私が生まれて12年。いろいろあったのです 2
リカルドと婚約をしてから半年が過ぎた。
あと数ヶ月で彼は学校へ行くため領を離れて行くことになる。
騎士を目指していると言うこともあって、誠実な人柄だった。この人となら前世で得ることがなかった幸せを感じる事ができるかもしれない。そう思わせてくれる人だった。
「リカルド様だわ!」
屋敷に来る事を知っていた私は、門が見える部屋で待機していた。
恋愛なんて!とバカにしていたが、自分に自信がなくて、傷つきたくなかっただけなのだ。リカルドならば、この弱い自分を受け入れてくれるのではないか?むしろ、将来夫になる事が決定しているのだ。安心しかないのではないか。そう至るまで時間はかからなかったと思う。
出迎える為に玄関を出ると、新しく採用されたメイドをリカルドが抱きしめていた。
周りに散らばる園芸道具。
状況を察するに、片付けをしていたメイドが転倒しそうになった所を助けた。という場面だろう。
その2人の姿は、乙女ゲームに例えるならば出会いのシーンのスチルにピッタリだった。
身分差はあれどもこの世界の住人は美形ばかり。
もしかしたら、この2人は何も感じていなかったのかもしれない。
だが、私の中でそれを見た瞬間にパーン!と何かが弾けたのだ。
この世界は私が憧れていたロマンスの世界。
前世が干物女子だった私が愛されるのは、肩書きと美貌。中身なんて誰も見てはくれない。
ならば、私の目の前で恋が始まった2人を応援して、理想の結末へ導くのが私の務めなのでは?
身分差のある娘が、令嬢から婚約者を奪いとる!なんて王道なストーリー!!素敵すぎるわ!!
婚約者の屋敷で働くメイドに手を出すのは、道徳的には無いと思うけれど、ここはロマンスの世界。始まりは不誠実かもしれないけれど、恋に燃える2人にはそれもスパイスになって良いのではないかしら。
リカルドと婚約してから半年しか経っていない。お試し期間といっても良いだろう。まだ仮契約期間だ。
これが成人間近だというならば、家の事も考えて破棄まで持って行くことは難しいだろう。
今ならばまだ大丈夫。
憧れの王道ストーリーをハッピーエンドに向かわせるべく、少しだけ恋をしてもいいかもしれない。と思わせてくれたリカルドへの淡い想いを私は簡単に捨てた。