昼を越してなお何も摂らずに済むのがかえって嬉しい。一体動物は食べるために働く。猫などは食べるため起きる。あとは寝そべり丸くなり香箱をつくり足をのばし毛づくろいし時々遊んで一日を過ごす。人間は働くために食べる。さまざまに動物と人間の相違はあろうけれどこれこそ第一のものではないだろうか。朝食や昼食を食べて仕事に赴く。義務としての食事。夕食だけはそのくびきを離れておのずと朗らかに動物のこころにもどって一息つけるけれど、しかし夕食後の仕事も珍しくない今ではその時ですら人間のこころでいることも稀ではない。お腹がすいたら食べ、すかないなら食べない。この贅沢が許されるのは休日だけで、それを贅沢と感じてしまうのは人間的な欲望よりも動物的な欲望の方がかえって勝っているからだろうか。どうだろう。わからない。

 お腹はすかないので二杯目の珈琲をつくって味わいながら、とくに贔屓のチームなどない野球中継に身を任せつつ時折本をめくって、さらに無為に時を移していた折から忽然雨音が冴え響いた。

 すぐとベランダに出て右に道路の方を見ると、こなたでは軒下を幸いコンクリートの傘に頭上を守られているのに反して、地面を跳ねる豪雨。木々を傾ぐ強風に食料品店からの帰りとおぼしき母親とその娘が髪や衣服の濡れ乱れるにまかせて、食料品袋だけは守ろうと胸にかき抱きながら早足に歩道を歩くうち樹木の木陰に身をよせる。風雨は依然勢いをとめず、樹木にそれを遮る力はない。

 娘は母親を見上げ、母親は娘を見下ろして、何の益もなさそうなことをそれでも慰みに語り合っている様子。雨はやまない。

 と、ざあざあ降りしきる雨が俄にぽつりぽつりと響きを変え、なお晴れ広がりゆくさまに母子は乗じて樹木を離れ歩きだし忽ち眼界を過ぎた。部屋に入り冷めた珈琲に口をつけるとふいに梅雨の生暖かい冷たさを覚えてしばらく啜っていたものの、それも気まぐれ、レンジに立った。

読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ